シーグラス
春風月葉
シーグラス
時間に流され、人に流され、身を削り、心を削り、常識を知り、普通を知り、角が取れ、丸くなる。そうやって人は作られて、形のいいものが必要とされる。
演じる普通に価値を感じなくなった。他人の常識に興味もなくなった。身も心も限界を感じていた。人に疲れた。時間を忘れたかった。
今までから距離を置きたくて、村を離れ、少しばかり歩いて浜辺に行き着いた。海では自由に時間は流れ、波音は人を忘れさせた。心身はそこにいるだけで癒えているように感じた。砂に足跡を残し、木の枝を拾い、貝殻に片耳をあて、髪を風に泳がせる。ふと立ち止まった先にキラリと光るものを見つけた。どこか遠くから流れてきたであろう青い硝子の破片だ。ここにたどり着くまでに角は取られ、丸くなって、宝石のようだった。
自宅まで持ち帰った硝子片には海のにおいが残っていた。どうしてか私にはそれが羨ましく思えた。宝石のように美しい海の色をした硝子片に太陽の光を当てながら指先でコロコロと転がしぼんやりと眺めた。硝子の中に映る自分がハッとため息をつく。
ポロリ、不意に流れた涙は海の味がした。
シーグラス 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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