第2変 「今日で終わりだ。」(性描写あり)

「今日で終わりだ。」

カズミは、1人で自分に言い聞かせた。


 すでに準備は、完了している。この2年間で調査した魔族たちの生態や生活環境、重要役職と人物名及び特長・弱点や地誌資料等、果ては、魔族たちの民話や政治、経済、軍事に至るまであらゆる観点から資料を分析し基礎資料と共に暗号化してしっかりと王国の王都に届けさせている。


 これも、先に死んでいった仲間たちの努力の賜物たまものであり、そのもとに得られた現地協力者の協力があってこそだった…だが、今は一人…


「みんな、ごめんな…心に…」


 実際は、半年前に調査結果を報告できた時点で、私達の魔王城偵察班の任務は完了していたのだ。

 しかし、調査結果報告後も、一部だけ、潜伏組として魔王城にくさとなり張り付くことが命じられた。

 くさの仲間の二人は、健闘虚しく、二人とも魔族たちの目につき四肢を割かれ、悪魔たちのおやつになってしまった。


 「心に穴が…目的意識を持て…まことこころ…」

 カズミは、呟いた。



 その後、追加の要員すら送り込まれてきた。

 ここは魔王城、入ることは容易だが生きて国まで帰ることは常人では無理だ!国交でもできない限りほぼ不可能だ。


 追加調査員の2名はやる気に満ちた若手幹部だった。生き残りのくさである私と協力して魔王城の爆破を任務として受けていた。


 通常、任務は個人や部隊問わずに編成部隊毎に一つの任務がセオリーだが、今回は前任務完遂後の継続任務を無理やり私には付与されたらしい。


「…私と同じ年代か…死ぬには若すぎる…」


 この二人は、肉体改造を受けた女性の二人で特殊能力を身に付けており、エスタとミネルバと言うらしい。

 しかしながら、ここは敵陣のど真ん中である。ことの顛末てんまつは、あっけなかった。

 魔王城到着3日後には、エスタは串刺しにされ食用に、5日後にはミネルバは玩具にされ使い潰された。


 カズミには、助けるすべも何もなく、ただただ記録するしかなかった。


「心に穴が…至誠しせいだ。自分を信じろ」


 班が報告した調査結果については、軍事転用可能な技術や悪魔との政治的取引に使える内容のものの他にも、魔王城の現実を事細かに説明を入れていた。

 この中に特出しの最重要事項として追加の要員の拒否及び困難性を付け加えていたはずだったが、効果はなかったらしい。


 カズミは、他にも死んでいった仲間たち、毎日のように来る人間たちとその死を思い出していた。


「忘れるな…生きた証を…至誠しせいをもって任務に当たるんだ。…ここに穴が空いても…」


 カズミは、胸を掴んだ。


 人間を食い、人間で遊び、人間に働かせる魔族たちを見るのも従うのもこれで最後だ。


 あと、爆破時間まで2時間… 


 エスタとミネルバが体に隠して持ち込んだ爆弾と私が現地調達した火薬を必要な場所に設置完了し、示された時間に爆発するように時限式にした。

 二人とは、会話などしていないが、この魔王城内の現実を見て自分たちでは無理だと判断し、すぐに僕に全てを託してくれた…

 失敗などできない。


「最後だ」


 カズミは、一つの牢屋の前に立っていた。


「また、顔を変えたのですね…」


「姫様、あと一時間でこの魔王城を爆破します。その前に何か、あればお聞きします」


 僕は、最後の最後に弱さが出ていたのかもしれない。

 ここまで、多くの人の死を見過ごしてきた。

 任務のため、至誠しせいのため。自分が全力を尽くし、正しいと考えることを行っているんだ!と信じている。

 しかしながら、心が傷つくことには代わりない。

 肉体が死ぬことは、嫌だができないことではない。

 自分の矛盾した気持ちに気付くこと、本当に自分が正しいことができているのかと疑問を持つことが怖い。


 僕は、今、魔族に少しの良心すら見ようとしてしまっている。

 ここまで生きてこれたのも現地協力者のおかげだったからだ。

 その現地協力者の1人は、反逆者として裁判にかけられ、捕らえられた人間たちの前で殺され、僕たちの餌になった。


 そして、この目の前にいる姫様は魔王と人間との娘であり、死んだ現地協力者は姫様の召し使い兼監視役だった。


「あなたは、逃げないのですか?」

