第8変 至誠(しせい)

 アスカは、そのままマキナと同じベッドで眠りについた。


 翌朝、ヨダレを垂らしながら眠りこけるアスカをマキナが起こす。


「アスカさん、起きてください」


 アスカが目を醒ます。


「あは、おはようマキナちゃん…」


 アスカは、寝ぼけたままマキナを抱き締める。


「マキナちゃん、大好き。カズミも大好き」


「ん~!!」


 マキナは、アスカの胸で溺れている。だけど、顔は嬉しそうだ。


 また、村での一日が始まる。


 ほとんど昨日と変わらない一日、昨日との違いはマキナとアスカがさらに仲良くなったことと、カズミが余りアスカとマキナに話かけなくなったことだった。


 アスカもカズミのことについてマキナに聞かなかった。

 

 そして、三日が過ぎ、いつもの通りに夜になるとマキナのベッドにアスカが来る。二日目からは、普通にドアから入ってくるようになっていた。


「今日も一緒に寝よ~」


 アスカが甘えるような声で、すでに布団に入っている状態で確認してくる。


「うん…」


 いつもと違う様子のマキナを少し心配そうな顔でアスカが聞いてくる。


「どうしたの?マキナちゃん…」


 マキナに代わり、カズミがアスカに言う。


「アスカ…」


 アスカが、声色が変わったマキナをすぐにカズミだと判断してカズミの言葉に割って入る。


「分かってる…カズミはいっつもそうだもんね…重要なことを言うときはいっつも一人で考えて…勝手に答えを出して…決めてから…私に言ってくれる…もんね…私としては、相談してほしかったんだからね」


「ごめん…なさい…」


 カズミがあやまり始めると、すぐにアスカが言葉を被せてくる。


「フフフ…いいよ。今となっては、そのことのおかげで、カズミが変わらすに戻ってきてくれたと、実感できているんだもんね!…あと、私は謝ってほしいんじゃあないのよ!カズミはマキナちゃんを見習わなきゃあだめよ!こういうときは、どういうんだっけ?」


「ありがとう。もう一度言うけど、アスカが生きていてくれて本当に嬉しい」


「私も…嬉しい…ありがとう…」


 二人は、もう一度お互いに感謝を言い合った。そして、今度はカズミの意思でアスカを抱き締めた。


「頑張ったな…アスカ…」


「うん…」


 アスカは、息を殺して泣いていた。そして、鼻をすする音を聞きながら、カズミはアスカを抱き締め続けた。


 そして、アスカの鼻をすする音が止んでからカズミは話始める。


「僕は、もう一度魔王城へ行く」


 アスカは、なにも言わなかった。


「これは、もうマキナも賛同してくれているんだが、マキナの次にアスカにいうことになったのは、僕の弱さだと思ってほしい」


 アスカは、なにも言わなかったが、少しだけうなずいた。


「本当は、魔王城からマキナの体に入り脱出できたとき、マキナの幸せのためだけに生きようと思った。いや、思おうとしたんだ」


 カズミは、唾を飲み込み、鼻から息を吸い、一度深呼吸して話を続けた。


「だけど、アスカに会って、カシムと幸せに生きていてくれると信じて…アスカの幸せだけを願って生きていた自分がバカだったことに気づいたんだ。信じるだけじゃあ、ダメなんだ。僕がやって来た任務がアスカの幸せに繋がると信じるんじゃあなくて…今度は、僕の意思で幸せにしたいアスカとマキナのために全力を尽くす!そう決めたんだ」


 少し、明るめの声でマキナがいう。


「私はね、カズミに救われたの!そして、アスカさんのことが大好き!…そして、私はカズミが大好き!本当は、ずっとここにいたい…だけど、このままじゃあ私のお父さんが、皆を魔王城の人たちみたいに管理しちゃうの…だから!私はカズミに協力する!いや、したいの!」


 アスカは、何も言わない。


「アスカ、僕は君を愛せない。なぜなら、好きすぎるから。好きすぎて好きすぎて、僕がここにいたらアスカの笑顔を僕の大好きなアスカの笑顔を曇らせてしまうから…そして、一番の理由は男として、アスカを幸せにできないから…アスカは…誰かと…」


 アスカが急にマキナの体を上から押し付けて言う。


「誰かとって誰よ!私の気持ちは、昔っから初めてあった20年以上前からあんたにしかないの!カズミなんか私の気持ちも知らないでいっつもいっつも私を煙に巻いて格好つけて!私から逃げてばっかりで、バカじゃないの?あんたよりも私の方があんたのこと好きな年月長いんだから!いなくなってやっと気づいた…あんたなんかとは年忌が違うのよ!分かったような口聞かないで!」


