第8話 決闘
例えるならギリシャのコロッセオだろうか。
石造りの巨大なドーム状の建物が決闘場所だった。
「ドレット団長ー!!やっちまえー!!」
「挑戦者さんよー!なるべく粘って楽しませてくれよなー!!」
騎士団の野次馬たちが客席から歓声を飛ばす。
対面にはドレットが堂々と立っている。
すごい闘気と威圧感だ。
「兄ちゃん、逃げずに来やがったな。名目としては決闘になってる。俺も兄ちゃんも武器と魔法の使用を許可している。さぁ、正々堂々と...。」
ドレットが双剣を構える。
「殺り合おうぜ!!!」
開幕早々、風の刃が俺を襲う。
俺は難なく避ける。
見ると、ドレットの周りには2つの竜巻が出現している。
「デュアルスイーパー。こいつを止めねぇと俺に傷一つ付けられねぇぜ!!」
風の刃が竜巻から繰り出される。
それをかわしてドレットとの距離を詰める。
「やるな、兄ちゃん。だが俺には触れられないぜ。」
竜巻がドレットを守る。
「ドレイン!!」
「なっ!?」
竜巻の1個を奪い取る。
「スイーパー!」
こちらも竜巻を展開し、ドレットの竜巻を相殺した。
「魔力の直接吸収か...。面白いじゃねぇの。いまの様子だと効果範囲はすげぇ狭いみたいだな。」
ドレットが双剣を構え直す。
「俺に触れて吸い取ってみな!!」
「っ!?」
瞬速からの双剣の剣劇にガードが追いつかず幾つか切創を浴びてしまう。
「ご自慢の肉体に傷が付いちまうぜ!」
風の刃を無数に空中に出現させる。
「なっ!?」
「俺の双剣とこの無数の風の刃による連続攻撃、ラッシュストーム。大丈夫だ、致命傷だったとしても凄腕のヒーラーが瞬時に回復してくれる。だから...安心して一回死にな!!」
「ぐぁっ!!」
先程の剣劇にプラスして風の刃が俺を襲う。
もう目で終える速度、手数ではない。
痛みの中で俺は考えるが、ここはもうこれしかない!!
「うおおおおおお!!!マッスルガード!!!」
「なにっ!?」
双剣の攻撃をあえて前腕筋で受け止めた。
刃が皮膚と筋肉を切り裂いたところで止まる。
「ドレイン!!...からのヒール!!」
ドレインで周囲の風を吸収した後、それをそのまま傷の治癒の力に当てる。
十分とは言えないまでも戦えるくらいには回復する。
「はは...ははは...はははは!!面白れぇ...兄ちゃん、本当に面白れぇよ!!」
ドレットが楽しそうに高笑いする。
「回復出来るからって腕切らせるやつがあるよ...。肉を切らせて、肉治すってか?」
「ドレット...。あんたは本当に強い。だから俺も全力で行かせてもらうぜ。」
俺は拳に風の魔力を込める。
「おう、全力で来い。余裕では叩きのめしてやるからよ!!」
「唸れ筋肉!!猛れ暴風!!トルネードナックル!!!」
拳から放たれた暴風がドレットを襲う。
「風使いの俺に風で挑むなんてマジの直球勝負じゃねぇか。俺もちゃんと打ち返してやるからな。ギガウインド!!!」
ドレットの双剣から膨大な風の魔法が放たれる。
さっきのドレットから吸収した魔力を合わせているとはいえ、やはりギリギリの力量だ。
さっきまで塞がっていた傷から血が吹き出す。
「ぐぅっ!!」
「おいおい兄ちゃん、このままだと体が持たねえぜ?俺はまだまだ余裕だがな!!」
「!?」
ドレットの魔力が更に強まる。
それに伴い、俺の魔力が相殺されて余った魔力の破片が俺に襲いかかる。
「ぐあああああああっ!!!」
体中を引き裂かれる痛みと自分自身への無力さを味わいながら俺の体が地に沈む。
「もう終わりか?兄ちゃん。」
ドレットの声を聞きながら、俺は残った魔力を治癒に回す。
