第10話 修行の成果

「アリス、手加減は無しだぞ?」

「もちろんです。ルクス様こそ、手加減無用ですからね。」

「わかった。お互い全力だ。」

「はい!」


あれから一か月後。

俺はツルギに、アリスはウインガルに修行してもらった。

言わば今日はその成果の発表会、模擬戦だ。

決闘で使ったドームに騎士団の連中やツルギ、ウインガルを観客として招いていた。

模擬戦のルールはシンプル。

相手を戦闘不能にするか、相手が降参を申し出るかの二択だ。


「じゃあ、私から行きますね!」

「おうっ!」

アリスの姿が消える。

影潜りだろうが今の俺には意味がない。

「はっ!!」

「甘い!!」

自分の間合いに入った敵を神速の拳で叩き潰す技、『居合打ち』だ。

これはツルギの神速の抜刀術、『居合切り』の応用技になる。

しかし、俺が殴ったアリスが靄になって消えた。

「分身!?」

「本命はこっちです!鷹爪刃!!」

振り返ると鷹の形をした風の刃が二つ、俺に襲いかかってきた。

「くっ!ハリケーンナックル!」

風の拳で応戦するが相殺するにはまるで魔力が足りない。

「ぐはぁっ!!」

少し弱めたとはいえ、直撃を受ける。

「よしっ!」

「ヒール!!」

傷は瞬時に塞げるが気の緩みは直さないといけない。

「せっかく攻撃当てたのに...余韻に浸らせてくださいよ...。」

「だいぶ回復量も上がったからな。切断でもされない限りは復活できそうだよ。さぁ、気を引き締めて第二ラウンドと行こうか!」

「じゃあ、この技から。黒霧!」

ドームの中が黒い霧で満たされる。

「心眼。」

俺は目を閉じて音に意識を向ける。

ステソスコープの強化版のこの技、かなりの集中力を消費するが周囲の音、空気の流れ、魔力の流れを感知できる。

「風塵乱舞!」

黒い魔力の霧の向こう側から無数の魔力が探知される。

それが刃の形をして俺に襲いかかってくる。

全方位からの一斉攻撃を全てかわしきるがそれだけでは終わらなかった。

まるでブーメランのようにかわした刃が戻ってくる。

もちろんアリスから放たれる刃も飛んでくる。

ここで使うのはばかられるが使うしかない。

「ドレイン!」

足元に魔法陣が浮かび上がり、魔方陣内に入ってきた刃を吸収する。

「捕らえました!風縛陣!」

「なっ!?」

ドレインに気を取られている隙に風の魔力で形成された檻に閉じ込められた。

「風塵乱舞で動きを封じながらドレインを発動させて気を反らせた隙に捕らえる。そして、確実に打ち砕く!」

アリスの足元に風と闇の魔法陣が同時に浮かび上がる。

「旋風と暗闇の双頭を持つ獣よ、我が名に従い、敵を討ち滅ぼせ。闇風のオルトロス!!」

「ぐおおおおおおおっ!!!」

魔力で作られた双頭の馬鹿でかい狼が顕現し、こちらに向かって走ってくる。

「チェックメイトです!ルクス様!」

「くそっ!逃げ場がない...。」

「があああああああっ!!」

そして俺は檻ごとオルトロスに飲み込まれた。

風の魔力による切り裂き効果と闇の魔力による精神を喰らわれるようなダメージが重なり、想像を絶するダメージとなる。

「がはっ...。」

込み上げてきた血液を吐き出す。

身体中も傷だらけで血液の流出が止まらない。

ここで俺のスキル解放の条件をクリアした。

「超回復。」

魔力が体中から溢れてきて完全回復を遂げる。

「それ、反則ですよ...やっぱり...。」

アリスが呆れたように笑う。

「実はな、超回復中にしか使えない制限付きのスキルも修行で身につけた。今から見せてやるよ。唸れ筋肉!次元を超えて打ち砕け!居合打ち・絶!!」

「ぎゃうっ!!!」

「えっ!?」

アリスの隣にいるオルトロスを消滅させる。

「超回復中にしか使えない俺のスキル。居合打ち・絶だ。距離を関係なく神速の拳を放つことが出来る。さらに拳にはドレインの効果も付与してある。...なかなか反則級だろ?」

「は、はは...。もう私に勝ち目ないじゃなあですか...。降参です。」

アリスが武器を捨てて両手を挙げる。

「勝負ありましたね。ルクス様の勝利です。」

ウインガルが告げると会場中が歓声に沸く。

俺とアリスはお互いに握手を交わす。

「アリス様、お見事でした。戦略では十分にルクス様を圧倒できていましたよ。」

「まさかあんな反則技を持ってるなんて予想外過ぎます...。」

しょんぼりしているアリスをウインガルが微笑みながら慰める。

「ルクス、さすがだね。僕が教えたのは居合切りの応用の技だけだったけど自分で魔力の向上と心眼を獲得したのはさすがだよ。君たちなら国外にいるハグレにも負けないだろう。だから自信を持って旅を続けるといいよ。」

