第4話 学級委員
同じ中学出身のクラスメイトもいないというのにここまで「学級委員長っぽい」と思われて実際に委員長にさせられるのはどうにも解せぬ。これで僕がとても学級委員長とは言えないようなパーソナリティの持ち主だったらどうするのか。まあそんなこともないんだけどね…中学時代もだいたい委員長だったし。
「それじゃ高野くん、あとは仕切ってもらって他の委員を決めちゃってください」
担任のアラサーくらいの女教師が丸投げしてきたのを受けて、教壇に立つ。
「ええと、なんだかわからないけどクラスの委員長を拝命しました高野です。ええと一年間ですか?そうですか。よろしくお願いします」
「よっ委員長!」
教室に拍手の音が響く。よくわからない合いの手はスルーする。
「それじゃ副委員長ですが、まあ女子からかな。ええと自薦でやりたい方はいるかな?」
ここでまた眼鏡のブリッジをくいっと押し上げると「ほう…」という女子のため息が聞こえる。自分がモテるのかはよくわからないが、そういう趣味の女子なら一緒に頑張ってくれそうだと思って敢えてそういう演出を試みるが、立候補は出なかった。
「押しつけを防ぐ為にあまり他薦で決めるというのはしたくはないけど…」
というと、クラスの何人かがちらちらっと特定の生徒の方を見ていた。廊下側、前から四列目の席の女子を見ているようだ。長そうな黒髪をポニーテールにまとめている。切れ長の目が印象的だ。イメージとしては剣道でもしているような感じか。
その女子は考え事をしているようで、ややうつむき加減で目の焦点は合わず、なにかぶつぶつと呟いている。
「
「…とに…なんで…」
後ろの席の友人らしき女子は注目を集めている女子の肩を叩きながら小声で彼女に状況の把握を促すが、その彼女は考え事に耽ったままで気がつかない。
「綾子っ」
「…え?ん?な、なによ智恵」
「ええと、同じ中学の子たちはみんな綾子にクラスの副委員長やったらいいんじゃないかって思ってるんだけど…」
「え、ああ…そうね」
そんな会話をして我に返った彼女はここで初めて教壇に立つ僕を見る。ふうん、あれがクラス委員長なのね、みたいなことを思っている顔だな。
「他薦はどうかとは思うけど、なんかみんなあなたが適任だと思っている風だから、ええと…」
「
「船越さん、どうかな、クラス副委員長をやってもらえますか?」
船越綾子は椅子から立って、ぐるりと教室を見回す。立ち上がると彼女が女性にしてはやや長身なのがわかる。ポニーテールは背中に届くほどの長さだ。体型は痩身。あまりメリハリはない。着痩せするタイプかもしれないのでわからないが。(そこでまた眼鏡をクイっと上げる僕)
「そうですね、他に希望する方がいないのなら、私が勤めさせていただきます」
「ありがとう。よろしく船越さん」
「こちらこそよろしくお願いします。高田さん」
「高野、高野颯太だ…」
彼女が黒板にクラス委員の一覧を書き、僕の仕切りでサクサクと委員を決めていく。中学の時にみはるが副委員長だった時は、話が脱線しがちでサクサクとは行かなかったなあ。それでも求心力があったのでクラスは良くまとまっていたが。
「お、もう全部決め終わったんだな。手際が良くていいねえ…ってもうロングホームルームも終わりの時間じゃないか。それじゃ今日はここまでだね。お疲れさーん」
メリハリもなにもなくロングホームルームは終わる。クラスメイトたちはどこの部活に入るか、仮入部するか、どこに寄り道して帰ろうか、などと会話に花を咲かせている。
「おっと、学級委員の二人は来週月曜の放課後に全クラスの委員長の集まりがあるから憶えておいて」
「わかりました」
「きみたちなら一年間上手くやってくれそうだから良かったよ。それじゃね」
そう言って担任教師は小さな身長に似合わないメリハリのある体に纏った白衣を翻して教室を出て行った。確か化学の教師だったよな。
「改めて、一年間よろしくおねがいします、高野くん」
「こちらこそ、船越さん」
彼女が握手のために差しのばてきた手を握り返す。彼女の手はひんやりと冷たく、剣道少女っぽいと思ったけれどそういう感じではない細く華奢な指だった。
委員会は来週か。
その前に僕は一度地元に帰らなくてはならない。両親と山瀬のおじさんおばさんに対して僕らの交際が終わったことについての報告があるのだ。
<僕は土曜の夕方に帰省して、両親たちと話し合いをする。キミは帰るなり電話でなり好きにすればいいが、きちんと伝えるべきことは伝えておいて欲しい。まずはキミの方から話をするのが責任というものだと思うので、よろしく>
スマホでみはるへのメッセージを送った。
<わかりました。わたしは昼過ぎに帰ります。責任をもって話をします>
そう返事が届いた。
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