第21話 幸せの選択肢

 ある日の放課後。



「海斗」



 授業が終わった途端、マナが俺の机に向かって、嬉しそうに駆け寄って来た。



 この世のものとは思えない絶世の美少女を、俺だけが独り占めしているため、



 男子生徒からは羨望と嫉妬の視線が、毎日毎日、矢のように突き刺さる。

 



 付き合い出してからもうすぐ一年経つというのに、この幸せには未だに、慣れる事が出来ない。




「今日は、どうしようか」





 彼女に聞かれた俺は、考えた。 





 それは、最近頭を悩ませる事案。





 暖かいし、広い公園を2人で散歩したい。




 図書室で本を読みながら、マナの寝顔を時々見ていたい。




 2人で、ショッピングがしたい。




 カフェで、ゆっくり話をしたい。




 彼女を家に呼んで、2人で一緒に、昼寝をしたい。







 …いやいや、それはマズイだろ、まだ。





 いくら何でも。







 …選択肢が多すぎる。







 マナは少し、意地悪そうに笑った。








「ほらほら。どうするの?海斗」









 俺は苦笑いした。









「とりあえず、出よう」







 どの選択肢を選んだとしても、幸せであることには変わりない。



 学校を出てマナと一緒に広い道を歩きながら、俺はある光景を目の当たりにした。
















「…………あれは」












 坂道を、ずっと上へと見上げた場所の、








 新緑の木々の中に浮かぶ、

 大きな桜の木が、いきなり目に飛び込んだ。



















 あの桜の大木だけがぽっかりと、

 女神のように微笑みながら、


 あの場所に、浮かんでいるように見える。









 可愛らしい花を美しく、

 満開に咲かせている。
















 あんな場所に、

 あんな巨木が、あっただろうか。















「…………あそこに行ってみたい」








 俺は桜の方角を、指差した。










「…………あの場所に?」











「…………うん」













 マナは目を細め、

 俺の頬に手で触れた。












「…………また迷うかもね」















 俺は笑って、その手を掴んだ。
















「お前が一緒なら、大丈夫だろ」












 マナは照れた様に微笑んだ。














「そうとは限らない。…でも一緒に、行ってあげる」

















 そしてマナは俺の頬に、

 その柔らかい唇で、キスをした。



















 

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ココロとセツナ とさまじふ @mcat4832

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