第7話 脱出
これだけの数だ。チマチマと触手を使って削っても、キリがない。そもそも、自分が自分を認識し、まだ7日間。たったこれだけの日数しか、身体を扱っていない。ある程度、使い方は分かるとはいえ、少し不安が残る。さらに空歩の存在だ。全く空を飛ぶという経験を知らない。今日初めて、空を駆けたのだ。正直、派手に動き回りバランスを崩して、地獄まで一直線、なんということになりかねない。
だが、触手は物質的な存在ではない。あくまで、自分の能力。そういう概念だ。能力ゆえ、流石に制限はあるがある程度自由に形を操ることが出来る。熊を倒した時のように、実体を持たぬ概念体として体内の潜り込ませ、爆殺。今では完全な力を発揮することはできないが、この程度の数なら、問題はないだろう。
触手を展開する。美しい黒がぬらりと現れていく。鱗のついたソレはまるで、龍の身体。
意思を込めていないのに、ユラユラと勝手に動く。
触手を概念化し、変形。円錐状のその物体は銃弾。それを高速で回転させる。漆黒の銃弾は、殺意を増し回転する。軽く衝撃波が起きるほどの速度に達した殺意の塊は、自分の漆黒の意思をもって、その力を完全に世界へ顕現させる。
高速回転した銃弾を解放する。光さえも吸収してしまいそうな弾丸は、ゆっくりと蝙蝠に向かって進んでいった。数十、数百のソレは、一匹一匹に向かう。まるで弾丸が舞っているような光景だった。
蝙蝠は必死の抵抗を続ける。自慢の刃状の翼を使ったとしても、あるいはその鋭い牙を剥きだしたとしても、弾丸に何らかの効果がある筈が無い。
一体、また一体というように弾に触れ、黒く変色し死体となった身体が森へと落ちていく。自分達の叶う相手ではないと判断して、森の中に逃げ込もうという蝙蝠達もいた。
しかし、その殆どは舞うように空を動く弾幕に追いつかれ、一瞬にして死体へと変えられる。それでも何匹かの蝙蝠は運良く弾幕から逃げ出すことに成功し、脇目も振らずに森の中へと逃げ込もうとした。だが、自分にはまだ触手が残っている。月の光を吸い、そこだけ深い穴が開いているかのような、触手を突き刺し、喰らう。
触手を使用してから数分。既に月明かりの照らす夜空に蝙蝠の姿は無く、殺意の象徴もまた自分が指を軽く鳴らすとまるで今までそこに存在したということが嘘のように姿を消す。
残っているのは自分、ただ一人。
冷めた目で宙を見つめる自分。戦闘に勝った、という高揚感は無い。圧倒的戦力で捻じ伏せた先程のものは戦闘と呼ぶことすらおこがましい。ただの蹂躙だ。
一歩足を踏み出し、そこから加速して森を離れる。
ふと、先程の蝙蝠の魔物のことが気になり、出発前に記憶してきた魔物図鑑の内容を思い出す。しかし、どういうことなのだろう。蝙蝠も熊と同じで記憶に無かった。あれだけの数が一気に襲いかかってきたのだ。完全に種として確立されているが、熊のように最近出現した種族なのだろうか?
戦闘を思い出す。あの時、自分は蝙蝠をかなりの数、食い千切っていた。そうなると、当然魔石も触手に吸収された筈なのだが、熊の時とは違い、あまり強くなったという実感が湧かなかった。
疑問に思った自分は記憶を探る。
魔石を体内に取り込めば、必ず能力の成長が出来る訳ではないらしいとあった。
つまりは一度の魔石を取り込んだだけで成長したことを感じ取れた、熊が例外だったということになる。
また、余りに実力が低すぎる魔物の魔石を取り込んでも意味は殆ど無い。
しばらく夜を駆け、広い草原に到着する。その中でも大きな岩のある場所に降り立つ。
やっと一息、つくことが出来るか。
岩に寄りかかり、草の生えた地面に腰を下ろす。
取りあえずはここで一晩明かして、明日になったら街なり村なりの人のいる場所を探すとしよう。家に置いてあった地図によればこの周辺に街や村は無いようだが……さて、どうだろうか。
正直、自分が眠りにつき目覚めた。その間の正確な時間は分からない。
数百年と仮定してみよう。
確かにそれだけのブランクがあれば、情報が不完全であることもあるだろう。だが、自分達の隠れ家周辺に住み着いている魔物の情報が続けて2匹分も存在しないということがあるだろうか。
獣である狼の情報については普通にあったのだから、完全に信用出来ないという訳ではないのだろうが。また、森の規模についても同様である。地図ではもっと森が小さかった筈なのだ。少なくても何時間も走り続けてようやく抜け出す……という規模では無かった。
しかし、そんな風にウジウジと分からぬことを考えても仕方がない。飯を喰おう。
触手を展開し、準備を始める
盲目の死神〜黒い触手は静かに喰らいたい Deep @DeadManS00
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