The end of magic 壱章 下 死シテ尚生キル者

 倒れた――。

 何があって何故倒れたかはわからなかった。


 目が覚める。

「あら?やっとお目覚め?お寝坊さんだこと」

見てみれば見覚えのない天井。辺りは入り組んだ機械が密集していた。

 目の前の女性は此方こちらを見て笑った。

「あの…」

「気にしなくていいのよ、ここはキミの思考の中」

正直何を言ってるのかよくわからなかった。

「何が何だかって顔をしてるね。私に言える範囲で言うとね、キミはこれから虹金石こうごんせきと言う石を集めてほしいんだ。それはキミのをくれるはずだよ」

彼女はそう言うと大智をじっと見つめた。

「さあ、行っておいで。キミは更新する事ができる」

意識がとおのく。段々と視界がぼやけ、堅い感触がふれる。

 目を覚ますとさっきの家の床で眠っていた。

「行かないと…」

大智は立ち上がってその家を出た。

 あの場所についた。始まりの場所に…

「ケケケ…マタキタ」

化け物を見るなり大智は殴りかかる。

「ムダ…ムダ…」

大智は走り出した。

「ケケ…ニゲタ…ニゲタ…ケケケ…」

化け物は大智を追い掛ける。その姿はまさに化け物。

手のひらの形をした足が四つあり、死体の頭のような白い奇妙な頭で体がない。 

 予想道りの結果。追い掛けてきているのは三体。

 大智は走ってきた道を引き返す。

「ケケ…シニニキタゾ…」

化け物はそのまま体を突っ込んでくる。

約一メートル。化け物は大きく口を開ける。大智は隠していた包丁を突き出す。

「グ……グア…」

包丁は口の中に刺さった。

「オ…オノレ…」

包丁が刺さった化け物は少しふらついて倒れる。そして徐々に膨らみ始め、そして…爆発した。

 轟音が響いた。

「爆発に巻き込まれるってこんな感じなんだな」

土煙の中から声がする。

「熱くて、煙たくて、ちょっと息をしたら咳が出るような焦げ臭い煙に囲まれる」

土煙から大智が歩いてくる。服はボロボロで軽傷で済んでいる。

「オ、オマエ…ナンダ………」

化け物が後退あとずさりしながら言った。

「許さない。母さんのかたきだ」

 大智は嗤った。そして残りの化け物も次々と倒していった。

 戦いが終わる頃、大智の体には傷一つなかった。

「大丈夫?」

大智は女の子に言った。

 彼女は頷くだけで何も言わない。

 警察に連れて行くのは可哀相かわいそうだが、ここに置き去りにするのもおかしい。

 大智はもう一度同じ答えを出した。しかし何もおこらなかった。

「あ、お兄ちゃんおかえり。また小さな子を誘拐してきたの?」

大智は雪の言葉に違和感を感じた。

 大智は風呂場で考えを巡らせた。帰ってすることは前回と変わらない。後はあの事件の阻止だけだ。大智は湯船に顔を埋めた。水面にはブクブクと上がってくる空気とそれが弾けた反動で出た波紋だけになった。

 大智はふと雪の言葉を思い出した。

小さな子を誘拐してきたの?』

「また?」

今までに小さな子を連れ帰った事があっただろうか。

 風呂を上がり、着替えると雪の部屋へ向かった。ドアの前で扉を数回ノックする。

「はぁい」

中から声が聞こえてくる。

 大智は中に入るなり雪に言い放った。

「今日は何日だ?今日が何回きた?」

その言葉を聞いて雪はクスッと笑って携帯電話を手にした。

「お兄ちゃん大丈夫?今日は一回しかこないよ?今日は…」

携帯電話に視線を落とすと雪は血相を変えた。

「はれ…?今日が…二回目…?」

驚くのも無理はない。普通じゃありえない事が起こっているからだ。

「お兄ちゃん…どう言うこと?」

雪は不安げに聞いてくる。

「わからない。けど何かしらのよからぬ事が起こっている」

大智は他にも引っかかる点はいくつも見当たる。死んで時が巻き戻るなら何故雪も前回の記憶を持っている。

 大智は出来るだけの知識を絞った。しかし何もわからない。

「お、お兄ちゃん?」

「なに?」

雪は何も言わない。ただパニックで何をすれば良いのかわからない。

 大智は雪に今日はもう寝るように言って雪の部屋を出た。

「寝ても良いのか…?」

大智は前回の事を思い出した。姿の見えない化け物。またあれが来るなら寝ることは出来ない。大智はベッドの上で仰向けになって考えた。

「もしあいつも戻れるならあの時。僕が死んだ後に雪も…そう言えば化け物も『マタキタ』って言ってたな。もしかしたらあいつらも…?いや…あまり考えるのは辞めよう…いまは…目の前の…こと…を…」



 目を覚ました。少しガッカリした。

 大智はボッとした頭で考える。そして携帯を見た。

 画面の明かりが大智の顔を照らす。

「十一月十一日…」

時間が進んでいる。それと同時に大智は不安を覚える。

 部屋を飛び出して雪の部屋へ向かった。

「ゆきっ!」

大智は数回扉をノックして扉を開けた。

「…あえ?おにいひゃん…どひたの?」

いつも通りの雪がぬいぐるみを抱いて目を擦る。

 大智は安心すると足の力が抜け多様に膝をつく。

「え…ちょっ、お兄ちゃん?だっ、大丈夫?」

大智は少し嬉しそうに立ち上がった。

「いや、なんでもない」

大智は雪の顔を見て笑い掛けてそのまま部屋を出た。

 雪はただ不思議そうな顔で大智を見ていた。

 大智は部屋を出ると母の部屋へ向かい、少し扉を開け中を覗く。

 中は安心して熟睡する少女と、いつものように寝る母の姿がある。それ以外は異常どころか本当の家族のように見えるくらい普通だった。

 部屋に戻ると大智の携帯が鳴った。祐祈ゆうきからだった。内容はいつも通りの今日出来たことを報告するだけのメールだ。

 祐祈は中学の同級生でよく相談に乗っていた。今は鬱になってからずっと家に引き籠もっている。

 小学生の時からメンタルが弱く、病みやすかったが鬱になるまでは考えてはいなかった。

 そのメールは良い報告だった。

『昨日は授業に参加できた。でもやっぱり私なんかが授業を受けるなんて百年早かったんだ…』

まあ良い方である。

『嫌なことでもあった?』

大智がメールを送るとすぐに返ってきた。

『授業中に胃が痛くなった…』

『それでも参加はできたんなら良い方だと思うよ』

大智は励ました。

『でも結局一時間で帰った…』

『いや、完璧だよ。そんなに頑張れたら次も大丈夫。今日は休みな。』

『うん、ありがとう』

ただそれだけ返ってきた。

「今度何か持って行ってあげるか」

祐祈のちょっとした頑張りに大智は少しだけ励まされたような気がした。

「僕も頑張らないとな…。」









――また大智に頼ってしまった。

どうしてだろう……――。

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