第7話 グロリウス帝国

「すごい...。」

「確かに...。」

俺たちの目の前には白く聳え立つ巨大な壁があった。

壁の上には大砲が整備されており、ここが軍事力に注視した国だと言うことを思い出した。

検問が終わって入国するとそこに広がるのはアルトリーよりも近代化が進んだ街並みだった。

アルトリーが石畳やレンガ作りの歩道、家だったのに対してこちらは元いた世界でいうところのコンクリートに似た物質で作られている。

また簡易ではあるが車のような乗り物も走っている。

「アルトリーと比べてなんだかすごく賑やかな街ですね。」

「そうだな。とりあえず宿を探して...」

そこで門の方から歓声が聞こえる。

振り向くと多くの人が集まっていた。

「なんだろう。行ってみるか?」

「お祭りですかね...。」

俺とアリスは小走りで向かう。

観衆は老若男女が入り乱れて熱狂している。

「あ、あのこれはなんの集まりなんですか?」

「ん?騎士団の帰還だよ!しかも風帝様の第一師団だよ!!」

騎士団?風帝?

アルトリーでは聞きなれなかった言葉が飛び交う。

不思議に思っているとさらに歓声が高まる。

人々の間から見覚えのある白のローブを着た一団が隊列を成して行進していた。

ツルギとほとんど同じローブだった。

違うのはその一団のローブの背中には緑の竜巻が刺繍されていることだ。

全員がかなりの手練であると同時に先頭を歩いている男性がずば抜けて強いのが見ているだけでもわかった。

どうやらこれは国外にいる魔物やハグレの一部を掃討する作戦を終えた帝国の騎士団が帰還したとのことだった。


帝国には騎士団と呼ばれる軍事力が存在している。

その頂点に君臨するのは四聖剣と崇められる4人の騎士だ。

風帝、水帝、土帝、剣聖と呼ばれる帝国最高の騎士は剣聖以外、それぞれの兵師団を保有している。

剣聖と呼ばれる剣士のみが単独での行動を希望し、兵力を保有していないとのこと。

今回帰還したのは風帝が保有する騎士団の中でも一番の強さを持っている第一師団とのことだった。


帝国はこの世界において最も強大な軍事力を保有株式する国であり、兵力として魔法と武術を普及させた。

魔法は魔鉱石に自分の血を染み込ませることにより、素質と魔力量に応じて初級魔術なら使えるようにした。

武術は帝国式格闘術と呼ばれ、既による肉弾戦と概ねの武器を扱えるように訓練される。

この2点と度重なる領地改革、隣国である要塞都市からの協力による機械の技術提供によって莫大なる軍事力を保有することができた。


俺たちは情報収集と素材の監禁、武器の強化を行った後に宿に着いた。

「あのローブ、ツルギさんは帝国の騎士だったんですね。」

「あぁ、でも背中の刺繍はなかったよな?」

「本当ですね...。帝国の決まりではどの四聖剣の兵団か分かるようにローブの背部には刺繍が付いているはずなのですが...。」

そこで俺の腹の虫が鳴いた。

「あ、あははは...飯でもいこうか。」

「ふふっ。そうですね。」

俺たちは近くの酒場まで向かった。


酒場は今日の騎士団の帰還のこともあり、騎士や民間人で大いに盛り上がっていた。

俺とアリスは片隅の席に座って粛々と夕食を食べる。

その横の席に騎士団の人間が座る。

俺は頃合を見てツルギのことを尋ねた。

「すみません、帝国騎士団にツルギっていう人はいますか?」

その瞬間、テーブルの空気が凍りつく。

「あの...」

「お前、今の言葉取り消せ!!」

騎士の1人が抜剣する。

店内の視線がこちらに全て向いた。

アリスもローブの中に手を入れる。

恐らく手にはダガーナイフが握られているのだろう。

「あの、俺なにか悪いこと言いましたか...?」

とりあえず下手に出て様子を見よう。

アリスを見ると目の闘志はそのまま頷く。

「ツルギ様のことを呼び捨てにするとは何たる不敬!剣聖様であらせられるぞ!!」

剣聖...ということは四聖剣のメンバーだったのか。

そりゃ怒るわけだ。

「すみません、あまり国の事情とか知らなくて。」

「表に出ろ!剣聖様の名を汚すやつは粛正してくれる!!」

周りを見ても止める騎士がいない。

これはあんまりいい展開にならなかったな。

アリスと一緒に外に連れ出される。

「剣も持ってないのか?筋肉野郎。」

「あなた...それくらいにしてくださいよ。本当に殺しますよ?」

空気が凍てつくほどの殺意を騎士に向ける。

「ほう、腰抜け筋肉とは違って嬢ちゃんの方は俺に向かってくるか。彼氏がボコボコにされるのをそこで見ときな!!」

抜剣したまま俺に突進してくる。

急だったがなんとか目で追えた俺はギリギリで避けて拳を叩き込む。

「ぐっ!...やるじゃねぇか...。」

