魔王様と安楽椅子探偵⑤
☆★☆★ 本日発売 ☆★☆★
本日、無事『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本9巻が発売されました。
日々ご愛顧をいただきありがとうございます。おそらく日本がひっくり返らない限り、第10巻も出版されると思います。読者の皆様と、初の2桁刊行をお祝いしたいと思います。
引き続き『ククク』シリーズをよろしくお願いします。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
◆◇◆◇◆ ????? ◆◇◆◇◆
やっとだ。
やっと辿り着いた。
少々トラブルこそあったが、どうやら私のことはバレていないらしい。
元はといえば、あのケルベロスに出会ったのが運の尽きだった。
作業でさぼっていた私を、何故か遊び相手だと思って追いかけ回されたのが始まりだった。
だが、怪我の功名という奴だろう。
私はこうして魔王グリザリアがいる寝所――つまりは謁見の間にいる。
まさかかの魔王があのようにか弱き少女で、さらに玉座から離れられないと話を聞いた時は驚いた。
どうやら魔王め。私の話を聞いて、最近では「安楽椅子探偵」を気取っているらしい。
さぞかし幽霊の正体を突き止めて、今頃枕を高くして寝ているのだろう。
だからこそ、安心している今がチャンス。
現在の私の姿なら、謁見の間の分厚い扉もくぐることも、魔王グリザリアを弑することも可能だ。
もしかして魔王を殺した後、私は怒り狂った魔族に殺されるかもしれぬ。
しかし、それで構わぬ。魔族――ケダモノたちの蛮行をこれ以上許してならぬ。
人類こそが、この地上を支配するのにふさわしいのだ。
私は目論見通り、謁見の間の扉をくぐり、中に入る。
永劫に続くのかと思うほど長い、紫色に染まった絨毯が真っ直ぐ奥へと伸びていた。
その先にあるのは、玉座、そしてその肘掛けに肘を突き、寝ている魔王がいる。
側にはクランベルなるメイドがいるようだが関係ない。
私は絨毯を歩き出す。
染め色が少し薄気味悪いが、これが私の栄光の架け橋だと思うと、高揚感すら感じる。
謁見の間はしんと静まり返っていたが、私には聞こえるのだ。
多くの人類の歓声が……。私を激励する者たちの声が……。
もうすぐだ! もうすぐ私は英雄になる。
名も知らぬ英雄であろうが、構わぬ。
人類がこの地上の支配者となれば、散っていった仲間たちも浮かばれよう。
しかし、遠い。
魔王城だけではなく、国の謁見の間はどうしてこうも遠いのだ。
支配者が権力を見せびらかすためだろうが、あまりにも無駄だ。
仮に私が人類圏に帰還し、領地を持った暁には、間違いなく扉から玉座までの距離を短くすることだろう。
「はあ……。はあ……」
やっと着いた。
魔王の奴め。何も知らずに安らかに寝ておるわ。
しかし、魔王とは思えぬな。ようやく乳飲み子を脱したような幼児の寝顔だ。
どことなく娘に……いかん、いかん。何を考えている。
私は今から、この娘を殺すのだ。
変な情は辞めろ。この娘は何万何千と人を殺してきた大量殺戮犯の元締めだぞ。
殺せ! 殺すのだ。
「なーにやってんだよ……」
すると、私は突然首根っこを掴まれ、持ち上げられる。
無理矢理顔を反対に向けさせられると、目の下に真っ黒なくまを浮かべた幸薄く、如何にもニートな感じの顔色の悪い男が立っていた。
◆◇◆◇◆
「やっぱり。あんたが犯人だったか」
俺は犯人を摘まみ上げると、じっと睨んだ。
同時に謁見の間の扉が開き、ルヴィアナとヴォガニスが慌てて入ってくる。
ブレイゼルはお休みだ。魔王グリザリア様の
「カプソディア!」
謁見の間に入ってきたルヴィアナは、俺が摘まみ上げた犯人を見て、驚いていた。
「小人……?」
そう。俺が今持ち上げている犯人は、子どもの手の平にも満たない背丈の小人だった。
俺の方を見て、反抗的な表情を浮かべている。
「いや、正確にいえば……」
俺は借りてきた『変化の杖』を掲げる。
『
「小人に化けた虜囚だ」
「あ。この人族……」
ヴォガニスは改装工事の責任者から渡された人相書きを取り出す。
側で蹲る虜囚と、人相書きを比べて見た。
「おいおい。行方不明になっていた虜囚じゃねぇか」
「そうだろうな」
「カプソディア、あなた気づいていたの?」
ルヴィアナは目を丸くする。
