千載一遇のカレー

奈良大学 文芸部

千載一遇のカレー べにざくら

 ある日のこと、僕は昼食をとるべく食堂へ向かった。大学の講義は一段落、食堂についたら迷わずカレーを選ぶ……というのが食事までのいつもの流れだったが、その日の券売機には一つだけ、異なるところがあった。

「千載一遇のカレー……?」

 素っ頓狂な名前のカレーが、券売機の料理名のボタンの中に混じっていた。どんなものかはさておき、毎日のようにカレーを食べる僕にとって、この名前は僕にボタンを押させるには十分すぎる衝撃、そして期待があった。

「お待たせ致しました、千載一遇のカレーです」

 数分後、ついにカレーがやってきた。どんなカレーなのか、期待に胸が高鳴る僕をよそに、店員は説明を加えた。

「このカレーをお食べになると、名前の通り、千載一遇のチャンスが訪れます。ただ、チャンスを逃したとしても責任は負いかねますので」

 正直、この場では信じられるはずがない言葉だった。とはいえ、味が良ければ問題はない。

 そう考えつつ、僕はカレーを一口食べた。

 普通だ。特別おいしいものではないが、まずいかと問われればそうではない。本来文句はつけられないが、非常に大きなツッコミどころがある。評価を百点満点でつけるならば、味六十点、謎の説明三十点で、総合評価は三十点といったところか。名前につられて食べたことを後悔しながら、僕は食堂を後にした。

 その後はいつも通りに一日分の講義を終えた。その帰り道の途中、足元に何かが落ちているのを見つけた。近寄ると、それが宝くじであることが分かった。放っておこうと思ったが、件のカレーを食べた時の店員の言葉が頭をよぎった。もしかするかもしれない。それこそ千載一遇のチャンス、ここに訪れているのではないか。僕はすぐに紙切れを取り、家へ走った。

 帰宅してすぐに確認してみたところ、くじの抽せん日は今日だった。僕は新聞をとっているので、明日の朝刊を確認すればいい。現状、あまりにも都合がいい。この調子なら、五億円、あるぞ。

 次の日の朝、早速朝刊を手にとり、くじの照合をした。一桁目、二桁目…なんということか、四桁目まで一致しているではないか。これは…いわゆる三万円である。

 一日以上かけて、僕は壮大な肩透かしを食らったのだった。とはいえ、道端にこれがあったと考えれば、十分チャンスを掴んだといえるだろうか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千載一遇のカレー 奈良大学 文芸部 @bungeibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