炎上消防隊の最後の活動記録

ちびまるフォイ

最適な消火方法

"炎上発生! 炎上消防隊は至急現場に急行せよ!!"


消防隊が現場にたどり着いたときにはすでに大惨事になっていた。


「な、なんだこの炎上は!?」

「隊長! 凄まじい怒りの炎で前が見えません!」


「今回の火種は!?」

「不謹慎なコメントをしたことが火種です!」


「A班、B班は該当コメントの削除して火種を鎮火しろ!

 C班は私に続いて検索ワードの鎮火をするぞ!」


「「 はいっ! 」」


炎上消防隊は手分けして炎上の鎮火作業へと向かった。


「問題のコメント鎮火完了!」

「検索ワードの削除完了しました!」

「トレンド削除完了!」


「ようし! これ以上に炎上が広がることはないだろう!

 謝罪文を出して、完全なる沈静化を進めるぞ」


「隊長、一つ気になったことが」


「なんだ? 火種は消し終えていたんだろ?」


「はい。ですが、今回の現場は荒れるような現場じゃないんです。

 普段は閑静な場所なのにどうしてこんな急に炎上したのか不思議で……」


「……それは確かに不自然だな」


炎上消防隊の隊長は腕を組んで考えた。

思い当たったときにはすでに遅かった。


「ま、まさか!! これは炎上商法か!?」


隊長が気づいたとき、再び炎上が発生し隊長の体を包む。


「ぐああああ!!」


「た、たいちょーーー!!!」


「よせ! もう隊長のアカウントは助からん!!

 下手に絡むとお前のアカウントまで飛び火するぞ!!」


「しかし!! 間違ったことをしてないのに

 こんな心無いコメントで隊長が焼き尽くされるのを見てられません!」


「この炎上は私のアカウントとともに消す!!

 それが炎上消防隊としての最後の仕事だあぁぁーー!!」


「隊長ぉぉーーー!!」


炎上消防隊の新人はこの一件以来ふさぎ込むようになった。


「新人。隊長のアカウント凍結は辛かったな。

 だが炎上消防隊はけしてくじけてはいけない」


「先輩……教えて下さい……。

 どうして、誰かを助けるために行った謝罪をネタに

 あんなに隊長が炎上しなくちゃいけないんですか!!」


「それは……」


「俺はもう人が信じられません!

 みんなが少し優しくなるだけですべて防げるのに!」


「いいか新人。炎上はどうしたって防ぐことは出来ない。

 人間はお互いを誤解してしまう生き物なんだ。

 だからオレ達、炎上消防隊が人間の最後の理性となって鎮火するんだよ」


「俺は……弱みを見せた人間を集団でリンチするような人間に嫌気が差したんです!!」


「新人! おいどこへ行く!?」


それきり新人は炎上消防隊本部へ顔を出さなくなった。


人の誤解を防ぎ、炎上を沈下させる炎上消防隊は子どもたちのヒーロー。

そんな憧れと現実の状況とのギャップで炎上消防隊を辞める人は新人に特に多い。


「また、か……」


先輩消防隊はSNSにコメントを書いた。

落ち込むまもなく次の炎上が発生した。



"炎上発生! 炎上消防隊は至急現場に急行せよ!!"



一方、新人消防隊員は家の天井のシミを数えていた。

つけっぱなしのテレビからは絶望的なニュースが舞い込んでくる。


『ただいま、大規模な炎上が発生しました!

 炎上消防隊は懸命な鎮火作業を行っていますが

 火の勢いが強すぎて鎮火作業は難航しています!』


「画面に映ってるの……先輩か……!?」


かつて自分の所属していた炎上消防隊の管轄内で凄まじい炎上が発生。

画面には誰よりも必死に炎上の中心へ向かう先輩消防官の姿があった。


「先輩……」


『炎上は無関係なゆるキャラや、反論した一般人へも飛び火しています!

 消防隊員はみるみる広がる炎上に手を焼いています』


「こんな……こんなこと……黙ってみてられるか!!」


新人は炎上消防隊本部へたどり着くと、服を着替えて現場に急行した。


「先輩!!」


「新人、お前……どうして!?」


「話は後です!! 無関係な場所に飛びしていた炎上は鎮火してきました!

 残りはこの火種だけです!!」


「助かる! この火種の鎮火に協力してくれ!!」


先輩は誰よりも必死に消火作業に当たっていた。

けれど、新人が見てもわかるほどに火の勢いは凄まじい。


「先輩、このアカウントはもう無理です! 諦めましょう!

 ここに長くとどまれば、また隊長のようにこっちまで炎上しますよ!」


「馬鹿野郎! 諦めてたまるか! 炎上消防隊は鎮火を見届ける最後の瞬間まで、けして諦めないんだ!」


「先輩……!」


新人は身を焼きながらも社会に尽くす先輩の背中に光を感じた。


「先輩! 俺に考えがあります! このまま消火を続けても焼け石に水です!」


「ようし、お前の考えを聞かせろ!」


「本丸、火種となっている部分に突っ込んで消火します!

 そうすればコレ以上の炎上は防ぐことが出来ます!」


「中心部に行けばお前だってタダじゃすまなくなるかもしれないんだぞ」


「わかっています! でも、炎上の中心を叩くしか方法はありません!

 教えて下さい! この炎上の発端はなんですか!?」


先輩消防官は頷いた。


「発端はオレが勤務中にしていた浮気がバレたことだ!

 今も恨みや怒りのコメントで燃え続けている!

 ……ようし、道を作ったぞ! いけ! 新人!!」


「わかりました、鎮火します!」



新人が浮気していた先輩を殴り倒したシーンがお茶の間に届けられると、炎上は一気に収束した。

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