The end of magic 肆章  変わる事のない事実

『――それでいいんだね?』




 最悪の状況で目が覚める。目を開くまでもなくその場の状況がわかる。

 銃声が鳴り響き、鼻をつんざくような火薬の匂いと悲鳴や怒号が飛び交い、血や積まれた土嚢どのうが飛び散っている。そこは紛う方なき『』だった。

 大智はそっと起き上がる。

「しっ、死体が動いた…」

隣から声が聞こえた。

 完全に忘れていた。最初に来たときもここで殺されかけた。

「違う!僕はただ気を失っていただけだ!死体ではないし、群服が同じだろう?」

大智がそう言うと男は銃を降ろした。

「そ、そうだな…どうかしていた…すまん…」

「良いですよ。こんな場所で何時死ぬかもわからない状況で、どうかしていない方がおかしいですよ」

大智の言葉を聞いて安心したのか、少し落ち着いた表情をうかべた。

「名前を聞いても?」

「大智です。狭霧大智。」

「まだ若いのにこんな戦場で…。また生きて会えるといいね…狭霧くん」



 それから数時間たった。どうやらこっちの部隊は殆ど壊滅、戦線をかなりおされているらしい。戦線を後退させるために一度前線から離れることになった。とはまだあっていない。

「あ、狭霧くん!」

後ろから呼ばれたので振り返ると、見覚えのある男が立っていた。

「あぁ、えっと…」

翳美かざみ裕真」

翳美かざみさん。また会えて嬉しいです。」

後退する隊列で二人は話しをしながら最後尾に付いて行く。

「これってどういう戦況なんですか?」

「僕もよくは分かってないんだけど、最前線の部隊が全滅して戦線がさがってきたらしい。なんとかここで食い止めたらしいが被害が大きく負傷者が大量に出たらしい。たぶんこっちは待ち伏せて一気に奇襲をかけるんだと思う」

裕真は大智にそう言って少し不安そうな表情になった。その顔はまるでこの後、どうなるのかを知っているような表情だった。

「…?そうか…」

「でも、今日はこれで終わりだと思う。もうすぐ日も暮れるし夜間に戦うことは相手にとっても利がないから。」

「…どうして?」

「夜には奇妙な身体からだをした化け物がそこらを徘徊するんだ。そいつは動物の体温を見ている。気を抜けばすぐに食いに来る。恐らく相手もを恐れている。だから夜は戦いがないんだ。多分…」

「ひっ、ひやだ…の話しなんて聞きたぐない…!」

隊列がそこで止まり先頭の隊長が後ろを向いてこちらに質問を投げ掛けた。

「何事だ?」

「いえ、なんでもあ…」

「やだぁッ!みんな死ぬんだっッ」

目の前の人が騒ぎ出した。

 途端騒ぎ、暴れ、隊列を離れようとする。すると銃声が鳴り、その男がたおれた。背中に赤黒い染みがジワジワと広がっていく。

「そ、そんな…」

隊列がその死体を眺めて苦い顔を見合わせた。

「どうして…どうして殺したんだ…」

「恐れを成して逃げ出すような者はこの隊には要らない」

大智は納得できなかった殺した理由よりも何故撃ったのかが気になった。さっきの話しならその化け物は体温を検知するなら銃身の温度も検知して来るはずとだと大智が黙って考えている間に隊は目的の場所に着いたらしく隊はそこで止まった。

「ここって…?」

大智が目の前の建物のことを聞いた。

「え?知らないの?ここは寮だよ。僕たちの」

「寮?」

「そう寮だよ。ここで寝泊まりしてるんだ」

そう言って裕真は建物方へ歩いて行く。その後ろ姿を見て大智は察した。ここに居る人間は誰一人として油断や慢心をしている者は居ないことを…。

 大智も裕真に続いて寮に入ろうとすると隊列の先頭に立っていた男にとめられた。彼は大智の肩に手を置き顔を耳に寄せて小声で言った。

(このあと、日付が変わる十分前にここに来い)

