The end of magic 参章  不正事実 下


「狭霧!」

店内の人たちは男を睨みつける。

「弱ぇ弱ぇ。そんなもんか?」

男は自分の腰の辺りに手をやった。

 大智は机の影から顔を出した。

「おい、やめろ!無茶だ!」

店の中の誰かが大智にむかって叫んだ。

 大智は男を睨んだ。

「ほう、来るか?」

男は腰から手をはなした。その手には何かが握られていた。

 大智は周りの声など聞こえてはいなかった。男に立ち向かう理由も義理もない。ただそこで動かなくなったと言う男を護るために大智は床を力強く踏んだ。しかし、大智自身はわかっていた立ち向かったところでやられるだけで利益はない。

 大智から男までの距離は約五メートル。今までの攻撃を繰り返すなら勝算はある。しかし別の攻撃手段があるかもしれない。

 大智は走りだした。それと同時に男は大きく振りかぶった。

 一歩前へ出す。手を離す。

 大智はとっさに防御姿勢をとった。しかし飛んできた物のノックバックで大智は机のあたりまで戻された。

「………なるほどね…」

後方から声がした。

「ありがとう…きみのおかげでわかった。」

振り返ると久作が頭から血を垂らして立ち上がっていた。

「…なにも警戒する必要なんて無いじゃないか」

久作が大智の前に立って男の腕に注目した。

Parfaitement compris完璧に理解した

久作が一歩前へ出る。

 すると不意に銃声がした。

 大智はとっさに体が動いた。久作を突き飛ばした。その瞬間、大智は右の腹に妙な熱を感じた。

 痛みと熱さが同時に襲ってくる。大智はそのまま地面に倒れ込んだ。

 瞼が重く閉じる。なにも見えなくなった。だが声は確かに聞こえた。

「へー。予想外だったねぇ。出会ったばかりの人間を庇うなんて馬鹿な真似するんだぁ。ところで君…誰?」








「――っ!…だッはァ…はぁ…はぁ…はぁ…」

そこは見覚えのある空間だった。

「ようやくお目覚めかい?待ち草臥くたびれたよ」

見覚えのある女性が大智の顔を覗き込むように見ながら言った。

「全く…駄目じゃないかそうやって無茶したら」

彼女は大智の額を人差し指で優しく弾いた。

「……?如何したんだい?不思議な顔をして…もしかしてどうして戻らなかったのか知りたいのかい?」

「……」

「…んー…違うな。だとしたらどうしてに言ったのか知りたいのか」

彼女はそう言った後、大智の顔をみて深呼吸をした。

「そうだね…まず、あの場所に行ったのはキミが戻ることを望まなかったからだ。キミは過去に行ってやり直す気がなかったはずだキミは死んで、戻って、未来を変えることをいつものように望まなかった。そしてではなくもう一度ただと思ったから世界は書き換えられた。そして新たな世界が生まれた。それがさっきの世界だ。そして、今、選択肢が二つあるからキミはここに来た。選ぶために…ね」

大智は黙っまま彼女の話を聞いていた。

「で?如何するんだい?」

「え?」

彼女は大智をみて溜息まじりに言った。

「銃弾飛び交う戦野を生きるか平和の日常に戻るか如何する?」

大智は悩む事なんて無いと思った。しかし口を開こうとした瞬間に大智の脳裏に一瞬、久作の事が浮かんだ。大智の開こうとした口が一気に重くなる。

 もしあの世界に行かなかったらしいあの世界は今までと同じように存在するのだろうか。シュレディンガーの猫の様にそこの人達を観測するまで生死がわからない。元の世界に戻ったとしてもその世界がまったく同じようにあるのかは観測するまでわからない。それでも彼を置いて元の世界に戻っても良いのか。どうしてもそれが頭から離れない。

 大智は一つだけ引っ掛かっていた事があった。さっき彼女が言ったようにただ別の世界が作られたとしたらあの男――はなぜ生まれたのか―もし彼がにも居るのならなんの心配も無い。ただ会ったことのない人物と別の世界で出会っただけの話だった。それなら周りに居た人達の誰一人として見知った顔がないのも説明が付く、だとしたらなぜまったく知らない人間だけが集まったのか、もし本当に別の世界ならそれはそれで消えてなくなったほうがいい気もするがどうしても気になってしまう。

 悩みながらも大智は決心した。確実に前に進めるかはわからないが、自分の出した答えならそれを信じようと思った。

「ん、決まったかい?」

大智はその言葉にそっと頷き、真っ直ぐ彼女の目を見て言った。

「僕は――――」


「そうかい…キミは、それでいいんだね?」

少し間を開けて彼女は大智に言った。それを聞いて大智は小さく頷いた。









 堕ちていく。空中を…鳥のように飛ぶことすらも出来ずに。ただ堕ちていく、背中から。上には青く綺麗に脈を打つように流れる雲が無数に広がる空と聳え立つビルの最上階だけが見えた下は見えず、ただ上を向いて堕ちるだけ。

 突然ビルが崩れ落ちるガラスの割れる音と同時に空の光を反射した青く見えるガラスの奥から赤い奇妙な物体がこちらへむかってくる。そして…

             ――喰われた…


「はッ!ぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

目が覚める。髪が目の前に落ちてくる。

「はぁ…またか…」

変な感覚だ。夢のはずなのに意識がしっかりあって、感覚もある風を分け落ちていくのを突然、巨大な何かにだべられる夢。

「……辞めて」

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