第9話 その意味とは
指定された場所に行くと、既にウインガルが待っていた。
「待たせて申し訳ないです。」
「いえいえ。ルクス様とアリス様、改めまして私が四聖剣の一人、風帝のウインガルです。どうぞよろしくお願いいたします。」
深々とウインガルが頭を下げる。
それにつられて俺達も頭を下げる。
「この度はドレットの勝手に付き合わせてしまって申し訳ありません。力量や度量は申し分ないのですが好戦的な所がたまに傷でして...。」
小さくため息を吐いている。
「いえいえ、俺も自分より格上の相手と戦えたし満足ですよ。寧ろ、ドレットには感謝してます。」
頑張ってフォローしてみる。
「そう言ってもらえると本当にありがとう救われます。これから私たち四聖剣が集まる場所に移動します。今日は私とツルギしかいないので安心してください。」
「わかりました。ここから遠いんですか?」
「距離は遠いですが一瞬です。」
「?」
俺とアリスが顔を見合わせる。
すると周囲に風の魔力が渦巻いていく。
「!?」
「風転!」
物凄く強い風に煽られても吹き飛ばされるような感覚に目を瞑る。
次に目を開けた時、目の前に広がるのは豪華な宮廷のような場所だった。
「い、今のは...?」
「風の魔術における転移魔法です。と言っても無理矢理に場所と場所を繋ぐ門を開いたような力技ですが。」
クスッと笑いながら説明しているがとんでもない技を使っている。
騎士と言いながら魔法にも長けているとは。
「ここはどこなんですか?」
「ここは私たち四聖剣が集って話し合いをしたり、修行をするための場所で皇帝陛下のお城の一角です。こっちです。」
ウインガルが先導して歩く。
暫くすると大理石のような煌めく石材で覆われた小さいドーム状の建物が見えた。
「あれが通称『剣の深宮』です。ツルギは大方あそこか国外でハグレ狩りをしています。」
「ハグレ狩り...。」
聞き慣れないが予想のつく言葉。
そして嫌な響きの言葉だ。
「...さぁ、ツルギに会いましょうか。」
剣の深宮に付いているドアをウインガルがノックをする。
「ウインガルだね。入っていいよ。」
中からツルギの声が聞こえたのを会いずに俺たちは剣の深宮に入った。
中は薄暗くひんやりとしていて特に生活に必要な物等はなにもない空間にツルギが一人立っているだけだ。
しかし、なによりも奇妙だったのは部屋中にいくつもの奇っ怪な図形が描かれていることだった。
「ウインガル、少し待っててね。もう少しで終わるから。」
「はい、修行お疲れ様です。」
奇っ怪な図形が一斉に光り出す。
すると、そこから下級の魔物が一斉に飛び出した。
「召喚術!?」
アリスが声を上げる。
伝わってる術式とまるで同じ作動方法だ。
「居合切り。」
まただ。
抜刀する瞬間も見れぬまま魔物たちが真っ二つになる。
「居合切り、絶。」
そして自分の間合いの外にいる魔物ですら動かずに切りつけた。
「お見事です、ツルギ。」
「ありがとう、ウインガル。そして、この前ぶりだねおふたりさん。」
にっこりと笑ってこちらを向く。
「ツルギ、俺はルクスでこっちがアリス。この前のお礼をどうしても言いたくて会いに来た。本当にありがとう。命を救ってくれて。」
「私からも。ルクス様と私を救ってくださいり、ありがとうございました。」
2人揃って深々と頭を下げた。
「気にしないでいいよ。頭を上げて?僕が救いたいから救っただけだ。それにハグレと召喚された魔物を殲滅するのがね。」
ツルギは優しく微笑みながら温かい声で俺たちに言う。
俺たちは頭を上げる。
「ツルギ、ルクスはドレットと戦って一撃食らわせたんですよ。すごいでしょう?」
ウインガルの言葉にツルギが少し目を大きく見開く。
「ほぅ...。あの鎌鼬にねぇ...。」
ツルギが俺を見据える。
「鎌鼬?」
「ドレットの呼び名です。鎌鼬のドレット。私の右腕であり、剣となる者です。」
ウインガルが微笑む。
「ルクス、君とアリスは何のために旅をしているんだい?」
「えっ...。」
ルクスの質問に言葉を詰まらせる。
そう言えば、転生する前にあった神(?)からも明確な理由は聞かされていなかった。
咄嗟にアリスの方を見る。
アリスは俺の補佐、俺より先にこの世界に存在している。
少しでも情報が貰えれば。
「その質問、私が答えましょう。ルクス様は来たるべき災禍からこの世界を救うために喚ばれた存在です。」
アリスが非常に簡潔に伝える。
「喚ばれた?誰にですか?」
ウインガルが眉をひそめる。
「お答え出来ません。これは例え私が死ぬことになったとしてもです。」
「僕達に害があるものじゃないかだけ確認したい。それと、その災禍とやらを乗り越える為にはルクスの力が必要なのかい?」
ツルギがいたって冷静に尋ねた。
「世界の秩序や平和を守るためですのであなた方はもちろん、この世界のいかなる人間、亜人、獣人にも害はありません。そして、ルクス様は鍵となる人物です。これが私の答えれる限界です。」
ウインガルとツルギが顔を合わせて何やら目で会話している。
俺は呆然としていた。
自分にそんな役目があったなんて知らずに旅をしてきたのが愚かだったのだろうか。
確かに俺には自分と同程度がそれ以下の生物に対しては種族や属性、スキルが見えたり、最初からヒールやドレイン、ステソスコープといったスキルが備わっていたりした。
それも全部転生のお陰、と割り切っていたが神と呼ばれるあの存在が災禍を退けるために俺をこの世界に送り込んだとしたら少しは納得がいった。
「とても信じ難い内容ですが、この国にも火の粉がかかる確率が少しでもあるとすれば、帝国を守る四聖剣の一人としてあなた方に協力する必要があります。」
「そうだね。一人の人間が命を張ってでも主張していることを信じないほど僕もウインガルも薄情じゃない。」
2人の反応に少し安心する。
この場で殺されてもおかしくないような内容だったから。
「私、いいこと思いつきました。」
ウインガルが声を挙げる。
「どうしたんだい?」
「少し政治的な話になりますが、この方たちの言っていることが本当だとしたらルクス様とアリス様を帝国の味方としてついてきだされば心強いと思うのです。だから、ツルギがルクス様に。私がアリス様に稽古をつけるというのはどうでしょう?その代わり、帝国に対して刃を向けないというのが条件ですが...。」
「そうだね。僕も大方賛成だ。2人はどうかな?」
俺はアリスを見る。
アリスがゆっくりと口を開く。
「ひとつの国に肩入れをするのはあまり望ましくありません。ですので絶対忠誠は誓えませんがよろしいですか?もちろん、帝国となにかトラブルがあれば話し合いの機会を設けたいと思います。」
これはかなりごもっともな意見だ。
あとは向こうがどうでるか...。
「...分かりました。その代わり、修行中や修行後に帝国に明確な攻撃を行おうとした場合は四聖剣の名の元に討伐させていただきます。私たちからの条件はこれになりますがよろしいでしょうか?」
俺はアリスに向かって頷くとアリスも頷いた。
「こちらからもぜひお願いしたいです。」
「よろしくお願いいたします。」
2人でぺこりと頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
「よろしくね。」
そして、2人と握手を交わした。
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