「あるとの約束で、姫様を1人にしないでくれと言われてますので…」


「そう…ですか…」

「あと、僕も最後に1人でいるより、ここにいた方が心に空いた穴が少し塞がるような気がするんです」


 カズミは、久しぶりに他人に少し笑顔を見せた。


「なら、私にあなたのこと…名前や小さいときの話を聞かせてくれませんか?私の名前は、テールマキナ・アスカ・リーンマキナと言います」


「アスカ…」

「はい…?」

「いや…私は、カズミです。そうですね…むかし…僕の幼少期は…」


 一時間後、魔王城は半壊し、それに合わせたように王都から軍が派遣された。


 しかし、戦いは起きず、派遣軍は魔王城に物資を届け、国同士の会談の末、両国間の王国魔王国平和安全同盟が早期に結ばれ、両方の首都に外交官が派遣された。

 王国には、しばしの平穏の時間が流れた。


 僕は、生きていた。いや、生かされていた。


 「ああ、あああ」


 声が出せない。ここは、現地協力者が裁判を受けた場所に似ている。作り直されたのか…礼装のもいる。


「あああ(そうか、同盟関係になったのか…行動方針F号が実現したのか…)」


 王国と魔王国の同盟、王国は人間側の最大勢力のであり、事実上、他の中小国家単体だけでは、この両国に逆らうことは不可能となった。

 一部の中小国家は、当初から強大な魔王国との力の均衡を図るため、共同体をつくり国際連命こくさいれんめい国家共同体を名乗っており、王国に共同体への参加を断られた形となった。


「被告人、連命国のゲーリッヒ・バルトを内乱幇助、多数の魔族及び魔族が庇護していた王国の人間を無惨にも凌辱・惨殺したこと。魔王城の爆破及び魔王の幼い娘に蛮行を繰り返した罪により、真極死しんごくしざいとする。」


 拍手が僕を覆った。

「(連命国?バルト?…偽名か…僕が死んだことすら誰にも…まあ、こっちの方が良いな…しかし…)」


 人間と魔族の裁判長のような二人が魔王と王国の王に紙を渡している。


「ああ(魔王!生きていたのか!…いや…だから、時間を指定されたのか…もう仕方のないことだ…姫様は…アスカたちは元気にしているかな…僕は、村の皆の平和を…平穏を守れたのかな…アスカ…)」


 魔王国と王国の状況は、

 魔王城の爆発は連命国の工作員の仕業であり、王国は物資の支援をする代わりに平和安全同盟を結び、魔王国との貿易権利を受けた。貿易は、王国は労働力を魔王国は魔道具や魔石等を交換し、王国の連命国等の捕虜も労働力ろうどうりょくとして、魔王国に送られた。そして、王国と魔王国との中間地点に両国の人間と魔族が住む共同貿易都市を作り貿易や文化交流の経済特区とした。労働力として、魔王国に行き、帰ってきたものはいない…


『魔王国!労働力募集中!皆で行こうこの世の楽園魔王国!』

 という張り紙が王国中だけでなく、世界中に張り巡らされていた。




 ここから、カズミの地獄が…


 また、始まる。


 カズミは、目を覚ました。

 水をかけられたらしい。


「あれ、これは…」

 変なやつが立っている。頭が働かない…声が出るぞ?


「ははは、やっと起きたか。説明してやろう!これは、魔族の処刑方法の一つの極死刑ごくしけいと言ってな!魂を抜き出し、別の肉体に魂を入れ直し、殺すという処刑方法なんだ!面白いだろう!通常は魔族であれば、入れ換えて殺したあとに、もとの体に魂を戻すんだが、君の場合はしんがつくからな!決められた回数を殺されたあげくに最終的な死を与えるのだぁ!」


 カズミは、冷静に質問した。

「この、体は?」

「そこら辺の町娘だろ?食用だ。気にするな。」


 変なやつがこちらに近づく、ご丁寧に名札を着けている。


「いやぁああ!」

 体が暴れだす。


「意識があるぞ!マッド!」

「ん?マッドだよ?ああ名札か。いい名前だろ?それに当たり前だ。お前は生きてる体に魂を無理やり入れて同居させているんだからな!」


「やめろ!」

「そう!そうなんだ!精神が強いと言われてるやつは、他人のためを装い、強気に出るんだよ!私の持論だが、初めから精神が強いと言われるやつはいないし、そもそも、精神が強くなるなんてことはない。精神が強いって言われているやつは、強い動機付けがあるか、忘却することを訓練により体得したやつだけなんだぁ!これは、その証明実験でもあるんだよ!」


