魔王様と安楽椅子探偵④
☆★☆★ 明日発売 ☆★☆★
お知らせしております、
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本9巻ですが、ついに明日発売となっております。
魔王降臨編完結、新章セイホーン王国篇も大変楽しいお話となっておりますので、
是非よろしくお願いします。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
数時間後、3人の四天王は再びあたしの前に現れた。その傍らには、布を被せた大きな檻が置かれている。早速、布を引き、現れた下手人の姿を見て、あたしは思わず口角を上げた。
「やっぱりあなたが幽霊、そして先代魔王の正体だったわね」
ケルベロス……。
檻の中に入れられていたのは、3つ頭を持つ『地獄の番犬』ケルベロスだった。ただその姿は、人類の英雄譚に出てくるような恐ろしく、かつシャープな姿ではない。お団子を3つ乗せたようなまん丸の顔に、短い足、短い尻尾をしていた。よっぽど飼い主に甘やかされて育ったのだろう。噂には聞いていたが、ここまでモフモフに育ったケルベロスは見たことがない。
「魔王様、いつからケルベロスが魔王城にいることを知っていたんですか?」
「最初から――と言いたいところだけど、割と最近よ。でも、先代魔王の幽霊が魔王城のあちこちに出現すると聞いたから、魔族ではない、何か迷い込んだケダモノか何かの仕業とは考えていたわ」
あたしが言うのもなんだけど、魔王城の中は野良犬どころか、普通に理性のある魔族ですら迷ってしまう大迷宮よ。増して、今改装中で変な迂回路まで生まれて、余計複雑化している。ケルベロスもさぞ焦ったでしょうね。
「さすが魔王様です」
「褒めるようなことじゃないわよ。あたしの
「魔王様、誤解です。わたくしは魔王様に絶対忠誠――――」
「ぐへっ!」
「キャッ!! な、なんで私まで」
「まだわからないの?」
あたしは足元に這いつくばったブレイゼルとルヴィアナを見下ろす。
「あんたたち、あたしに黙って、ケルベロスを魔王城に連れてきたわね。というか、幽霊の正体が薄々ケルベロスだって気づいていたわよね」
「す、すみません。魔王様! これはには訳が……」
「言い訳なんて聞かなくても、あたしにはわかっているのよ」
そんなこと聞かなくても、安楽椅子探偵魔王グリちゃんは丸っとお見通しなのよ。
大方、カプソディアが出張で、その間ルヴィアナにケルベロスの世話を頼んだのでしょう。けれど、今ルヴィアナの家にはルヴィアナの母――風の大精霊が滞在している。
「だから、ルヴィアナからブレイゼルにケルベロスを預かってくれと頼んだ。カプソディアが頼んだら100%断ると思うけど、ルヴィアナの頼みなら、ブレイゼルも聞くでしょうからね。実際、ケルベロスを大事にするため、
「その通り! ルヴィアナのためなら――――」
「げぇ!」
ブレイゼルは再び床にめり込むことになる。さらにあたしはブレイゼルの頭の上から声をかけた。
「百歩譲って、ケルベロスを連れてきたことは許してあげる。……でも、ブレイゼル。あんた、途中で先代魔王の幽霊の正体が、ケルベロスと気づいて、わざと居室を燃やしたでしょ」
ケルベロスが潜伏していた先代魔王の居室には、きっとケルベロスの足跡や落とした毛が残っていたはず。それに気づいたブレイゼルは、証拠隠滅を計ろうとした。先代魔王の幽霊を討ち払う名目でね。
「ま、魔王様。どうかご寛恕のほどを……。こ、こうして下手人を連れてきたのです。どうか」
「安心なさい。今日のあたしは普通の魔王様じゃなくて、安楽椅子探偵魔王グリちゃんなの。謎としては3流以下だけど、初めての事件としてはまあまあだったわ」
「じゃ、じゃあ……」
「でも、残念ね」
「へっ?」
「今、普通の魔王グリザリア様に代わっちゃった」
「ぎ――――」
ブレイゼルの断末魔の悲鳴が響くのだった(一応、殺してはいないわよ。半殺しよ。半殺し)。
「それにしても、ケルベロスが『変化の杖』を使って、先代魔王に化けてるってよくわかりましたね」
「簡単よ、クランベル。先代魔王の居室には、たくさんの遺品と一緒に、魔導具も残されているからね。『変化の杖』ぐらいならあってもおかしくないでしょ」
「となると、いなくなった作業員は……」
「おそらくお腹を空かせたケルベロスの腹の中よ。不運としかいいようがないわね。まあ、虜囚の作業員だったみたいだし、どうせ死刑にするなら一緒でしょ。早いか遅いかの違いだわ」
これにて安楽椅子探偵魔王グリちゃんの推理パートは終わりね。謎としてはチープだし、バレバレだし、何より身内しかわからないネタしかないけど、さっきも言ったけど最初の謎としてまあまあだったわね。
「…………」
「何よ、ルヴィアナ。神妙な顔をして。あたしの推理にケチでもつける気?」
「いえ。そんなことはありません。ただ…………」
何か見落としているような気がするのよね。
◆◇◆◇◆ カプソディア ◆◇◆◇◆
かくて安楽椅子探偵魔王グリちゃんの事件簿は終わりを告げたってか。
俺が出張に行っている間、結構なことがあったんだな。いや、といっても単に俺がブレイゼルに預けたケルベロスが、魔王城で迷子になった挙げ句、犯人にされたってだけの話だけどな。
俺が雪山山荘で、勇者様一行と出くわしたことと比べれば、軽い軽い。
それにしてもケルベロスがお咎め無しで良かった。
魔王様様だぜ。
「全部お前のせいだぞ、カプソディア」
「ああん? ケルベロスを結果的に預けたのは確かに俺だけどな。他のことは全部自業自得じゃねぇか」
「痛ッ! き、貴様! 消し炭になりたいらしいな」
俺はベッドに横たわるブレイゼルの腰を叩く。度重なる魔王様の教育のおかげで、身体は悲鳴を上げ、ベッドから起き上がることができなくなったらしい。最近調子こいてるブレイゼルにはいいお灸だな。
「何にしても良かったわよ。本当に先代が幽霊で現れなくて」
「オレ様としちゃもう1回会いてぇなあ。決着がついてねぇしよ」
ヴォガニスは「にしし」と笑いながら、自慢の力こぶを見せる。イヤだイヤだ。これだから脳筋は困る。ブレイゼルだけじゃなくて、ヴォガニスも魔王様の教育を受ければ良かったんだ。ちっとは頭の悪さがマシになるかもしれない。
「そういや、作業員は見つかったのかよ」
「そのことなんだけど、魔王様曰くケルベロスに食べられたんじゃないかって」
「はっ? うちのケルベロスが……」
そいつはおかしいなあ。
いや、おかしいっていうと、他にもこの事件にはおかしいところがある。魔王様が言うように幽霊の正体が、魔王様の推理通りケルベロスだろう。
でも、俺からすると魔王様の推理は色々と穴がある。いや、これは仕方ないことだ。魔王様も知らない情報がいくつかあるからな。
「カプソディア、やっぱりなんか引っかかることがあるのね」
「ルヴィアナもか」
「ええ……。なんか心の中で引っかかってることがあって。別に魔王様の推理が間違ってるわけじゃないのだとおもうのだけど」
「その勘、当たってると思うぜ」
「え?」
「じゃあ、行くか」
「どこへ?」
「本物の幽霊の正体だよ」
そう言って、俺はニヤリと笑うのだった。
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