第51話:優しい白魔術師は、まだ何か勘違いをしている

「すごくいい顔になってる。男らしいというか、自信に溢れているというか……」


 ジグリットは俺の顔を見て、そんなふうに言ってくれた。

 自分ではわからなかったけど、ジグリットにはそう見えたようだ。

 俺は少し嬉しくて、今日一日の苦労が報われたような気がした。


 確かに今日の出来事で、キャティやピースを頼るのではなくて、自分が彼女達を助けるのだという気持ちがしっかりとしたのは確かだ。


「そうだよアディ。まあいざとなったらピースが助けてくれたんだろうけど、ピースを危険に晒したくないというアディの気持ちは立派だ」


「あ、ああ……ありがとうジグ」


「それにピースが全力を出さなくても、かなりの敵までアディが倒せるなんて凄いぞ。それでピースが本気の力を出したら、勇者検定会での優勝は固いな」


「そ、そうかな……?」


「ああ。ただしアディ、気は抜くな。勇者検定会には、どんな強い者が集まるかわからない。油断して万が一優勝を逃したりしたら、ピースを封印した魔剣は優勝者の手に渡ることになる」


「あ、ああ、わかってる。まだまだ俺なんて弱いんだから、油断なんてしないよ」


「それならいい」


 ジグはにこりと笑った。


 そして勇者検定会まであと一週間。

 明日からも今日と同じようにトレーニングをする。

 それを再度みんなで確認して、この日は解散となった。




◆◇◆◇◆


 孤児院に帰ると、居間にマリリアットが居た。


「お帰りですアディ」


「ああ、ただいまマリリン」


「なんだか凄く疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


「キャティと会ってたんですよね?」


「あ、ああ。……そうだけど」


 どうしたんだろ?

 マリリアットは顔が強張っている。


「キャティと喧嘩でもしたんですか?」


「いや、してないよ」


「じゃあ女の子と会って、そんな疲れた顔をしてるってことは……」


「えっ?」


 マリリアットは顔を赤らめてもじもじしている。

 何かとんでもない勘違いをしてないか?


「あ、いや。毎日トレーニングをしてるんだよ」


「トレーニング? そんなんですかぁ? なぜですか?」


「ひょんなことから勇者検定会に出場することになってさ。その準備」


「あ……そうなんですね……」


 マリリアットはなんだかホッとした顔をしている。

 やっぱりコイツ、変な誤解をしてたな。


「アディ、勇者検定会なんて出るんですかぁ?」


「うん、出るよ」


「凄いですねっ! あれってSランク以上じゃないと出られないんですよね!」


「あ、いや……そうだ。よく知ってるな、マリリン。まあ俺たちの場合はジグの推薦があるから出られるんだけど」


「そうなんですね。ドグラスとフォスターがこの前Sランク認定を通って、勇者検定会に出るって言ってましたから知ってるんです」


 ドグラスとフォスターがSランク認定に通っただって!?

 凄いな。彼らも努力して、成長してるんだ。


 でも勇者検定会に出るなんて……

 嫌な予感しかしない。


「そ、そうなんだ。ドグラスとフォスターもね…… マリリンも一緒に出るのか?」


「いえ、私は……誘われてないです。あんなことがありましたからねぇ。もちろん誘われても、もうあの人達のパーティに参加することはないですけど」


 確かにあの時マリリアットは、もうドグラスとは組みたくないと明言した。


 だけどドグラスのやつはどうやらマリリアットに気があるみたいだったから心配したけど……

 変にマリリアットを誘うことはないみたいで良かった。


「あの……アディはキャティと二人で出場するんですか?」


「ああ、そうだよ」


「そうですか……」


「どうした? マリリンも出たいのか?」


「あっ、いえ、私は…… そんな実力はないから無理ですぅ……」


 マリリアットは顔の前で両手をブンブン振って否定している。確かにマリリアットが勇者検定会に出たりなんかしたら、危険過ぎる。


 それに魔剣のことはマリリアットには言えないし、俺たちと一緒に出場したいと言われても困るから、まあ良かった。


「あのぉ……応援に行ってもいいですか?」


「応援?」


「はい。ダメですか? やっぱり私はお邪魔……」


「あ、いや。お邪魔とかは全然ないし。応援来てもらっていいよ!」


 お邪魔っていったいなんなんだ?

 別にデートをするわけじゃないし。

 ちゃんとマリリアットの誤解を解かなきゃいけないな、これは。


「ありがとですぅ。じゃあ応援に行きますねぇ」


 マリリアットはニコリと笑ってる。


 今キャティのことをあれこれ言っても、上手く伝えられる気がしないし、まあいいか。

 勇者検定会に来たら、俺とキャティが別になんでもないことは、すぐにわかるだろ。


 ──そう考えた。




 それから一週間、毎日俺とキャティは実戦練習に出かけた。おかげで自分でも、かなり実戦の戦い方がわかってきた気がする。



 そして──いよいよ勇者検定会の当日を迎えた。



== 第2章:魔王復活編 完 ==


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【読者の皆様へ】

次話から『第3章:勇者検定会編』に突入なのですが……

申し訳ありませんが、のんびり更新にさせていただきます。

何卒ご了解くださいm(__)m

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【連載中断中】超地味スキル【接着】! ~武器修理くらいしか取り柄がないと思っていたけど、史上最強の魔剣を復活させてしまった~ 波瀾 紡 @Ryu---

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