「ぎゃあああええあッ!!!」


 回転する刃で町娘の左腕が肘関節に沿って切り落とされた。腕から滴る血が認識できる。

 少しだけ、体の感覚が冴えて馴染んだ気がする。


「町娘の人格が消えたぞ!?」


「うん、町娘の人格…死亡っと。バルト君は、生きてるか…」

 マッドは、淡々とメモをっている。

「ふむふむ、人格がなくなってるってどんな感覚なの?何でそう思うの?体の制御はどう?」


 そう言いながら、右腕も切り落とした。

「……ッ」


 カズミはマッドを睨み付けながら死んだ。

「さ、もっかいもっかい!あと、28回だな!!良い魂だ!意志が無くなりそうにないぞ!やったね!」


 …苦痛は繰り返される…


10回目…

「どう?幼女になった気持ちは?」

「頼む…」

子供が口を開く。

「お兄ちゃん…死にたい…」

「え?なに?カズミ…いやいやバルトくん?小さい子がもう死にたいって言ってるよ?君は、何を頼むのかな?文字通り、他人の口を借りて言ってみてよ!さあ!」

頭を砕かれる音が響く。

「はい、10回目…すげぇ、バルトくん?まだ睨んでるの?」


 …苦痛は繰り返される…

15回目…

「どう?バルトくん?気持ちいい?」

 マッドは何か液体を垂らす。


シュ…シュー…


「いぎぃいいいいい!!…」

「おめぇに聞いてんじゃねえよ!」


バキッ


 女の唯一残っていた握られていた左手が折られた。


 女は、何も言わなくなった…


「これはね、フッ酸と言ってね。人の肉体を溶かしてまうのですよ…それは、皮膚かは肉そして…骨…それを繋げ動かすための神経…それを溶かすんだよ…」


「…グッ!ンンンンン!!…」

 マッドがバルトの口の中へ液体を垂らしていく…


ボト…

 バルトの顎が落ちる音が部屋に響く…



「君は、すごいよバルトくん!知ってるかい?人間と僕らは、確率は低いけど子供ができるんだよ!はッはッ!だから、君らが言う魔族は本能的に子孫を残すため女をオモチャにするんだ!ねぇ?聞いてる?」


「…」



「アッ!腰の骨折れちゃった…痛かった?バルトくん?生きてる?…魔族と人間の違いってほとんどないんだ!外見も角以外違わないしね!…でね、だからね、…僕たちは、こうやって同じ言語で同じ体で繋がり合えるんだ!」



「…」


「色々語ったけど、魔族は女の方が多いから基本的に人間が魔族の子供を生むことはないんだよ!だってみんなこうやってあの世に逝っちゃうもんね!あッ!」


ゴぎぃッ


鈍く首がおれる音が響いた…


…苦痛は繰り返され続けた…


「悲しい、私は悲しいよ…バルトくん…君とこれでお別れだよ。最後は…特別に…この方にお越しいただいております!じゃじゃーん!!」


 マッドは、鏡を出してきた。

 そこには姫様の姿があった。


 「か…」「ッなぜだ!」


 カズミは、食いぎみに叫んだ。


 「(私の役目は終わったのです)」


 姫様が心を通して答えた。


 「役目?」

 「(今の人間の王は私の子供になります)」

 

 「そうか…」


 カズミは、小さく呟いた。


 「(魔王、私のお父様は人間たちを完全に管理する気です。今の人間の王には私の血…つまりはお父様の血が入っています。魔族の血が少しでもある者なら、お父様は誰でも何でも言うことを聞かせることができるのです。私は、十二分に役目を果たせれたと言うわけです)」


 「(悲しくないのですか?)」

 カズミは、心で呟いた。


 「(…私は、お父様から作られた魔造人間、人との子を成すためだけに存在していたのです。もう、人間との同盟までこぎつけたお父様は、お父様の夢のため、私と共にこの証拠を消し去りたいのです。これは、魔族のためです。仕方がないことなのです)」


姫様は、淡々とカズミに説明する。


 「(いや、僕は、君の気持ちを聞いているんだよ…)」


姫様は、何も言わない。


 「(素直になってよ…本当に仕方がなかったと思っているのか…人生の最後の最後まで自分を偽るのかい?やりたかったこと、諦めてきたこと…いっぱいあるんでしょ…爆発の前に僕の話で笑ってたじゃないか…死ぬことに勝手に理由をつけて理解した気になってないか?死ぬのは怖い!当たり前だ!僕も怖い…怖くないやつなんていない…死んだら終わりなんだよ?)」