そう言って大智の脇腹辺りに紙を差し出す。大智はその紙を受け取った。

「狭霧くん…?」

紙を受け取った事を確認すると彼は大智の肩から手を離し、建物の外へ歩いて行った。

「何かしたの?」

「いや?」

大智は外へ歩いて行く隊長の背中をみて首を傾げた。

「あの人怖いから気を付けた方がいいよ」

「そうなんだ」

「それより部屋割りは見たの?」

裕真は大智の方を向いて言った。

「部屋割り?」

「うん、ロビーに張り出されてたよ。正直ホッとしたよ…僕が戦場に出たのもこのためだし、さっき見たけど僕は狭霧くんと同じ部屋だったから」

大智はそう言って笑っている裕真を少し不思議そうに見ていた。

 ロビーを抜け、階段を上がり、二階の廊下を進んでいく。

「ここだよ。僕たちの部屋」

裕真は大智にわかるように部屋の扉を指を指して見せた。その扉には『203』と彫られていた。

 裕真がドアノブを回す。

「お、クズみじゃねぇか。味方を撃ちそうになったんだってなァ?」

頬に傷のあるやや大柄な男が喧嘩腰で絡んでくる。

「どうしてその事を…?」

「同じ隊に仲間殺しがいるってなったら…こんなとこでんな呑気に休んでらんねぇぞ?なァ?」

男が周りの人に向かって言うと皆、裕真から目をそらす。

「ぼっ、僕は…み、未遂でまだ殺してない…!」

「ほう?『まだ』って事はこれからるかも知れねぇんだな?」

「そ、それは…」

裕真の目線が下に落ちる。

「何下向いてんだよ!」

裕真に向かって拳を振り下ろす。それを察して裕真は目を瞑る。目を閉じた裕真の前に大智が入って拳を掌で受け止めた。

「辞めなよ。ここは戦場だよ?仲間同士で争って勝算が高くなるの?」

大智は男を睨みつけ、腕に力を入れる。

「はァ?先に仲間を殺そうとしたのはその無脳だろうが!てめぇはそいつの味方すんのか?」

「殺さされかけたのは事実だ!不安だってある。でもこの先の戦場で仲間の一人や二人自分で殺すくらいの覚悟がなきゃ無理だ!それに敵だろうが味方だろうが戦場にいたらいずれ死ぬんだッ!そんな覚悟のない奴がこの戦線に居るのはおかしいんじゃないか?」

大智はさらに力を入れると男は少し力を抜き、拳をゆっくり下ろした。

「てめぇがどうやって死んでいくか知ったこっちゃねぇがそうやって庇ってりゃいつか自分を殺すぞ…」

そう言い残して二階の奥へ歩いて行った。

「もう話がまわってるんだね…へへっ、ごめんね…僕のせいで…」

裕真は申し訳なさそうに言った。

「良いんだ。別に大丈夫だから…気にしないで先に休んで良いよ用事済ませてから僕も休むから」

「わかった…じゃあまた後で」

裕真は部屋の中に入った。それを見届けると大智は入り口で渡された紙を開くと、寮の一階の地図が記されていた。

 紙の地図に一つ印が書かれた部屋があった。

 紙から目を離すと階段を下りてロビーを抜け、真逆の廊下をわたる。その途中正面の部屋から青い髪の少女が部屋の中に深々と頭を下げてでて来るのが見えた。その少女が振り返り歩き出す。胸になにかの資料の様なものを幾つも抱えているのが見えた。

 大智が廊下の隅に身体をよせて道を譲ると少女はチラリと大智を見て綺麗な姿勢でそのまま通りすぎていく。

 大智は正面の部屋の扉を軽く三回ノックすると中から部屋に入るよう促されて扉を開けた。

部屋の中には帽子を深く被った男が外を眺めていた。

「あぁ、君か…本当に来るとは…」

男が大智の方を向き、迷彩柄の帽子を脱ぎ、真っ直ぐ大智の目を見た。その光景に大智は目を疑った。

「どうして…?」


「初めまして…わたくし、狭霧久作と申します。」

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具現旧日 神崎りら @kanzakirila

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