 マキナは度肝を抜かれたが、カズミは冷静にしかし少し怒って言う。


「僕だって、会ったときから好きだったに決まってるじゃないか!だから、命もかけたんだぞ!アスカがいなかったら、そもそも、あの訓練もあの改造もあの任務も生き残れなかった!アスカのためになると思って、僕だって頑張ってきたんだ!」


 アスカが涙を落としながらまた言う。


「私だって、私だって…カズミがいつでも帰って来れるようにって…グス…グス…」


 カズミとマキナは村に戻ってすぐに通された、綺麗に整頓されたカズミが住んでいたこの場所を思い出した。


 マキナが、カズミに心で話す。

「(カズミ…アスカは行ってほしくないって…)」


「何で…カズミは、私を頼ってくれないの?私はそんなに弱い…カズミにとって守ってやらなきゃならない存在なの?…」


 マキナの顔にアスカの涙が落ちる。


「私も行く…私もカズミとマキナに着いていく!ぜったい!」


 カズミは、何も言えなかった。


「黙ってんじゃあないわよ!私のために、魔王城へ行くんでしょ?つまり、魔王国と同盟国の人間の…この王国も敵に回すんでしょ?あんたたちは!なら、私くらい守ってみせなさいよ!そもそも、私は守ってもらうほど弱くはないんだけどね!バーカ!」


 カズミは呆気にとられて、とぼけた声を上げる。


「は…い?」


 アスカはしたり顔で、カズミとマキナを見下ろす。


「あと、マキナちゃんはカズミと一緒に私に内緒で色々決めたこと許さないから覚悟しといてね!お風呂場の時よりも目に会わせてあげるんだからぁね♪」


「(ヒィイー)」


 マキナのお股がシュンッとなるような心の叫びはアスカには聞こえない。


「アスカ…たぶん死ぬんだぞ…」


「分かってる。それよりも、あんたと離れるのがいや…あと、本当は私のためだけじゃあないんでしょ?一緒に行くんだから、しっかり話して!隠しても無駄よ!」


 カズミは少し驚いた。カズミは訓練により癖を全て取り除いているのだ。正直になろうとしてもその訓練で身に染み込ませた所作はとれない。つまり、昔までとのチガイノ違和感は感じられても仕草で心の奥まで見透かされるはずがないのだ。


「…なぜ?」


「フッフー!あんたが私にゾッコンなのは、百も承知よ!そんなあんたが、力をつけてわざわざ私に会いに来て、マキナちゃんも私の虜になった今!私を連れて逃げない訳がないじゃない!…それでも、魔王城に行くってことは、カズミが頑張っている間に絶対に譲れない何かがあったんじゃないかなって思うのは当たり前よ…なんたって、私はカズミを信じてるし、マキナちゃんが良い子だって知ってるんだからね!」


 アスカは、どや顔でそういうと、太陽のような笑顔をカズミとマキナに向けた。


「…アスカ…分かった。全て話すよ。僕が譲れない至誠しせいを…アスカにとっては、ショックが大きいと思って避けていた魔王城での話を全て話すよ」


 アスカは、マキナの体を押さえつける体勢を解いてマキナの横に寝転がった。


「全部教えて…」


 カズミは、自分の顔の前に人差し指を立てて言う。


「…話は長くなるから、明日の夜に話すよ。ちょっとマキナとも話して分かりやすいように話をまとめないといけないから…今日は疲れたし…もう寝ようよ…ね」


 アスカは、少し目を細めてカズミの目を数秒眺めた後に、布団から出て「じゃあ、明日ね!あと、お仕置きも明日するからね!ふ・た・り・と・も!」と、意味ありげに最後の言葉を区切り納屋から出ていった。


 残されたカズミとマキナは、明日のために寝ることにした。



 カズミが、アスカから離れて唯一心に刻んだ言葉、【至誠しせい】誰になんと言われようとも、生きる目的に正直に生きる生き方だ。しかし、カズミは知っている幸せな生き方を…

 

 

 カズミは、めいいっぱいに腕を伸ばす。もう、何も取りこぼさないように…

 全ての幸せを取りこぼさないように…

 諦めきれないから…


 幸せなんてものは自分の手の届く範囲にすでにあると知っているのに…




☆☆☆次回予告☆☆☆

 マキナは、もう魔王のことを考えなくなった。

 カズミは、アスカとマキナのことを考えられるようになった。

 アスカは、健気に元気に振る舞っているが、カズミとマキナが来てから痛々しさが消えた。

 

 数日の間に色々なことがあった。しかし、この間にも 魔王の計画は確実に進行していく…


 カズミは、至誠を貫き通せるのか?アスカは本当にカズミたちに着いていくことができるのか?


次回第9変 魔法少女!?アスカ参上!

catch you later!また見てね!

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