第4話 腐れ縁

「あ、きーくんと一緒のクラスだー! やったぁ!!」

「おぅ、そうみたいだな。……って、げぇ。あいつもまた一緒かよ」

「どうしたの? 誰か苦手な人でもいた?」

「いや、苦手ではないけど……ただめんどくさいだけだ」

「?」


 昇降口に張り出されているクラス替えの張り紙を確認したあと、新しい教室へと向かう。

 今年は2年3組のようで、去年はクラスが違っていた天音も今年は同じクラスだった。


「今年も同じクラスで腐れ縁ですなぁ、ははは」

「へいへい」


 そして目の前の男は羽生田輝はにゅうだてる

 自他共に認めるチャラ男であり、先程「苦手ではないが面倒だ」と称した男だ。


「いやー、天音ちゃんと朝から登校とかラブラブですなー! いいなぁ、あんな子と幼馴染みだなんて……! 1度でいいからあのおっぱい揉みたい!!」

「おいこら、セクハラ発言だぞ」


 セクハラもセクハラ。

 というか、ど直球なエロ発言を臆面もなく言ってのけるこいつはある意味凄い。

 今ちょうど天音は別の女子グループのところに行ってて離れているからいいものの、本人に聞かれたら鉄拳制裁されるレベルの発言である。

 ……こいつなら、天音に鉄拳制裁されるなら本望だとか言いそうだが。


「いやー、だってよー。あのサイズだぜ? え、小玉スイカ? いや、ちょっとしたメロンか!? うはー! 羨ましいぜ!」

「さすがにそんなにないだろ」

「いや、あるね! 俺の目は誤魔化せないぜ!! 幼馴染みはいいなー! 一緒にプールとかお風呂とか……っくはー!! 羨ましいぜ!!」

「いつの時代の話してんだよ。プールは小さいとき一緒に行ったことあるけど、風呂とかはさすがに入ったことないから。何かのAVとかエロ本とかの見過ぎだ。天音が近くにいないからって言いたい放題言ってんじゃねーぞ。てか、聞かれたら困る相手いるんじゃねーの?」


 そう、輝には水戸杏子みとあんずという入学早々付き合い始めた、かれこれ交際期間が2年目に突入する彼女がいる。

 小柄で可愛らしく、輝も所属しているバスケ部のマネージャーであり、胸のサイズは多少慎ましいものの、何でもよく気がつき気配りしてくれるという、彼女にしたいランキングナンバー1の羨ましい彼女である。


「そうそうそう! 聞いてくれよー!! この前の春休み中にあんちゃんと待ち合わせしてたとき、可愛い女の子達がいたからちょーっとお声掛けしただけなのに、あんちゃんに見られちゃってよー!! おかげでスマホをあらいざらい見られて、連絡先ほとんど消されちゃったんだぜー!?」

「自業自得だろ。てかそれ、前にもやらかしてなかったか?」


 去年も夏休み中に同じことを言っていたことを思い出す。

 まるでデジャブのようだ。

 こいつには学習能力がないのか。


 いや、そもそも一度半年前にまっさらに消されたはずなのに、また色々と女の子の連絡先を収集してるっていうのはどういうことなのか?

 チャラ男とはそういうものなのか? ん? 生まれてこの方彼女とかいたことない俺と、チャラ男のこいつの間にはどれほどの差があるんだ?


 ……ってまぁ、行動力の差なのだろうが、それにしたっておかしいだろう。

 確かに、見た目に関してはこいつに負けてると認めざるを得ないが。

 俺もまぁ、悪くは……多分ないはず。フツメンではあるし、多分……悪くは……。


「でも、水戸さんのこと好きなんだろ? だったらその浮気性なのどうにかしろよ」

「いやー、でもさー。女の子ってやっぱりなんていうかスイーツっていうかさ、あんちゃんっていうメインはもちろん手放せないけど、たまには味変したいっていうかさー! ほら、男のお前ならわかるだろう?」

「さっぱりわからん」


 諸々の理解が追いつかず、とりあえず冷めた目で見つめる。

 すると、視線の先に更なる冷めた目……いや、あれは永久凍土ばりの目というか見たら最後、一瞬で人を凍らせてしまいそうな形相で見ている人物を見つけ、思わず固まってしまった。


「希生? どしたー?」

「う、ぅううううぅぅぅ、うしろ……っ」


 俺が青ざめながら輝の背後を指差す。


「てぇーるぅーくぅーんーーー?」

「ひぃぃぃぃ!!!!?」


 彼は聞き慣れているだろう可愛らしい声に振り返るやいなや、悲鳴を上げつつ、ずざざざざざと後退りして俺の後ろに隠れる輝。

 だが、もはや彼に逃げ場はなかった。


「輝、……諦めろ」

「希生ーーーーーー!!!」

「さぁ、輝くぅーん? ちょぉーーーーっとお話いいかなぁ? さっきの話、詳しく聞かせてくれるかなぁああああああ!??」


 俺が素早く輝を彼女の前に差し出せば、そのまま首根っこを引っ掴まれて、ずるずるずる、と輝を引きずっていく。

 あの小柄な身体のどこにそんな力があるのだろうと思いながら、連行されていく輝を見送るのだった。

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