「降参しな。もうヒールじゃ間に合わねぇ。」
「まだだ...。俺はまだやれる...。」
ギリギリのところで立ち上がる。
「そうか。じゃあ、トドメを刺してやるよ。安心しな、お前より優秀なヒーラーが生き返らせてくれるさ。」
瞬速で俺に駆け寄り、双剣を振りかざす。
俺はとっておきをここで繰り出すことにした。
「超回復。」
そう呟くと地面に広がっていた血が浮き上がり、俺の体に戻る。
それと同時に力がみなぎる。
「!?」
ドレットが距離を空ける。
「何が起こった...?」
「ドレット、超回復って知ってるか?筋肉の繊維が傷ついた時、休息を与えると倍くらいに筋肉が太くなる現象だ。これはそこからヒントを得て編み出したヒールの強化スキル。俺が一定以上のダメージを受けると発動し、常にヒール状態と身体強化の効果を得れる。」
「ほう...。ますます面白れぇ!!もう一回耐えてみな?」
先程のラッシュが再現される。
俺は致命傷になる双剣の攻撃だけを目で追い、あえて風の刃を受ける。
自動ヒールでこの程度の傷なら問題ないからだ。
そして、自動ヒールの回復力にドレットの集中力が向いた一瞬の隙にボディブローを叩き込んだ。
「ぐはっ!!」
はじめてドレットに攻撃をまともに食らわせた。
観衆は静まり返る。
「ぺっ...。いいパンチだな。さぁ、ここから本気出していくぜ...。」
口の中の血を吐き出したあと、今までと比べ物にならないレベルの魔力が集められてくる。
「おいおい、ドレット団長本気だぜ...。」
「逃げたほうがいいんじゃね?」
観客がザワザワし出す。
俺でも分かる、これはやばいレベルの技が放たれる。
「災風の龍よ、我が双剣に降りて敵を討ち滅ぼせ。...これに耐えてみな!ドラゴンブレス!!」
「アンチウインド。」
そして、さらに強大な魔力が風の龍を包み込み消滅させた。
「!?」
「ちっ...。風帝様、来てらしたんすか...。」
ドレットの視線の先には緑色の長髪をなびかせた美しい女性が立っていた。
「あなたに攻撃を食らわせるほどの御仁だとわかっただけで十分ではありませんか。」
「はっ。少し道楽が過ぎました。」
「申し訳ありません。ルクス様。」
その女性が俺の方に歩み寄ってくる。
とても高貴な雰囲気を漂わせている女性だ。
「えっと...はい...。」
「ドレットから名前と事情は少しだけ聞きました。私は四聖剣の一人、風帝ウインガル。ツルギに会いたいのですね?」
「風帝...四聖剣...。」
これが帝国最強の騎士の一人か。
ドレットも俺も、なんならこの場にいる全員をその気になれば瞬殺出来そうなほどの雰囲気が漂っている。
「ドレットとここまで戦えるお方はあまり見ません。特別にツルギと会わせて揚げましょう。アリス様と一緒についてきてください。外でお待ちしております。」
そう言うと去っていった。
「ルクス様!!」
コロッセオを出るとアリスが駆け寄ってきた。
観客席で見守っていてくれていたのだ。
「アリス、勝てなかったよ、俺。」
「そんなことないです!ルクス様ならきっとあの後も勝てたはずです!」
アリスが弁解してくれるが、やはり最後のドレットの大技をくらっていたら本当に生きていられたか分からない。
あれは俺がドレイン出来る量の魔力ではなかっただろう。
「ありがとうな。でもなんとかツルギには会えそうだな。あの時のお礼をちゃんとしないとだな。」
「はい!命の恩人ですからね。早速会いに行きましょう!」
「おう!」
俺たちはウインガルの元へ向かった。
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