ダメ人間は今日も笑う

「――ところで、神様」


 私は、ふと疑問に思った。


「なんで私のような『ダメ人間』を、勇者に選んだんだ?」


 ――そう。

 私のようなダメ人間は、世界を救える素質なんてものはこれっぽちもありやしない。

 めんどくさがり屋だから、世界なんて救う前に滅んでしまうだろう。


「適任なんて、他にいくらでもいるだろうが……」


 私には、世界を救うカギとなる『スゴイ知識』なんてものはない。


 ただ、エロ漫画が好きなだけだ。


 ただ、エロ漫画が描けるだけだ。


 一体、それが何の役に立つというのだ。


「エロ漫画なんて何も役に立たない。――そうだろ?」


「………………………………ああ」


(なんだ、図星かよ……)


 エロ漫画は社会から冷遇されている。

 いつの時代もエロ漫画が明るく迎え入れられたことはない。


 みんなエロいことが本能的に好きだ。そのはずなのに、


『エロは恥ずかしい』


『エロは汚らしい』


 みんな心のどこかでそう思っていてエロを隠したり、蔑んだりする。


 私の描いたエロ漫画がアニメ化した直後もそうだった。


 インターネットを通じ、エロを毛嫌いする奴らに目をつけられた。

 ありもしない事実とひん曲がった偏見でボロクソに叩かれる。

 そして、それが誤解を拡大させながら世間に伝わっていった……。


 結局のところ、どんなに内容が面白かったとしても、『エロ漫画は汚いもの』という世間の悪印象は拭われることはない――これが世の定めだった。




「エロ漫画が世界を救えたら、笑っちまうよな」




 私は、自嘲混じりに笑って見せた。


「…………………」


 沈黙が流れる。神は何も言い返してこない。


 私自身分かっていた。『エロ漫画』なんてものは、そんな有用なものではないことを。


 『エロ漫画』なんて、体の内側から溢れ出す欲望を一時的に満たす、いわば、ジャンクフードみたいなものに過ぎないのだ。


 私自身、『エロ漫画』が人生に大きな変化をもたらしたことは一度もない。

 むしろ、私は周りから取り残されていくばかりである。


 私が究極のエロを求めている間、同期は結婚、そして出産。

 確か、三人目が生まれる知り合いもいたっけな。


 同窓会に行けば、みんな仕事や家庭のことばかり。いつも明るい話でもちきりだ。


 それに対し、私は、暗くジメジメとした部屋で一人ぼっち。淫靡なものをシコシコ描いて金を稼いでいる。


「私、エロ漫画を描いてるんだ」


 ――そんなこと口が裂けても言えない。

 口にしたら最後、私は『明るい社会』から追放せざるを得なくなるだろう。


 もし、本当の自分をぶちまけられたら――


 もし、本当の自分を受け入れてもらえたら――


 ――そんな甘いことを考えていた昔の自分が醜くて仕方ない。


 今の私は、そんなことは一切望まない。

 明るい家庭に包まれたいだの、

 社会に受け入れてもらおうだの。

 生ぬるい考えは過去においてきた。


 私は、『エロ漫画』とともにこれからも生きていく。

 究極アルティメットな『エロ漫画』を追い求めていく。

 ――ただ、それだけだ。




 ――その時。頭上から声が聞こえる。


「意志は固まったか? エえぐちよ」


「人の脳内勝手に見るな、覗き魔」


 ったく、おかげさまで、久しぶりにネガティブな気分になっちまったじゃねぇか。


「とにかく、私は、世界なんかどうでも良い。エロ漫画を描いて、エロ漫画を読んで暮らしていければいい」


 私は、きっぱりと宣言した。

 異世界転生なんてしたくない。世界なんて救いたくない。その意志は固かった。


 だが、その意志はすぐに揺らぎ始めた。

 神が、私に興味深いことを言ってきたのだ。


「ああ、そうか。貴様には、まだ伝えていなかったな。——これから転生する『世界』のことを」


「は? なんのことだ?」


「どおりで我に反抗的なわけだ。全能である神に、人選ミスなどありはしないからな」


「…………?」


「——よく聞け、エ口えぐちよ。これから貴様が転生する世界は、ただの世界じゃない……」


