エピローグ ~the end~

意識の最奥の根底から浮かび上がってくるような不思議な感覚と共に、あたしはゆっくりと意識を取り戻した。

 目を開けば青白い天井が見え、むしろ視界には天井しか映らない。

 すぐにあたしは自分が病院のベッドに寝ているのだと認識した。

 やはり思い出すのはあの事故の瞬間。正直言ってあの瞬間しか直近の記憶がないのだ。

 けれど、どこか意識を取り戻したときよりも不思議な感覚と共に、とある世界でのとある2日間の記憶があたしの中にはうっすらとだけど確かにある。

 夢か現かは分からない。だけどその世界には昔の格好をしたあたしがいて、そこには大翔もいた。そう、黒っぽいフードを被った女の子も。

 そこであたしは大翔に告白し、なんやかんやありながら大翔からも好きって言われた。

 つまるところ、あたしは大翔と両想いになれた。ずっと望んでいた、待ち望んでいた関係に、あたしたちはなれたのだ。

 夢の中の話だってバカにされるかもしれないし、そんなの冗談だって笑われるかもしれない。けれどあたしはその出来事が夢のようだけど夢じゃないと確かに言えるだけの自信があった。妙なまでの実感があった。

 だから、あたしはあたしのこの気持ちとあの世界での大翔の言葉を信じよう。

 あの世界で私が大翔くんを信じたように。

「……ッ!」

 すると、突然扉が開く音が聞こえてきたかと思うと、何か重たいものが割れる音も続けて聞こえてきた。

 慌ててどうにか起き上がって目を遣ると、そこには一人の女性が驚いた表情で立ち竦んでおり、また床には割れた花瓶が水仙の花と共に散らばっている。

 重たい身体を無理矢理にも起こした徒労など感じる間もなく、あたしの口は開いていた。

「お母さん……」

「……美夜……美夜ッ!」

 お母さんはあたしの姿を目にすると、落ちた花にも花瓶にも目もくれず、一目散にあたしの元に飛び付いてきた。

「美夜ッ! 美夜ッ! 良かった、目を覚ましてくれたのねッ! 5日間も意識を失ってて、私もお父さんも本当に心配したわ。でも目を覚ましてくれた本当に嬉しい。ありがとう、美夜ッ!」

 一応あたしは病人だというのに気にも介さず肩を抱き締めてくるお母さん。不本意ながらも我ながら遺伝ってあるんだなと思ってしまう。ああ、夢でも今でも大翔の温もりが忘れられない。

 とそこで、あたしは大切なことを思い出した。あたしの私の、ホントのホントに大切な人のことを。

「ねえお母さん。大翔はどこにいるの? きっとあのバカ大翔のことだからすぐに会いに来てくれると思うの。ねぇ、大翔から連絡とか来てない?」

 一頻り喜びに耽った後あたしから離れてたぶんお父さんに電話をしているお母さんに、邪魔だと分かっているけどそう叫ぶように聞く。

 だって今のあたしにとって大翔の存在はそれこそ死活問題みたいなものなのだから。極論。

 そんなあたしの方をちらと見て、お母さんは通話をし終える。

 そして今頃大翔は何してるのかなぁなんてウキウキで考えてるあたしを向くと、どこか曇ったような表情を見せた。

 それを不思議に思いあたしが首を捻ると、お母さんは重苦しい口調で驚きの言葉を口にした。

「そっか、あなたは知らないものね。……巫女神さんのところの大翔くんなら、あなたと一緒に事故に遭って以来目を覚ましてないわ。何でもあなたと同じように酷い外傷も内傷も見られないのにずっと意識が戻らないそうよ。だから本当に、あなたが目を覚ましてくれて嬉しいわ、美夜」

 その信じられない事実にあたしは頭が真っ白になり、お母さんが何を言っているのか途中から全く分からなくなっていた。

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君と僕との初めての出会いにして運命の再会。それは朧月夜に裏側の世界で 松長市松 @matsuichi

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