第6話 大好物

「お手紙、何て書いてありました?」

「また今回も用事で帰って来れないんだってさ」

「そうですか、それは残念でしたね」

「んー、別に。ねーちゃんだって忙しいんだろうし、それはそれでしょうがないと思うけど……」


 本心とは別のことを言いながら、ふと視線を食卓に向ければ、並べられた料理に目を奪われる。


「ハンバーグ!」

「えぇ、希生様がお好きですから、進級のお祝いを兼ねて。もう1つ、とっておきのがありますよ」

「え? うわ! ふわとろオムライスまである!」

「ふふ、いっぱい食べてくださいね」


 こういうときの式神さんは優しいと思う。

 俺の気持ちを察してか、俺の好きなものを用意してくれる。

 ちなみにハンバーグにオムライスは昔から大好きなのだが、この2つは自分が好物だと言うことを抜きにしても、お祝いという言葉に相応しい料理だと思う。

 特に、この肉汁たっぷりの大きなハンバーグとふわっふわでとろっとろなオムライスは格別だ。

 元々ねーちゃんの得意料理だったが、なぜか式神さんも得意料理らしくてねーちゃんの料理ばりのものをいつも用意してくれている。

 式神さんは俺の式神だというし、もしかしたら俺のそういう好みとか嗜好の部分が反映されているのかもしれない。

 実際、どうかは知らないけど。


「夜は夜でお楽しみにしていてくださいね」

「マジか、楽しみにしとくわ」


 いただきます、と手を合わせて挨拶すると、大きな口をかぱっと開けて式神さんの料理を食べていく。

 相変わらず美味しく、味付けもバッチリである。


「美味しいですか?」

「うん。めっちゃ美味しい!」

「それは良かった」

「そういえば、式神さんは食べないの? てか、どういう原理で動いてるの?」


 そういえば、その辺がどうなっているのか知らなかったことを思い出す。

 というか、考えてみたら俺は式神さんについて知らないことばかりだ。


「私は、……希生様の陰陽師の力、霊力によって支えられているので、貴方様が強くなれば強くなるほど実体になれる時間が増えて、行動範囲が広がります」

「え、そうだったの!?」

「……以前、その旨をお伝えしたはずですが」

「えー……? そうだったっけ? あれ、おかしいなー? ちょっとド忘れしちゃったのかもー……?」


 まさか覚えてないのか? という視線を感じて慌てて誤魔化す。

 ……誤魔化せたかどうかは自信がないが。


「とにかく、今は行動範囲が狭く、実体化できるのにも限りがありますので、できれば早々に強くなっていただかなくては困ります。買い物に行きたくても行けなくて、荷物の受け取りだけ実体化してる状態なんですからね」

「うぅ、それは、どうにか、頑張りマス」


 相変わらず手厳しい。

 お前が全然強くならんから、我もこんな狭っ苦しい家に拘束されとんじゃい、とでも言いたげな瞳で睨まれている。


「……それでは、そうですね。せっかくの機会ですし、最近どれくらい霊力が上がったかテストしましょうか?」

「え? テスト?」


 急にテスト、と言われて身構える。

 今までは町内をぐるぐる回ったり、筋トレしたりと体力作りばかりで、こうしたテストというのは初めてだった。


「何するの?」

「使い魔を手に入れてください」

「使い魔? ……使い魔って、あの、よくゲームとかアニメで出てくる?」

「まぁ、そんなイメージでよろしいかと。その辺にいる雑魚妖怪を調伏して、手駒にするという簡単なテストです」


 今、雑魚ざことか手駒とか言ってたよな、と思いながらもあえてツッコミを入れない。

 普段の式神さんは物腰柔らかで、言葉遣いとか丁寧なのに、たまに口調が荒いときがある。

 あと独り言が多いときもあるが、そのときは酷く荒れているので近寄らないようにしている。

 触らぬ神に祟りなしというやつだ。

 正確には、触らぬ式神に祟りなし、だが。


「わかった。えっ……と、いつすれば?」

「日中だと目立ちますし、恥ずかしいでしょうから夜中がよろしいかと。善は急げと言いますし、本日の夕飯後に致しましょうか。もし仮眠されるなら、私が起こしますので寝てきてください」


 恥ずかしい……?

 聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするが、チキンな俺には聞く勇気など持ち合わせてはいなかった。

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