第3話 関係解消までの間
「…ありがとう…」
みはるはほっとしたようにそう答えた。
「でも、僕たちのこの関係は二人だけで済まされるものじゃないことは判っているよね。今週末、地元に帰ってきちんとキミの口からうちの父さん母さん、山瀬のおじさんおばさんに話してもらうけど、いいかい」
「んっ…そうだよね…うん、わかった」
「それと…僕はきみの食事についての管理を任されることになっていたけれど、これはなかったことにしてもらうけど、いいよね」
「えっ……、あ、うん…そうだよ…ね…」
なんか今回の流れで一番動揺が感じられた。
食事のことは勿論だけど、僕たちが別れることでいろんなことに影響が出るという事にやっと気がついたのかもしれない。
「元々その約束で家賃を山瀬のおじさんに補助してもらうことになってるんだ。話し合いによっては僕は別の場所に引っ越すことになるからね」
「…私たち、元の幼馴染みには戻れないの…?」
「それをきみが言うのは間違っていると思わないか?」
「…ごめんなさい…でも、こんな他人みたいなそうちゃんは初めてで…」
「そうさせたのは誰だい」
「………」
マンションへの帰り道、今後のことについてみはるに話した。
「幸い僕たちの中学からうちの高校への進学者は僕たちしかいない。入学直後だから僕たちが付き合っていたことを知る生徒もいないはずだ。なのでそのことは誰にも言う必要はないだろう」
「あ、うん…」
「入学直後に彼女に他の男に乗り換えられたとか噂されたくもないんでね。まあ、きみが一目惚れしたあめがやくんにどう伝えるかは僕は関知しないよ」
「…あまがやくん、だよ」
どうでもいいよ。
「さっきも言ったけど食事は自分でなんとかして欲しい。僕が世話をする義理はもうないと思っているけど、まあ今月分の家賃補助の分の責任は果たせというなら考える」
「そんなこと、言わないよ」
「明日からは登下校も別々だね。あめがやくんに告白するなりされるなりはご自由にだが、週末に家族と諸々の相談をするまでは保留にはしておいて欲しい。特に部屋に連れ込むとかは勘弁してくれ。あの部屋、防音が完全という訳じゃないからね」
「ひどい…そんな言い方…」
「ひどいことをしたのはどっちだい」
「わかったよ…もういい…」
マンションのオートロックを解除してエントランスに入ると、みはるはたたたっと駆けてエレベーターに乗り、僕が乗るのを待たずにドアを閉じた。…うん、これでいい。
翌日からは一人で登校した。
その翌日には、同じ学年でもう告白したとかされたという噂がクラスに流れて来た。
「すごいよな、入学の翌日の放課後に呼び出して告白とかって」
「ふーん」
「なんだよ興味なさげに。高野、おまえは彼女とか欲しくないの?」
前の席に座る男子が振り向いて僕にそう声をかけた。山本だったかな?地味だけど普通…うん普通な感じの男子だ。軽くもないし陰キャでもない。
「無理して作りたいとも思わないからな」
「そういってるうちに高校の三年間は終わっちゃうんだぜ?彼女がいるといないじゃ高校生活の楽しみが雲泥の差に思えるからなあ」
「それはまあ否定しないな」
みはるとすごした中学時代は楽しかった。それは間違いない。胸にずきんと疼痛が走る。
「お前みたいな委員長ぽいの好きなマニアックな子いそうだし、すぐ彼女とか出来んじゃない?そしたら俺にも他の子紹介してよ」
「色々と異議を唱えたいがまあいいか…。まあそういう機会があればな」
噂によるとカップル成立には至っていないとのことだ。
僕とみはるは別に婚約している訳ではないけれど、親公認だったのだからそれをきちんと伝えて色々なことを全て解消してから付き合ってもらいたいと思う。
「なあ、お前どっか部活入るか?」
「うーん、わからんなあ。もしかしたらバイトとかしなくちゃいけないかもしれないし」
「あーそういう高校生活もいいかもなあ。バイト先で彼女とか作ったり」
「そればっかりかよ」
「まあ俺は漫研に入るつもりだけどさー」
「…ほう…漫研があるのか」
「お、興味有る?」
「まあお前が入るならどんなところか聞かせてくれ。それからだな」
ちなみにホームルームでクラスの委員長を決める際、皆の視線が僕に集まった。僕はそんなに委員長っぽいか?眼鏡のブリッジをくいっと押し上げると、教室のどこからか小さくキャッという嬌声が上がった。マニアックな女子は実存していたのか…?(結局委員長になった)
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