また会う日を楽しみに

ネリネが死んで、もう3年が経った。





「よし。これで終わりだ、手伝ってくれてありがとう、モクレン、シラー」



アマリリスは、伸びた白髪を慣れた手つきで後ろできゅっと束ねると、そう言って笑った。



「寂しくなるな。これからどうしようか」


シラーが笑みを浮かべながら言うと、アマリリスはごめんよと小さく言った。













アマリリスが、両親の故郷であるアヤメに帰りたいと言ったのはつい最近のことだった。


シラーは、なんでだなんでだと質問攻めにしていたが、モクレンはなんとなく、それが正解なんじゃないかと考えていた。








「空港まで送るよ、アマリリス」


シラーがそう言うと、アマリリスは少し驚いた表情のあと、少年のような笑顔を見せた。


「シラーがそんなこと言ってくれるなんてなあ」


「俺ってそんなに冷たい奴認定されてるのか」


けらけらと笑う2人を他所に、モクレンは1人、大きな窓の外を見ていた。


鳥のさえずりと、葉と葉が当たる音。これが本当に、23年前まで戦争をしていた国か。




「モクレンも来るだろ?ついでにネリネの墓参りも行くんだ」


シラーの言葉が弾む。ここはやはり、4人でなくちゃいけないのかもしれない。


開店前に、4人でランチを食べる。大体ランチを作ってくれるのはアマリリスで、シラーは開店ギリギリに来ることも多いから4人揃わないこともある。ネリネは弟の料理をいつもキラキラした目で食べて、モクレンは笑いもせ

ず皿を綺麗にする。



そんな日常だった日々が、なんだか恋しい。







戦争が終わったとはいえ、まだポポとアヤメの両国の亀裂は深い。





白い髪と青い目、そして美しい菖蒲色。


赤髪と黒髪、そして輝く黄色。




両国が互いの良さを認められる日は来るのだろうか?


誰の命も奪わず、誰の心も傷つけずに。










「ネリネもこれ、好きだったんだ」


「綺麗な花だな、なんて名前だろう」



ネリネの墓に供える花が、大きく凛々しく咲いている。アマリリスもシラーもモクレンも、黙ってネリネの墓を見つめていた。



「...なにも変わりゃしないんだ。ネリネは帰ってこないし、俺の兄さんがしたことは消えない。モクレンの父さんの愛情もな」


シラーはそう言いながら立ち上がり、アマリリスの荷物を持った。



「ああ、変えていかなきゃいけないな。アヤメに帰ったらやりたいことがたくさんあるんだ」


「Diamond lily、またいつか再開してくれるよな」


「もちろん。ネリネがきっと大喜びする」




空港までの道のりが、重く暗い。知らぬ間に生まれていた互いへの強い信頼にも、気づくことができないままだった。







「2人とも、ダイヤモンドリリーの花言葉を知ってるか」


モクレンの、深く甘く優しい声。


「また会う日を、楽しみに」



















首都ドントの1番大きな通りから奥へ入り、入り組んだ道を少し行くと、ツタに覆われた建物が見えてくる。大きな窓と白い壁。



ここはレストラン、"Diamond lily"。









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Diamond lily 矢野 @syanre

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