「ツルギ、ありがとう。命の恩人だし師匠だし、本当にお世話になったよ。」

ツルギも優しく微笑む。

俺たちの修行が一段落した瞬間だった。


それから俺たちは宿屋で一泊した後、帝国を後にした。

門を出ると大平原が広がる。

「アリス、次の目的地はどうする?」

「そうですね...。獣人と亜人の国、ミレイ共和国を目指すのはどうでしょう?比較的温和な風土らしいので旅人も受け入れてくれるそうですよ。それに亜人しか使えない補助魔法を見れますし、なにより聖なる泉と精霊王が宿ると言われている精霊樹もなにか私たちの力になるかも知れませんし。」

「オッケー。とりあえずミレイ共和国に向かってみようか。」

「はい!」

俺たちは大平原を横断し、ミレイ共和国を目指すことにした。

移動中、ハグレが召喚したと思われる魔物や魔族から襲撃を受けたが難なく撃退できた。

オークナイトクラスの魔物なら一撃、デーモンクラスの魔物でもノーダメージで打ち倒せるようになっていた。

ステータスとしては、


ルクス

クラス:プリースト

スキル:心眼、メガヒール、ワイドヒール、ドレイン、ハリケーンナックル、居合打ち、超回復、居合打ち・絶(超回復中のみ使用可能)


アリス

クラス:シャドウ

スキル:隠密、メガウインド、鷹爪刃、風塵乱舞、風縛陣、双獣オルトロス、メガダーク、黒霧、影潜り


となっており、俺はヒーラーからプリーストへ、アリスはアサシンからシャドウへクラスチェンジしていた。


2日ほど野宿もしながら歩いたところで段々と平原から森林に変わっていく。

そこでトラブルに出くわした。

馬車を引いている行商人らしき大きな荷車を引いた一行が謎の一団に取り囲まれていたのだった。

「や、やめてください!我々は行商人ではございません!」

その中の一人の男が怯えながら声を発する。

よく見ると全員、頭に獣の耳が生えていて背丈が小さい。

「あれは亜人ですね。獣人と人間とのハーフで俊敏さに優れていたり、手先が器用だったりします。中でも特徴的なのは補助魔法を使えることですね。身体強化や魔法強化、状態異常の回復などは亜人族しか使えないです。」

こんな状況でもアリスの解説は丁寧だった。

「解説ありがとう...。さぁ、助けるか。相手は明らかに戦闘慣れしてそうな連中だ。気を引き締めて行くぞ。」

「分かりました。」

アリスが姿を消し、俺はゆっくりと近づいていく。

「行商人じゃないにしろ、そこの積荷は置いていってもらおうか。こっちも生活がかかってるんでな!」

謎の集団...というか明らかに盗賊の類いが剣や斧などそれぞれに武器を取り出す。

「ひいっ!?」

「パパ!こんな奴ら私がやっつけちゃうよ!」

一人の亜人の女の子が前に出る。

猫のような耳が特徴で金髪のショートヘアーは俺のドストライク...は置いといて、屈強な男たち相手にはさすがに無理だろう。

そう言っている間にアリスが敵の背後から攻撃を食らわす。

「ぐはっ!?」

「何者だ!!」

亜人たちを囲んでいた集団が一斉にアリスを取り囲む。

「通りすがりの冒険者だよ!!」

「ぐぎゃっ!」

今度は俺が背後から拳撃を浴びせる。

一人が倒れた。

あとは四人ってところか。

剣が二人、斧が一人、魔術師が一人。

「お前らこそ何者だ。」

「天下のハグレ様だよ!死ね!」

「メガウインド!」

「ぐはぁっ!!」

剣士が一人吹き飛ばされる。

「ようやく会えたな、ハグレ共。」

「あの時のお返し、ここでします。」

「あの時?なにワケわからないこと言ってやがる。ぶっ飛ばしてやる!!」

「黒霧!」

「なっ!?」

辺りに黒い霧が発生する。

「アリス、各個撃破だ!」

「はい!」

俺が剣士二人、アリスが斧使い一人を即座に倒す。

「く、くそっ!アンチダーク!」

魔法使いの相殺魔法により霧が晴れる。

「貴様ら、もう知らんぞ...。ハグレにとって任務の失敗は死と同義だ!...ぐはっ!」

「なっ!?」

「えっ!?」

魔法使いが懐から短刀を取り出し、自分の心臓を貫いた。

倒れて血が広がるが奇妙なことが起きる。

血が魔法陣の形を刻み始めたのだ。

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