The end of magic 弍章  λ

 必死だった。

 いままでずっと生き残ることに必死で考えてる暇なんてなかった。

 大智はいたる所から血を流しながら切れた片腕と飛び出した左の眼球を見つめる。

 もう立つ気力も無い。ただ目の前の子をみつめることしかできない。

「そうか…僕は…」





 十一月十三日 月曜日



「でさ、結局…昨日の急な用事ってなんだったんだよ」

幸輝がいつものように絡んでくる。そしてその後ろから視線を感じる。

 幸輝と大智は二年の教室まで歩いていく。やっぱり後ろに視線を感じる。

 昼休みは幸輝に購買戦争こうばいせんそう参加のお誘いがくる。大智はもちろん断った。弁当があるのに購買部に行く理由がない。

 お金の無駄遣いは極力避けたい。





 そうこうしてる間に時間は経ち気が付くと最後の授業も終わっていた。昼休憩のあとが一番短く感じる。

 幸輝は空気に違和感を感じたのか少し警戒する。

「なんか…視線を感じる」

そう幸輝がそう言った時、幸輝は後から気配を感じた。

「今ごろ気付いた?」

「ひっ…!」

あずまの軽い悪ふざけが幸輝の最大の弱点だ。

 それを見て大智は少々笑う。

「相変わらず仲良いね」

大智は笑いながら言った。

「どこがっ!」

真剣な顔で否定する幸輝を見て。

「んで、どうしたの?朝からずっと附けてたよね」

大智がすぐに切り替え、本題へ移る。

 東の表情が少し沈む。

「ずっといたのか…」

幸輝が少し申し訳なさそうに頭をかく。

「それで…どうしたの?」

東の目付きが変わる。まるで厄介な奴に絡まれた貧民街の盗みを働く小さな子供のような目付きだ。

 ――なにかある。

大智は小さく息を吐いた。

「言いにくい事なら場所を変えよう」

そう言って大智はその場から離れようとする。しかし東は下を向いたまま大智の袖をつまんだ。

「ここでいい…」

その表情は恐怖や悲しみ程度の表情ではなかった。

 東は二人を近くの席に座らせて東も同じように近くの椅子に腰をおろした。

「アタシ…ずっと誰かに附けられてるの…」

薄い金の髪で隠れた左目がまっすぐ二人を覗く。

 大智は何も言わず話を聞いている。

「それってストーカーって事か?」

幸輝の問いに東は静かに頷く。

 そして幸輝は大智と顔を見合わせた。

「俺達に任せろよ。長い付き合いじゃねぇか」

幸輝は少しだけ間を開けて言った。

「ごめん」

東は謝った。

「東が謝る事じゃない」

そう言って大智は少しうつむく。

「じゃあ今日は三人で帰ろうぜ。久しぶりに」

幸輝がいつものトーンで二人に言った。大智は少し考え、頷いた。東は少し笑みを浮かべた。幸輝らしい答えだ。

 大智は何かを見つけたように足を止める。

声が聞こえたうような気がした。

「どうしたよ、はやく行こうぜ」

幸輝が振り向いて言った。

「なんでもない。今行くよ」

大智は二人の元へ走った。

 校舎を出て校門を通りすぎ、駅についた。

「俺もう切符買わなくていいぜ」

そういって幸輝は一枚のカードをひらひらとはためかせる。

「ふーん」

東が興味なさそうに幸輝の話をスルーする。

「え、なんか反応薄くない?」

それはそうだ。高校生活の半分以上を切符で過ごして今さら何故変えた?なんて話になる。

 大智は少しだけ視線を感じた。

 ホームに入ると、電車を待つ人が意外に多く、列を成して待っていた。

 三人も列の最後尾にならぶ。すると携帯が鳴る。それも全員同時に。

 大智はメールの内容に思わず目を疑った。

『八つ裂きにしてやる』

その一言だけだった。そしてそのあと…

 大智の視界が傾く。体は一瞬にして引き裂かれた。

 いたるところから断末魔が聞こえる。その中に東と幸輝の声もあった。

「あず……」

意識が遠のく――。

 少しづつ視界がぼやけていく――。






 時計の音がカチカチと秒刻みでなる。そこは息をする必要がないくらい体が楽に動く。しかし、瞼が重くて開かない。まるでもう目覚める事がないと体が判断をしたみたいに。起き上がろうとしても自分の体重に課せられた重力で体を起こすのが難しい。

「ここ…は…」

辛うじて口は動かせた。

「あぁ、起きてたのか。」

聞き覚えのある声だ。一度聞いた。似たような雰囲気の場所で。ここには来たことがある。大智はそう思った。

「あまり無茶はしない方が良いと思うけどなぁ。。」

心配そうな声でそう呟いた。

 苦戦しながらも目を開くが、眩しさでまた閉じる。かろうじて数ミリだけ開けている。

「キミが幾ら書き替えても能力には限界がある。どんな能力でも同じように限界や代償が課せられる。それを越えれば使用者の体が朽ちる。メリットとデメリットさ。ボクはキミを影から応援してるよ。」

そう言って彼女は大智の視界から外れた。

 大智はそっと目を閉じた。

 轟音がする。辺りには音をさえぎる壁もなく一直線で大智の耳へ入ってくる。

 燃えた火薬の匂いと薬の匂いが辺りを充満していた。血の臭いが遠くから鼻を劈くように流れ込む。

 目を開くと煙と汚染された空気で濁った空が目に飛び込んでくる。

 辺りは火薬と血の匂いが充満して鼻がもげるような匂いになっている。

「しっ、死体が動いてるっ!」

そう言って男は銃口をこちらに向けた。

「まって!僕はっ…」

一瞬の事だった。横から弾丸が飛んできた。その弾丸は大智に銃口を向けた男のこめかみにあたって血を吐き出した。

「大丈夫か?」

銃声がした方向から緑のミリタリージャケットを着て銃を構えた青年が走ってくる。そして大智の側まで来ると体を低くして身を隠した。

「災難だな。味方に殺されかけるなんて」

「みかた…?」

「その野戦服…僕達の敵の服だろう?」

「僕たちの…てき?」

大智はその場の状況を理解できなかった。

 轟音が響く。風圧が遅れて届き二人の髪を揺らす。

「もしかして君…記憶がないのかい?」

彼はそう言って手を差し出した。

「ならこっち側に来なよ」

そう言ってかれは少しだけ笑みを浮かべた。

「こっち…側?」

青年は優しい笑みを浮かべて言った。

「そう、革命軍こっち側に」

 ――そうだね。そうしよう。明日から宜しく。

声が聞こえた。その声は非力で直ぐに消えて居なくなった。

「如何したの?」

青年は大智の顔を見て不思議そうに言った。そして銃のグリップを支えてる手の人差し指を引き金にかけた。

「どうする?」

――死ぬのか

「仲間になるか。」

大智は嘆息した。

「わかった。そうだね。そうしよう。宜しく」

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