The end of magic 参章  不正事実 上

 コツコツと革靴が地面を叩く音が道に響く。

 辺りの風景を楽しみながら歩いている。片手には携帯電話、もう片手には黒い傘を持っている。携帯電話からイヤホンのコードが二度指に絡んでたれている。

「んん♪やはり田舎は良いなぁ…空気がいい都会より遥かに…ゴホッ…澄んでいて…ゴホッ…いぃねぇ。まるで森林にいるみたいだ」

男はそう言いながらコツコツと革靴の底を鳴らして横断歩道を歩いて行く。

 そこにスピードを出した車が勢いよく突っ込んでくる。車の前には男が一人、他には何もない。

 鈍い音が辺りにこだました。

 車の運転手が恐る恐る目を開けると男はフロントガラスをジッと見つめていた。

「じゃっ、邪魔だぞっ!きっ、き、き、気を付けろ!」

運転手は車の窓から顔を出してそう言った。そしてある違和感を覚えた。

「おっと、これは失礼。しかし…可笑しいですね…赤信号ですよ?」

男は笑顔でそう言った。それにたいして怒ったのか男はアクセルを一気に踏み込んだ。しかし車は動かない。

 確かにエンジンはついている。なにも異常は無いはず。さっきまで時速百キロメートルで走っていたのだから。

 運転手は気付いた。男が右足一本で車を止めている事に。

「なっ、ばっ、化け物!」

「失礼ですね…人に向かってそんな言いぐさ」

車はいつしか動かなくなった。エンジンはついたままその場所に止まっている。

「あなたはその格好の方がお似合いですよ」

男はその場からまた歩いて離れて行った。

 車のうしろでクラクションがなる。運転手はおかしく思い、車を出て前の車に駆け寄って運転席を見た。

「…!う、う…うわあぁぁぁぁぁぁっ!」

運転席の八つ裂きになった死体を見て腰を抜かした。そして乗ってきた車でその場から離れようとするが前に進めない。

 車二台は動かない。


「全く…田舎の人間はもっとマナーと言う物を知った方が良い…」









――僕の名前は久作。狭霧さぎり久作きゅうさく。よろしくね。




 大智は久作に案内されて二時間。たにを越えて森の中に入っていく。

そこから数十分歩くとちいさな小屋が見えてきた。

 その小屋は見たところ半分以上岩で隠れている事以外はただの酒場だ。

 酒場と言っても路地裏や道端にある様な街中の酒場ではない。木造のゲームなどで出てきそうな小屋のような酒場だ。

 現代の建築物とは思えないようなつくりだ。

「今何人?」

「え?」

大智は久作の言葉に疑問を抱いた。

「……よん…」

看板の方から感情の死滅したような声が聞こえた。

 声のした方向に目線を向けると大智と同じくらいの歳の女の子が一人看板の横でしゃがんでいた。

 久作は酒場の扉を開けて中に入った。

「おぉ、狭霧遅かったな」

小屋の中から声が聞こえる隙間から見た限り今喋っているのは右腕に刺青いれずみのはいった大柄の男だ。

「ちょっと道案内をしてたんだ」

「後ろの奴か?」

「あぁ…うん、まぁそうだね」

そう言って久作は開いたドアと背を平行にした。

「お、おい…そいつ敵の奴じゃねぇのか?」

その一言で店の中の視線が全て大智に集まった。

「待って、彼には闘う意志はない。それに記憶が無いらしい」

「演技かもしれねぇぜ」

「演技ではない」

「根拠は?」

「勘だよ。それに武器もない」

「せやな」

「急にどうした?」

「…」

「…」

しばらく沈黙が続く。

「まぁ入れや」

そう言って大智を奥の方の席に座らせた。

「で?何があったんだ?」

そう言って彼は大智に肩を組んだ。

「ヴァル、ちょっと外してくれないか?」

「……わかったよ、ちょっとで良いんだろ?へいへい」

ヴァルは元の場所に戻って行った。

「なに飲む?」

久作は大智にメニュー表を見せて言った。

 大智は一通り目を通して指を指す

「お姉さ~んジンとコーラをお願い」

久作の声に反応したウェイトレスのお姉さんが明るい声で返事をした。

「きゅう、俺らも傲ってくれよ」

「お前らは自分で払えよ」

久作は少し笑いながら言い返した。そして大智に向かって表情を変えた。

「本当はあるんでしょ?記憶」

大智は表情を変えず久作と目線を合わせる。

 久作は周りを少し見渡して大智に言った。

「名前を聞いてもいいかい?」

大智は答えようとしたが入り口側からの大きな音に邪魔をされた。

 開いたドアから入り口でしゃがみ込んでた少女が頭部から血を流した状態で飛んで来た。

「誰の許可でこんな場所で飲んでんだァ?」

入り口が暗くなる。

 体のデカい男が明かりをさえぎって扉の前です立つ。

「リヤちゃん!」

ウェイトレスのお姉さんが女の子のに駆け寄る。

 お姉さんは女の子を抱きかかえてカウンターの方へ走るとカウンターを飛び越えた普通のウェイトレスじゃ到底出来ない。

 男は軽く舌打ちをして握っていた何かを投げ付けてくるのを見て同時に大智は自分から見て左の机の足を蹴った。

 久作も同じようにほぼ同時に蹴った。

 机は横になり、そして素早く机の影に隠れる。無数のが無数机にぶつかる。

 周りを見ると重傷はゼロ。軽傷の人が数人居る程度。

「手加減したのか…?」

「君、その動き何処で?」

「わからない…っ!」

久作は立ち上がった。

「個々で飲むのに誰の許可がいるって?」

久作は挑発ちょうはつするように男に言い放った。そして男に向かって走り出す。

 男は久作に向かってまたを投げ付ける。

 久作は地面を蹴り、数秒空中でとどまる。久作の下に何かが通り抜ける。

 大智が落ちた何かを拾う。それは白く何度か見たことのある物体。

「…コメ……?」

大智は久作の方を見る。空中に米のような形の物が舞う。

 久作は飛んでくる白い粒を避けつつ男に近づく。そして男の手前で跳躍、顔の高さに右の脚を回す。しかし寸前で足首を捕まれる。

「なにか言ったか?」

久作は左脚でもう一度顔に向かわせるが右脚を掴んだてがそのまま大きく振り手を離した。

 壁にあたって穴が開き砂埃がつ。そこから久作が立ち上がる気配はない。

 その場にいる全員が久作が投げられて飛ぶのを目で追った。それは大智も例外ではかった。

「狭霧!」

壁にめり込んだ久作は反応しない。

 埃が少しずつ晴れていくが久作は動かない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る