 空間を震わせるほどの神妙な声色。

 さっきまで女体にイチモツを生やして爆笑していた神様とは打って変わって、至って真面目な口ぶりだった。


 空気が変わったことを感じ取った私は、恐る恐る神に聞き返した。


「その世界は……どんな世界なんだ?」


「それはだな……」


 私は、ゴクリと唾を呑んだ。

 ——そして、神は思いもよらないことを突きつけてきた。


「貴様が転生する世界、それは——


『あらゆるエロが禁止された世界』だ」


「————っ!?」


 私は眉をひそめた。


『あらゆるエロが禁止された世界』……?


 なんかどこかで聞いたことあるような、ないような。


 ——ダメだ。うまく思い出せない。頭が痛い。


 首を捻っている私に対し、神は話を続ける。


「その世界では、国に許可を得ない限り、セックスはおろかキスも許されていない。無断でエロいことをしたら、すぐさま連行だ」


「なんだそのクソみたいな世界。ただの生殺し地獄じゃねぇか」


『エロ』を全面的に禁止する。

 それは、人の三大欲求のうちの一つを奪うということに他ならない。


「――ちなみに、時代と場所は?」


「中世ヨーロッパだ」


「——まさか、剣と魔法の世界?」


「うむ。――流行りの世界は嫌いかね?」


「世界に流行りとかあんのな」


 どうやら神様はトレンドに敏感らしい。若者と気が合いそうだ。


「――まさか! 私を呼んだ理由って——!」


「ああ、そうだ、エ口えぐちよ。――いや。エロ漫画家・エ口マン力゛えぐちまんりきよ!」

 

 私は完全に理解した。


 なぜ、私がここにいるのか。


 なぜ、『ダメ人間』の私が選ばれたのか。


 なぜ、私が世界を救わなければならないのか。


「我がそなたを選んだ理由。


 それは、そなたが、


『最強のエロ漫画家』であるからだ」


 私は全てを悟り、フッと笑った。


「『あらゆるエロが禁止された世界』。その世界を救えるのは、エロ漫画家――か」


 さすが、神様。私はすでに手のひらの上だったってことか。


「つまり私にしかできないのな。――世界を救うことが」


「――ああ、そういうことだ」


「あーなる*」


(面白い。やってやろうじゃねぇか……)


エ口えぐちよ! 


 エロ漫画で世界を救え!」


 私は立ち上がる。それと同時に、股に生えたイチモツがピクンと立ち上がった。


「そなたの使命は、世界からエロを解放し、世界にエロの素晴らしさを広めることだ!」


「――最初から、そう言えっつーの」


 ニヤリと卑猥な笑みを私は浮かべた。


 その瞬間、パチンと何かが弾けた音がしたかと思うと、私の体は、白い光に包まれて消えていった。






 お父さん、お母さん。

 向こうの世界で元気にしてますか?


 ファンのみなさん。

 今日も楽しいシコシコライフを送ってますか?


 多分、私の次回作を楽しみにしてくれてると思うけど…………


 ごめん。次回のコミケには行けません。


 今、異世界にいます。

 

 世界からエロを解放するために、私は旅立とう思います。


 本当は、そっちでエロ漫画を描いていたかったけれど……。


 でも、今はもう少しだけ我慢します。


 私の描くエロ漫画も、きっといつか、誰かの性欲を解放させるから。




 ――エロ漫画家 エ口マン力゛より




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ちょっとだけ真面目で重たいパートは終わりです!

次の話からは、1話・2話のようなバカコメディに戻ります!

新キャラクターと性剣ペニスカウパーの出番が出るのでお楽しみに!


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アルティメット♡エロ神様~私は異世界転生してもエロ漫画を描く。死にかけていたHな宗教を復活させ、性のクセがすごい魔王軍に立ち向かう。 魔法少女ことり @Taiyo_Kotori

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