 ……


「(頼むよ。諦めないでくれ。君が折れたら僕も折れてしまいそうなんだ…)」


「(ふふふ、この方ですね。あなたの想い人は…)」


「………」


「(すいません。肉体を共有しているので、あなたの魂から色々、あなたが大切にしていることなどが見えたものですから。…もう少し見てもいいですか?)」


「…はい…」


 カズミは力無げに心で呟いた。


「(幸せとは、こう言うことなのですね…ふふふ、私も経験してみたいな、親友との友情や誰かを愛すると言うことを…)」


「……」


「(ふふふ、私を1人にしないんですよね。カズミさん!やっぱりカズミさんはすごいなあ!本当にいて欲しいときにギリギリで、タイミング良く私の所に来てくれるのですもの…嬉しいなぁ…)」


「(…もう、生きたくないのか?)」


 カズミは心で呟いた。


「(私はもう幸せです。魔造人間として約50年生きて最後の最後にあなたに会えて本当に良かった…)」


「(いや、もう一度だけ聞く…生きたくないのか?)」


 カズミは心で叫んだ。


 ……


 マッドは、準備を整えこちらを向きなおす。最後は、遊ばずに殺してくれるらしい。


 「さーて、そろそろ始めようかな?人間のくせに魂が磨耗せずに良く自我が持ったよ。い~いデータが取れた!よーし、悲しいけど、記録の更新頑張るぞ!うけけけけ!」


 マッドが回転する刃を持って近いてくる。


 ぎゅぃぃいいい!……


 「(生きたい!カズミともっと一緒にいたい!親友が欲しい!恋人も欲しい!カズミのこともっともっと知りたい!!!)」


 刃物の甲高い音に合わせるように、姫様は叫んでいた。


「体を借りるぞ!」


 カズミは、姫様の声で叫んだ。


 僕の前の体は人造人間だった。今度は魔造人間だ。動かし方のコツはあまり変わらない…はず!


 変わったとしてもやるしかない!しかも、他人の体の動かし方は29回!文字通り他人の命を削って学ばせてもらっているんだ!!!!この魔王城に来てから見捨てた命は万を越える!!


 ここでこの子すら助けられなかったら、僕は、僕はこれ以上!生きていけない!!!!


「動かせない訳がない!!!」


 ゴキ!


 姫様のうめき声が、心に響く。


 「(うッ…)」


 姫様の関節を外し鎖から抜け出した。そのまま、その鎖をマッドに引っ掻けて吊り上げる。


 バジュジュジュ!


 マッドの持っていた刃が回転したままマッドの体に食い込む。


「ぐぎぎぎぎぎ!!」


 マッドは、奇声を上げていた。


「姫様は、これからすることを見ないでください。」


 カズミは、気絶したマッドを真っ二つに割り、生皮を剥がし、魔法をかけ、形を固定していく。5分ほどでマッドの剥製が完成した。姫様の心労か、胃が競り上がってくる。


 「(まさか…)」


 かたちを整えたマッド皮を叩いたり血糊ちのり脳漿のうしょうを使用して即席でなめし、魔法で乾燥及び形を整え、30分ほどでマッド革の着せかえセットの完成である。


 僕はそのまま、マッドになり代わり、マッドの中身をみじん切りにして外に運び出した。


 僕は、心の中で呟いた。


「(僕は、自分の至誠しせいを尽くしているのだろうか?)」


 僕は、最後の最後に姫様の意志に頼ってしまった。いや、頼ざるを得なかった。自分でも…自分だからこそ、誠を尽くそうと努力してきたからこそ…何もできない現状に、何もできなかった過去の自分に、今ある自分を信じることができなかった。そして、その事を僕が一番よく分かっている。


「(泣くな…至誠しせいを尽くすんだ…もう、振り返らない…)」


「(……)」


 姫様は、僕の心が伝わってしまったのか、何も言わず…ただ、姫様の心が僕の心を暖かく包んでくれたように感じた。


 そのまま、マッドのデスクにつき2週間マッドとして生活し、休みを取りそのまま行方を眩ませた。


 カズミは全力で頭を回転させて逃げ切った。


 姫様は、その間余り口を開かなかったが、姫様が僕の心に寄り添ってくれていることは、分かった。


 僕の心に空いた穴が少し埋まった気がした。



 ※※※※次回予告※※※※

 魂と他人の体、そして見捨てた万の命、カズミはこの先どうなるのか?姫様は?幼馴染みの二人は?気になるけど、次回に続く~

 次回第3編!帰郷!

 catch you later まったね~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る