「当然だろ。うちのケルベロスはグルメなんだ。人間を襲いかかっても、食べたりはしない」
「え? そうなの?」
「預ける時に説明したろ。覚えてないのかよ!」
「し、知らないわよ。そんなの」
「カカッ! こんなところで喧嘩するなよ、お前ら」
「「喧嘩なんかしてない!!」」
何故か声が揃ってしまった。
危ない危ない。ここが魔王様の寝所だって忘れるところだった。
見ると、俺たちが入ってきた時点で、とっくの昔にクランベルは起きていたが、魔王様はスヤスヤと寝息を立てていた。魔王暗殺未遂って大事な時に、寝ていられるとは、さすが魔王様だ。器がでかい。
「カプソディア、まだ私には事件の全容が見えないんだけど……」
「つまりはこうだ」
改装工事を手伝わされている最中、捕虜の男は、ブレイゼルに放置されて魔王城を彷徨っていたケルベロスと遭遇した。多分、見た目の可愛さから何かちょっかいでも出したのだろう。ケルベロスに追いかけ回されることになって、逃げ込んだのが……。
「先代魔王の居室?」
「そう。男はケルベロスに対抗するために、先代が
というより、見知った魔導具が『変化の杖』ぐらいだったのだろう。
先代の居室には、魔族オリジナル魔導具も存在する。一方『変化の杖』は人類圏でも出回るような凡庸な類の魔導具だからだ。
専門家のブレイゼル曰く、基本的に魔導具は呪文による起動式が必要になる。
ケルベロスは賢いが、呪文を唱えることができるほどではない。うっかり『変化の杖』を使うなんてことはできないのだ。
「なら誰かに『変化の杖』を使われ、たまたま先代魔王の姿になったというわけだ」
補足だが、『変化の杖』は特定の呪文を言わないと、その前に変化したものに変わってしまう。先代魔王が持っていた『変化の杖』が、何故その姿を記憶していたかはわからないが、悪戯好きのあの人なら正直さもありなんと言ったところだ。
「そして男はたまたま握った魔導具が『変化の杖』だと気づいた。いや、そもそも『変化の杖』の存在を知っていたかは定かじゃないが、ともかく姿を変容させる魔導具であることに気づいたことは確かだ。そうして、こいつは一計を案じた」
「小人になって、魔王様を暗殺する?」
「小人になって移動するのは大変だが、なかなか考えたものだぜ。ちょっとした隙間があれば、どこにでも入り放題だしな。しかもケルベロスが犯人とわかって、男がケルベロスに食べられたってお前たちは勘違いした。益々犯行がやりやすくなる。でも、俺が帰ってきてしまった」
いずれにしろ、ケルベロスに出会ったことは、この男にとっては幸運でもあり、不運でもあったというわけだ。
「なるほどね。さすがカプソディアね。あなたも探偵になる?」
「よしてくれよ。つい先日、それで悪夢を見たところなんだから」
あの恐ろしい体験と比べたら、魔王城で6徹してる方がまだマシだぜ(※ 詳しくは『雪山山荘勇者遭遇事件』をご覧下さい)。
「ひ、ひぃいいいいいいい!」
「逃がすかよ!!」
悲鳴を上げながら逃げる囚人をヴォガニスは、簡単に捕まえてしまう。
「どうする、こいつ?」
「勿論。死刑よ。他の捕虜の面前で縛り首にして、朽ち果てるまで晒しなさい」
「魔王様には?」
「報告はいいじゃないの?」
「いいの。カプソディア」
「いいじゃねぇか。魔王様には今自由がない。もう少し安楽椅子探偵を気取っていてもらおうぜ。なっ!」
「ありがとうございます、カプソディア様」
最後にクランベルが一礼した。
それにしてもよく寝る魔王様だ。
こんだけ騒いでも、まだ眠っている。
まあ、日々人間で言う3歳児が、大人の仕事をしているんだからな。
俺なんかよりも遥かにハードだろ。
だから、俺たちが支えてあげなきゃならねぇ。
このちっこい魔王様を……。
「ねぇ。この捕虜誰かに似てない」
「カカッ! 確かに似てるな、カプソディアに」
「目の隈のところとかそっくりよね」
「はあ! ふざけるな! いくら俺の身体が元は人間だからって」
あ。まさか……。
ケルベロスがこいつに襲いかかった理由って、俺に似ていたからか。
次の更新予定
毎週 日曜日 20:09 予定は変更される可能性があります
「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる 延野 正行 @nobenomasayuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます