雷男

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第1話 電撃

    序章

「私もいまだ信じられませんが、天満てんま君はいわゆる帯電をしやすいカラダになってしまったかもしれません」

 医者が言った。俺はすぐに納得できなかったので口が動かない。雷に直撃し奇跡的に意識を取り戻してそんな体質になるなんて漫画の世界でしか聞いたことがない。隣に座る母を見るとあからさまに動揺している。ヒステリック気味に母が言った。

「天満はいつも通りの生活に戻れるますよね? 人生に何も影響ありませんよね?私はもう大丈夫ですし!」

 医者が応える。

「まだ何とも言えませんが、おそらく皮膚と皮膚の接触が通電の条件だと思いますので、人と生身で接触することを避けることになるかもしれません……。とりあえず一日数回放電することを意識することから始めてみましょう。お母さまの件はおそらくずっと天満君が眠ったまま帯電し続け一気に放電したから電圧が強かったのでしょう。」

 母が泣きそうな罪悪感をにおわせる顔で俺の顔を見ている。何も悪いことはしていないのに。最初に俺の被害を受けたのは母さんだったのに。

 まるでどっかのアニメのスタンガンの音で目を覚ました俺の最初に目に映ったものは自分の部屋のものではない天井だった。次に、すぐ横で感電して倒れている母さんが目に入った。


 眠っているとき俺は長い夢を見ていた気がした。


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  ゴム


  今日の天気予報に落雷注意が出ていたことを思い出し、私自身に電撃的なことが起こったのでなんらかの関係があるのかとくだらないことを想像し一人で失笑する。まさかあんな典型的な、放課後に木の下に呼ばれる経験を私がすることになるとは夢にも思っていなかった。そう、なんと私こと川後夢かわごゆめは同級生の山田天満やまだてんまにデートのお誘いをうけたのである。


「夢ちゃんさぁ、そんなに動揺することないんじゃない? ついにきたんだよ! 春!」

 今日は親友の青木羽美華あおきうみかの部活が休みなので帰りが一緒だった。羽美華はふわふわしていて気が張らなくて済むので一緒にいるのが楽しい数少ない友達の一人だ。

「でもね、よく考えてみてよ。あんなイケメンで性格もよくて友達多くてなんでもできちゃう男がなんで私なんかを好きになったんだろう」

 私は内心の喜びを悟られないようわざと悲観的に反応したつもりだが、もともとこういう性格だったかもしれない。

「あれ、天満君ってそんな人なの? 私三年で初めて一緒のクラスになったけど、そんな明るいやつじゃないよ? 話しかけてもすぐどっか行っちゃうし」

 そんなはずがないと夢は思った。一年の時一緒のクラスだった夢は山田天満はいつでも大勢に囲まれていて、楽しそうだったイメージがある。夢は反論する。

「嘘だぁ。だって私あいつを見るたびに騒がしかった気がするもん」

 羽美華が驚く。

「ほんとに⁉ この前なんか頭についてるごみ取ってあげようとしただけなのに大声で怒ったんだよ? 『危ないから触るな!』って。その時、体でもわかるほど空気すんごいピリピリしてたし。ずっと帽子かぶってるし」

 確かにさっきは季節に合わず帽子をかぶっていた。顔に傷のようなものもできていた気がする。夢は不安になってきた。性格が変わってしまったのかもしれないと。

「私こわくなってきちゃったよ」

「今週デートするんでしょ? そん時に色々聞いちゃいなよ! でも、あの天満くんと読書しか興味ない根暗な君がどんなところで知り合ったのよ」

 茶化されている気もするが今は悪い気がしない。私自身も目に入るだけでそこまで話したこともなくよくわからなかったので適当に返す。

「私そこまで山田くんと喋ったことないんだよね。一回班が一緒になったくらい。その時もそこまで会話してないし。あ、でもお見舞いに学級委員代表として会いに行ったな」

「え!絶対そのお見舞いじゃん! 夢ちゃん実はそのとき恩でも売ってたんじゃない」

 それなら話が早いがそんなこともない。かもしれない。

「それはない。お見舞いなんて私以外にも友達がいっぱい来てたから」

「とりあえず今週の、とののお出かけで真相を明らかにしますよ」

 自嘲気味に話して無理やりこの話題を終わらせた。

 追い風の春一番が私の歩みを軽くしている気がした。

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  サンダーマン


 あんなに緊張したのは何年ぶりだっただろう。天満はかかりつけの病院で放電をしていた。でもやっぱりあそこまで感情が揺らいでピリともしてない彼女は運命の人かもしれない。今日の出来事を主治医の神井かみいさん話す。

「でもよかったよ。久しぶりに違う話が聞けて」

 神井が言った。天満は聞き返す。

「違う話?」

 神井が答える。

「だって天満くん学校のこと聞くたびに『誰とも話してない』とか『誰も近寄らせなかった』とか不安になってくるもん。君が目を覚ました頃はこんなにも大勢のお見舞いが来るものなのかと驚いたのに、今は自分から友達なんかいらないって言ってるし」

「そりゃあそうでしょ。もし感電させちゃったら危ないし」

 天満が慣れた口調で言う。

「大丈夫だよしっかり放電してるし、絶縁体の超薄型手袋付けてるし、感情の大きすぎる高ぶりは自分で制御できてるみたいだし」

 神井が安心させるがやはり天満は余計なつながりは拒絶したがる。

「万が一だよ、特に感情のコントロールはできてるかわからないし」

「僕は天満君のデータ記録と放電処理の手伝いしかできないから、楽観的なことは言えないけど、たぶんもうコントロールはできてると思うよ」

「やっぱり神井さんの言葉を聞くと自身をもてるよ。とりあえずまず今週のデート絶対成功させてやる!」

 そう言って天満は放電を終えてお礼を言い病院を後にした。

 ――――――――――――――――――――

 神


 天満が病院を出てった後、神井は放電された電気量をデータ処理していた。

「やはり感情の高ぶりがあったせいか電気量が多いな、限界値を超えてなかったからひとまず安心だが……」

 神井はあのときのことを思い出していた。天満に感情の高ぶりが一定値を超えたとき周りに空気放電をしてしまっていると伝えたときのことを。そのときでさえ罪悪感や恐怖や悲しみを感じた天満君が放電してしまったことを。運よく感電しなかった私を死人のような絶望的な目で天満君が見ていたことを。あの時の目と比べると今の彼の目は生気をとても取り戻している。天満君の最後の闇を取り払えるのは噂の思い人しかいないのかもしれない。神井はひとり呟く。

「どうか天満君のデートがうまくいきますように」


  

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