さすがは腐っても帝国の騎士か。

一発殴っただけでへこたれないのは見事だ。

まぁ、かなり手加減はしたんだけど。

「いま謝るなら、このことは黙認してやってもいい。お前も騎士団に知られたら面倒なんじゃないか?」

「脅してるつもりか?剣聖様への不敬の方がよっぽど面倒になるんだよ...お前がな!!」

懲りずにこちらに斬撃を浴びせてくる。

訓練された剣士というのは動きに無駄がなく洗練されている。

しかし、野生の魔物達とは違って無駄がないが故に予想外の動きをしないためかわすのは安易だった。

どこでケリをつけようか。

「でかい図体の割にちょこまかしやがって!炎よ、焼き払え!!」

「なっ!?」

いきなりの魔法の発動に魔力でガードはしたものの直撃を浴びる。

「ルクス様!?」

「手応えあり。ヘタレ筋肉にはいい薬になったな。」

軽度の火傷といったところなんだけどな...。

「ヒール。」

その一言で全快する。

「なに...。」

「帝国の魔法って言うのは大したことないな。それともお前が弱いだけか?」

「くっ...てめえだけは...殺すっ!!!」

さっきよりも数段早い刺突だがかわせないほどではない。

そして全力の突きだからこそ生じる隙に俺はしばらく立てないように取っておきを叩き込んだ。

「唸れ筋肉、搾取するために。ドレインナックル!!」

「ぐふっ!!」

土手っ腹直撃の拳、そしてその拳にはドレインの魔法をかけておいた。

「な、なんだこれ...力が入らねぇ...。」

騎士はその場で地に伏せた。

「騎士様があんま乱暴なことすんじゃねえよ...。」

「ルクス様!!さすがです!!」

アリスが走りよってくる。

「私ならズタボロに引き裂いてやってるところでしたが...。」

なんか怖いことも言ってるが。

「宿に戻るか。これ以上ここにいてもいいことなさそうだし。」

「そうはいかねぇなぁ。」

上方からの声に顔を上げる。

酒場の屋根の上には凱旋パレードの時に先頭を歩いていた人物がいた。

「あーあー、うちの団員を立てなくしちまいやがってよぉ。」

降りてきて団員の様子を見る。

「正当防衛だ。先に抜剣して襲いかかってきたのはそっちだぞ。」

「ま、事情は中の奴らに聞かせてもらった。うちの馬鹿どもが迷惑かけたみたいだな。」

お?意外と話が通じるやつなのか?

「本当ですよ。帝国騎士団で軍法会議にでもかけて欲しいくらいです。」

アリスが強気にでる。

「まぁ、起き上がれるようになったら俺が直接鉄槌を下してやるよ。それよりも兄ちゃん強いじゃねぇか。帝国式剣術を全部かわすなんて素人になかなかできるもんじゃねえぜ。」

「あ、ありがとう。」

なんか妙になれなれしい輩だ。

「俺は風帝第1師団の団長、ドレットだ。よろしくな。剣聖様のことを聞きたいそうだが...俺なら会わせてやることもなんとかできる。」

「本当なのか?」

「あぁ。だが、それなりの仕事になるから賭けをしないか?」

「賭け?」

嫌な予感しかしない。

「明日、訓練場で俺と模擬戦をして、俺に勝てたら場を整えてやる。どうだ?」

「俺が負けたら?」

ドレットはニヤリと笑う。

「俺の第1師団に入れ。そこの嬢ちゃんも一緒だ。近々大規模なハグレ狩りがあってな。人手が必要なんだ。鍛えてやるよ。」

「私たちは外部の人間ですよ?そんな人間を第1師団に受け入れるんですか?」

「兄ちゃんも嬢ちゃんもかなりの手練っぽいしな。足でまといにはならんだろ。どうだ、乗るか?」

「ルクス様、地道にツルギさんを探した方が早いですよ。旅の途中でもこの国の周辺でも会えますよ、きっと。」

アリスが俺に囁く。

確かにアリスの言うことの方が正しいし、面倒なことにならないだろう。

それに負けた方のリスクが大きい。

だが、俺の筋肉は戦うことを望んでいるように疼いていた。

「アリス、ごめん。ドレット、その提案乗った。」

「......。」

「おお!さすが兄ちゃん!じゃあ、明日の正午に訓練所...この通りの先にあるでっかいドームに来な。楽しくなりそうだ。」

「あぁ。じゃあ、また明日。」

俺とアリスはその場を離れた。


「どういうことですか?」

「アリス、ごめん...。」

ジト目で聞いてくるアリスに謝る。

「別に私はいいんですよ?ルクス様と一緒ならどこでも。ただ、軍に入ったりするのは...。」

「大丈夫だよ。絶対に勝つし、勝てなかったらなんとか懇願してみるよ。ごめんな、アリス。」

優しく頭を撫でると目を細める。

「絶対に買ってくださいね。私派ルクス様を信じてますから。」

俺は強く頷いた。

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