にせゆり地獄変

拳パンチ!

第1変 潜入!魔王城!

僕には、絶対に守りたい友達が二人いた。


 「僕は、ヒーローになる!」


 僕のありきたりな夢に対して、アスカとカシムが笑いながら合わしてくれる。 


 「ふふふ、カズミならなれるよ」

 「じゃあ、昔みたいにヒーローごっこやるか?ははは」

 ずっと変わらない日常…


…だと思っていた。


 僕たちが15才になったとき、この平穏は儚くも崩れ去った。

 僕たちの村にも軍への臨時招集命令が来たのである。僕らが住む王国は、先の魔王軍の大侵攻により軍拡ぐんかくが急務となっていた。


 村は、国の農業地帯の一部であり、食糧確保の必要性から、多くの食糧を国に納める代わりに軍への招集はほぼ免除を受けていた。


 それは、カシムが伝えてくれた。

 「招集命令が村にも来たらしいぞ!」

 「え?」

 「何人出せって?」

 「…10人…」


 もちろん、誰も行きたいやつなんかいない。そもそも、村は60人しかいなく、招集対象者の成人男性は15人しかいない…


 しかも、成人男性と言えば村の働き頭なのだ。国に納める食糧を作り、自分たちの食糧も確保するためには、余っている労働力など…なかった。


 しかし…

 次の日には、招集命令について間違いだったとされ、村には平穏が戻っていた。


 僕は、仕事の合間をみて、いつもの場所に二人を呼んだ。


「二人には言っておかなければならないことがある…」


「なに?」

「……」


 僕は、いつも通りにいつもの調子でいつもの言う言葉を話した。


「僕はヒーローになりたいんだ」


「そうだね。どうしたの?カズミ、様子が変だよ?」

「おい。カズミ大丈夫か?」


 僕は泣いていたらしい。

「僕は二人が好き。それだけ…」


 二人は戸惑いながらも僕の背中を擦ってくれた。



 その夜…



「ねぇ、起きて…」

 僕は起こされ、キスをされた。


「何があったか分からないけど…いいよ…」


 もう一度キスをされた。唇が震えていた。顔に添えてくれた右手も震えている。


 僕はアスカの両肩を持って離した。


「アスカ、僕は多分、帰ってこれない…優しくしてくれるのは本当に嬉しい。しかも君は僕が…本当は…いや、カシムをよろしく頼むよ。幸せになってね。」


「……」


 アスカは、黙っていた。

 僕は、体を起こした。


「送るよ」


 アスカを母家おとやまで送る間、二人で手を繋いで歩いたが、一言も話さなかった。


 アスカは、村長の孫娘である。

 もしかしたら、僕と村長との「あの件」の話を聞いたのかもしれない。


 数日後、軍の馬車に乗せられた1人が、志願兵として村を出た。


 この1人が、僕ことカズミである。


「あの件」は村長と僕しか知らないし、知っていても口に出してはならなかった。


 村長には臨時招集命令とは別にその他の例外として一枚の紙が来ていたのだ。


『臨時招集命令が受け入れられない場合は、1名の志願者を募るものとする。(この際、志願者の全ての権利を軍が所有するものとする。)尚、これは口外してはならない。』


 村長は、10人出して確実に村を潰すか1人の命を差し出しこの場を乗りきるかを迫られたのである。


 村長としては、1人を選ぶしか選択肢はなかった。


 僕は天涯孤独の身である。今まで村長に労働力として引き取られ、住み込みのお手伝いとして生活させてもらっていたのだ。


 僕しかいなかったのだろう。いや、逆に僕を選んでくれて良かった。


 ナカノ研究所は、表向きはただの肥料の研究所を装っており、実際に研究者たちが肥料の研究を行っていた。

 しかし、裏では軍における各部隊の最優秀かつ心身ともに剛健な隊員の内、合格率が1%未満の秘密試験を合格したスーパーエリートが隠密おんみつに集められ、諜報ちょうほう防諜ぼうちょう謀略ぼうりゃく、秘密・情報戦を学び、スパイ・ゲリラ活動等を行うための要員を育成する機関として存在した。


 そして、そのスーパーエリートを無駄にしないためのの場としても確実に存在していた。


 僕はそのナカノ研究所のの実験体に一般部隊への志願兵という形で…

 僕と村長の感覚では村を人質にられた形で招集されたのだ。


 「絶対、生き残ってやる…」

 カズミは、生きることを誓い…アスカとカシムのことを思った…


 …十年後…



 カズミは、魔王城の中にいた。

 「0510マルゴーヒトマルか…寝すぎたな…気を引き締め直さないと」

 魔王城に忍び込んで丸二年、僕はついに魔王城から解放される任務を受けた。

 この任務が成功したら多分…僕は…いや、この魔王城にいる人間は全員死ぬだろう。

 魔王城では、人間は労働力用、玩具用、食用と大きく3区分に分けられ使役されている。


 僕は労働力用として潜入することに成功している。

 しかし、区分はあってないようなもので労働力でも、すぐに玩具や食用にされ死んでしまうような状況であり、油断は死を意味する。


 カズミは、少し口角を上げた。

 「笑顔を忘れるな。仲間の死を忘れるな。自分の目的を忘れるな。誠の心…至誠しせいよし」


 カズミの魔王城、最後の1日が始まる。


※※※※次回予告※※※※

一人、一人は寂しい

二人、一人にしないで

三人、次はいつ一人になるだろう

たくさんたくさん人が来た

たくさんたくさん来たけれど

たくさんたくさんいなくなる

今では一人に慣れちゃった…

次回第2変!「今日で終わりだ。」

catch you later まったね~

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