少年と魔王の思い出したくもない出会い

ニョロニョロニョロ太

プロローグ

「玉ねぎ、じゃがいも、……にん……、にんざん? じんざん?」

 人参にんじんである。

「なんか、かっこよさそうな食べ物だな。

 で、ポテトチップスに、チョコレートに、ビール。

 って、またビールかよ。

 買おうとしたら、店の人に怒られるんだよなぁ」

 未成年だからである。

「まぁ、なんとかなるか」

 バカである。

 読み上げたおつかいメモを財布にしまい、人目のない路地を進む少年。ヒトメツ。

 彼は生まれつき右目がなく、それを伸ばした前髪で隠している。

 と。角を曲がる際に、男とぶつかった。

 男は何も言わず、大通りの方に歩いていく。

「俺に気配を悟らせないように近づくとは、あいつ一体……。

 って、財布がない!!」

 ヒトメツが叫んだ途端、男が、いやスリが走り出した。

「くっそ、あいつか!」

 ヒトメツも追いかけるが、スリはすでに大通りに出る前だった。

「待て!」

 と叫んだ瞬間。スリが「キャッ」という声とともに、ぶつかったように倒れた。

(俺の気によってバリアが!? 右目に秘められた力が覚醒したか!?)

 チャンスとばかりにヒトメツがスリに詰め寄る。

 スリは「このくそアマっ!」と罵って走り去っていった。

 ヒトメツが再び追おうとするが、足元に転がる物を見つけ止めた。

「あっ、俺の財布!」

 正しくは俺(に預けたみんな)の財布である。

 それと、財布と同じように転がっている少女。

 悲鳴を上げたのも、スリとぶつかったのも、この少女だったらしい。

(右目が覚醒したわけじゃないのか……)

 と、がっかりした時。

 おしりを痛そうに押さえる少女と、バッチリ目が合った。

 ヒトメツの1つ目と、少女の2つ目がバッチリと。

 ヒトメツの目には、少女が「カモが来た!!」と言わんばかりに目を輝かせているように見えた。

(嫌な気を感じる……)

 少女はすっくと立ちあがって、軽くポーズを決めて、

「この私に気配を悟らせないなんて、あの男、只者ではないな。私を倒すべくして放たれた神の使いか、地獄の使者か……。

 ふっ。考えるほどのことではないか。

 我が左手に宿りし大悪魔ベルゼブブの力を使えば、どんな奴であろうと、一瞬で消し炭にできるからな」

「は?」

(これが世にいう中二病ってやつか。

 頭沸いてんじゃないのか?

 絡まれたらたまったもんじゃない)

 後ずさりして、その場を去ろうとするヒトメツの肩に手を置く少女。

「そうだ。これはお前のものだな?」

 白い包帯がまかれた少女の右手には財布。

(こいつ、いつの間に!?)

「なぜそれが俺(が預かったみんな)の物だと分かった!?」

 さっき言ってた。

「これはお前に返そう」

 と、財布をヒトメツに差し出した。

「お、おお、ありが……

「だがそのかわり!!

 これを受け取った時からお前は、私の下僕だ!!」

 ビッシィィィィ!と得意げにヒトメツを指さした。少しうれしそうでもある。

「HA?」

 呆れすぎて、バカなヒトメツの口からアルファベットが出てきた。

「じゃあいらねぇよ、そんなもん」

「いいのか? 大金が入っているぞ?」

 人から預かったお金である。

「じゃあ、金と、あとメモだけ受け取る。

 財布はいらん!」

 人から預かった、人の財布である。

 ヒトメツと少女は財布を押したり引いたり言い合いをして。

 結局ヒトメツの元に財布ごと戻ってきた。

「フハハハハハ!

 これで貴様は、我が下僕だ!!」

「だから、なんで俺がお前の下僕になんないといけねえんだよ!」

 すると、少女はフッと笑い、

「それはお前のその右目を見たらわかるさ。

 お前のその右目には、神々に封印されし力が宿ってるんだろ?」

「な、何……!?」

(まさかそんなわけ……。

 いや、薄々気づいていたが、俺は……)

 ない右目を押さえるヒトメツに、少女は左手を差し出す。

「私は、現代に蘇りし魔王・サタン。

 今は、天使あまつかい緒馬おうまという女の体を器として生きている。

 とある事情で、天界からも地獄からも追われる身となっているが、ここでやられるわけにはいかない。

 ……お前のその力が必要だ。

 私に使えて、全てを蹴散らそうではないか!!」

 唖然と。

「俺が、全てを……?」

 唖然とヒトメツは目の前の少女の手をしばらく見つめ、

 それから、その手を取った。


 これが、

 現代に蘇りし魔王オープン中二病と、

 秘めた力を右目に宿す少年ムッツリ中二病との

 出会いである!!


 完!


「「中二病言うな!!」」

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少年と魔王の思い出したくもない出会い ニョロニョロニョロ太 @nyorohossy

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