第5話 手紙

「本当、クラス一緒で良かったねー! しかも、隣の席だなんて!」

「家でも学校でも隣とはな」


 なぜか天音と現在下校中。

 相変わらず懲りない輝に冷やかされながら、2人で一緒に帰路につく。

 俺は体育館を学校の用事で使用するからという理由で部活がなかったのだが、天音の所属するラクロス部も顧問の先生の私用だかなんだかで部活がないらしい。

 いつもお互い部活に明け暮れている日々だったので、こうして一緒に下校するのは珍しかった。


「そういえば昼食どうするの? せっかく一緒に帰れたんだし、うちに来る?」

「あー、……いや。用意してあるからいいや」

「え、用意!? きーくんが自分で!??」

「ん、まぁ……そんなとこ、かな」


 さすがに長い付き合いとはいえ、式神さんがいるから大丈夫! なんて天音には言えない。

 言えたら、自分としては多少共有できる事柄が増えて、気が楽になるかもしれない。

 だが、かと言っていきなり式神さんについてよくわからない天音が順応できるかは不明である。

 だからあえて隠すというか、彼女には式神さんに関しては何も伝えていなかった。


「そ、そうなんだ! へぇ、きーくんが1人で色々できるようになったなんて凄いねぇ……」

「悪いかよ」

「ううん! いっつもお姉ちゃん任せだったもんね。うんうん、いいことだと思うよ!! でも、もし何かあったらすぐに言ってね! 駆けつけるから」

「おー、ありがとな」


 こういうところは幼馴染みの気安さだと思う。なんだかんだ、こうして心配してくれるのはありがたいことである。


「じゃ、明日ね!」

「あぁ、また明日な」


 そう言いながら手を振り合って自宅に戻る。

 すると、すぐさま顔に風を感じたと思えば目の前に式神さんが現れた。


「おかえりなさい、希生様。新学期はいかがでした?」

「んー、いつも通りだったよ」

「お友達とご一緒になれました?」

「あぁ、一緒だった。それと天音とも一緒だったよ」

「それは良かったですね。あぁ、希生様にお姉様からお手紙が届いておりますよ」

「マジか。ありがとう」


 式神さんから手紙を受け取る。エアメールには、確かにねーちゃんの筆跡で俺の名前が書かれていた。


「お読みになるのは結構ですが、まずは手洗いなさってくださいね」

「わかってるよー」


 まるで式神さんは母親のようだと思うが、母親が低学年のときからいないため、正直実際の母親がどんなものかあまりよくわかっていない。

 でも、雰囲気や言動からなんとなく母親に近いイメージを感じる。

 そういう意味では式神さんの存在によって、母親という存在を疑似体験できているのかもしれない。

 って、こんなこと考えてたらまるで俺がマザコンみたいだな。

 こんなことを考えてる自分が急に恥ずかしくなって、カッと顔が熱くなる。

 俺は手洗いと共に、勝手な思考で熱くなった顔を冷ますために洗顔も済ませ、式神さんにバレないように駆け足で自室に戻り部屋着に着替えてベッドに寝転がる。

 そして早速、手紙を開封した。


【希生、元気ですか。私は元気です。進級おめでとう。ちょっとまだ用事があってそっちに行けないから、代わりに手紙だけになってしまってごめんね。部活はどうですか? 今年こそ優勝目指して頑張ってね。希生の活躍を世界の片隅から祈っています。つむぎより】


「またねーちゃん帰って来れないのかよ」


 かれこれもう、会わなくなって1年以上になるだろうか。

 最初こそ別に姉に会えないくらいそんな大したことない、と思っていたものの、これほど長く顔を合わせることがないと、なんとなく寂しくなる。

 いや、別にシスコンではないし、会わなくても生きてはいけてるけど、今まで姉によって生活を支えられていたし、何でもねーちゃん頼りだった自分としてはこの生活は多少違和感があるのだ。

 いや、まぁ、式神さんがいるおかげで多少は……いや、だいぶマシではあるが。


「昼食できてますから、早く降りてきてください」

「はいはーい。今行くよ!」


 手紙を机の上にある箱の蓋を開ける。

 この中には、今までもらった姉からもらった手紙を全部詰めてあった。

 その中に今回の手紙を入れておく。

 段々とかさを増してきたその手紙の束は、だいぶ山盛りになってきた。


「はぁ、手紙もいいけど顔くらい見せろよ……」


 そう独りごちながら、俺は階下のリビングへと向かった。

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