第2話 静電気
サンダーマン
集合時間の十分前には到着するように家を出たが実際に着いたのが二十分前だったので、天満は今日のデートプランのおさらいをしていた。
「とりあえず、このまま二人で水族館に行って、お腹空いてきたら夕ご飯食べに行き、夜近くの大きな公園で締める……抜けはない!……と思う」
緊張はしているけど午前中にしっかり放電してきたので、そこまで空気もピリピリしてない。それでもしっかりと心は落ち着かせないといけない。
しかし、先ほどから何かがずっと引っかかっている……。忘れ物か?
「あぁ! 手袋だ!」
ここに来る途中によった病院に、放電時に外した絶縁性手袋を置いてきてしまったいた。
「やばい……。今から取りに行っても間に合わない」
デートが始まる前からミスしたことを焦る中、昨日のデートシュミレーションで何度も聞いた声をかけられて顔を上げる。
「あの……。あ、やっぱり山田君だ。おはよう!」
突然だったので、滑稽なことにただただ挨拶を返すことしかできない。落ち着け、俺。
「お、おはよう」
「あれ? まだ集合時間十五分前だよね。待たせちゃった?」
「いや、俺も今着いたとこだから! よくわかったね。もしかして探させちゃった?」
落ち込んで下を向いていたので迷惑をかけてしまったかもしれないと天満は思った。
「ううん。すぐわかったよ。だって、帽子かぶってるの山田君だけだったんだもん」
確かに周りで帽子をかぶっているのは俺しかいなかった。笑ってうなずく。
「ほんとだね。早いけど早速行っちゃおっか」
「待って! 改めまして、川後夢です。みんなには夢ちゃんって言われてるけど好きなように呼んで!」
あぁ、そっかまだ面と向かってしゃべったこと一度しかないんだ。俺も自己紹介しなきゃ。
「俺も夢ちゃんって呼ぶね! 山田天満です。いつも名前で呼ばれてたから天満とかでいーよ」
歩きながら改めて夢ちゃんを見ると、いつもと雰囲気が違うように思える。かわいい。
「天満には今日は聞きたいことがいっぱいあるかんね。覚悟しといて!」
かわいい。話が入ってくるのが遅れる。
「うん。なんでも聞いちゃって! 今日のデート誘ったときは、いきなりごめんね。
長時間二人になりたかったから。俺も夢ちゃんに話さなきゃいけないことがあるんだ」
そう。今日自分の体質のことを夢ちゃんに話すと決めている。
「じゃあ私、早速ひとついい? さっきも気になったんだけど。なんで帽子かぶってるの?」
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ゴム
「うーんと。かぶってる理由は帽子取るのが一番早いんだけど。たぶん帽子取ったら俺のこと半分くらい話しちゃったことになるんだよなあ」
と、言いながら歩くことをやめ立ち止まった天満は帽子を取った。
そこにはサ◯ヤ人のように髪の毛がいろんな方向に広がって逆だってる頭があった。小さくパチパチと音を立てながら。私は唖然とするが、何が起こってるかはわかった。
「静……電気?」
しどろもどろになりながら私は聞く。天満は帽子をかぶり直し歩きながら答える。
「その通り。なんでこんな静電気がひどいかは話すつもりだけど、長くなるんだ。とりあえず水族館入ってからでいい? ここで待ってて!」
天満はそう言ってチケットを買いに行きすぐに戻ってきた。
「あ、お金。」
私はチケット代のことを思い出した。
「いいっていいって! 今日来てもらったし。さあ入ろう!」
そう言った天満は一度躊躇したようだが勇気を出したように私の手を取り入り口のゲートをくぐった。
急に手を繋がれたら私は少しは赤面とかするはずなのにしていない。頭の片隅にさっきの静電気のことがあるからか、思考が止まっている気がする。早く話の続きが聞きたい。
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サンダーマン
俺が水族館を選んだ理由はこの雰囲気だ。落ち着いていて、暗く、大きな水槽の魚が心を癒してくれるから放電のリスクを減らしてくれる。。
この水族館にはルートがあり中盤に大きな空間が広がり、巨大な水槽がある。前半は談笑しながら魚たちを見た。思ったより早めのペースで夢ちゃんは歩いていくので早く話の続きを聞きたいのかもしれない。一番広い水槽に到着した。二階のすみは人があまりおらず、休憩できるスペースもあったのでそこに座る。俺から口を開く。
「ごめんね。話の続き気になってたよね。担当直入に言うと俺は帯電体質なんだ。」
夢ちゃんは俺とまったく同じ反応をしている。俺が医者からその事実を伝えられた時と。
「え、どういうこと? 帯電?」
夢ちゃんの理解を納得させるために詳細を伝える。
「自分の体が電気を溜めやすいというか、普段は静電気程度なんだけど、数日に一回放電って作業しなきゃスタンガンレベルまで電気溜めちゃって。その、皮膚と皮膚の接触が通電の条件で。あと、感情が昂ぶると勝手に空気に放電しちゃって……」
天満は説明の順番を決めてきたけどいざ言うとなると頭が真っ白になっていた。夢の表情が驚きに満ち溢れてる。まるで何かを思いだしたように。夢が言った。
「最初からしっかり話して。全部聞いてあげるから」
気持ちが楽になった。天満は落ち着いて話し始める。
「俺が雷にうたれて、入院したのは覚えているよね?」
夢が頷く。
「そりゃ、お見舞い行ったから覚えてるよ。学級委員長としてだけど」
「あの時はありがとう。眠っていた俺は母さんを感電させた衝撃で意識を取り戻したんだ」
夢ちゃんが反応した。
「感電って……。危なくないの?」
「今は大丈夫。時々病院や家にある機械で放電してるから。それに皮膚と皮膚が触れたら通電するからいつも絶縁性の薄型手袋してるんだ。今ははめてないけど。それに自分を見失うほど心が動揺すると空気に放電してしまうんだ。最初のころに二回やっちゃってそれ以来してないけど」
「それに俺は今は万が一がおこらないように他人を避けてるから……大丈夫」
「一ついい?」
夢ちゃんが聞く
「さっき手をつないだよね。でも私は手袋をしてないのに電気来なかったよ?」
天満は答える。
「それはたぶん夢ちゃんが」
『ただいまよりCスタジアムでイルカショーが始まります』
館内放送が話を遮る。天満より先に夢が口を開く。
「私イルカ大好きなんだよね! 見に行っていい?」
俺はすぐに返事をした
「あ、あぁ! いいよ、見に行こう!」
俺は夢ちゃんの手を取ろうしていたのに、先に手を握ったのは彼女のほうだった。少し触れたあと決意したように強く握ってきた。こんな風に素手で人に触れたのはいつぶりだろう。強く握りしめられた夢ちゃんの手はとても暖かく俺の心を包み込む。
天満の目から涙がこぼれているのに放電はしていなかった。
雷男 you @youtoainiin
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