第3変 帰郷
「うふふふ、ここが森なのですね!」
姫様は、一人森のなかを歩いていた。
「(あの…私が動かしましょうか…)」
「どーせ、私は歩くの遅いですよー」
姫様は、後ろに手を組んで歩き続ける。
「(そうですか…疲れたら言ってください)」
魔王城を出てから、姫様は無理に上機嫌を装っている。姫様も女の子だ、牢屋の外の魔王城は人間にとっての地獄に近い光景だったはず…2週間とはいえ、キツかったのだろう…
……
「(あ!その木の実食べられます)」
「これ?」
「(それは、木の実ではなく、蔦になっている実です。食べられません。その木の上になってるやつです)」
「無理かも…」
姫様は、木を見上げた。
「なら、私が採ってきます」
姫様の体は空を舞うように木の枝を使い登っていく。
「採れました。あれ?足が震える」
「(私、高いところが苦手でして…)」
「……」
「(あ!バカにしてる!魔造と言っても体は人間よりですし、心は乙女なんですよ?!)」
「ハハハ、いやいやごめんなさい、バカにしてませんよ。なんか、可愛いなって思って」
姫様は、黙った。
「でも、ここまで体に影響が出たら降りるのも一苦労ですね」
「(…ごめんなさい。私、ほとんど部屋から出たことがありませんので…)」
姫様は急にしおらしくなった。
「責めてないですよ!ゆっくり降りるので眼を閉じてく…れませんよね…」
姫様の体は実を持ってゆっくり降りた。
カズミは、実を持って考えた。
(この体は何が食べれるのだろう?まあ、2週間も勝手に僕が生活して大丈夫だったら大丈夫だと思うけど…世間話程度に聞いてみるか)
「食べれないものとかありますか?その前に、聞くのを忘れていたのですが、この体は生活する上で食べ物とか生理活動とか他の人や魔族との違いはありますか?」
「(特にないです。逆にほとんどのものを食べれる体になってるはずです)」
実を食べてみた。少ししょっぱいが、問題なく食べれた。魔王城で食べたときより味がする気がする。
生理活動については、スルーされた。
「(どこに向かっているのでしたっけ?)」
もう、完全に移動はカズミに任されている。
「私が住んでいた村です。もう、私の心はもう見えないのですか?」
「(村!いってみたいな!でも、少し不安…心は見えないですね。集中すれば見えるのですが、やめておきます)」
「そうですか…」
カズミが操作する姫様の体は、草の上を飛んでいるかのごとく速く、持久力も高く、汗もかかない。
「(この、疾走感楽しい!私の体ってこんなに凄かったんだ!)」
「そうですね。私が人造人間の体のときよりも2倍は強くしなやかですね」
「(でも、私が動かすと普通の魔族より少し弱いくらいなんだけど…)」
姫様の体はスピードを緩め歩き始めた。
「体の使い方、操作方法を覚えれば誰でも僕くらいは強くなれますよ。そもそも、魔族に対応するための肉体と技術を僕は手にいれてましたから…このくらいはできないと2年もあそこでは生き延びれませんよ」
「(なら、私も操作方法を覚えれば、こんな走りができるんですか!)」
カズミは笑った。
「もちろんです!教えますよ!教えるのは好きなんですよ!」
姫様の地獄の特訓が始まる。
「(行きますよ!)」「はい!」
姫様の体をカズミが動かしたあとに、その感覚の通りに姫様が動かす。
はじめは、メキメキ上手くなっていった。
しかし…
カズミが動かすと、全く疲労が溜まらないが、姫様が動かすと、めちゃくちゃ疲れる。
そのため、カズミは体を苦もなく動かすが、姫様は少しずつ動きが鈍くなる。
「カズミ、もう、疲れました…」
「(え?まだまだいけますよ?)」
「カズミ様お願いします。もう、許してください…」
「(うふふふ)」
「カズミさまああ!笑うの怖いですー!」
「(いや、やめますよ。そうじゃなくて、名前。呼んでくれたなって。10年ぶりです。名前で呼ばれたのは…)」
「そ、そうですか…ずるいです…」
姫様は、木にもたれ掛かった。
「(どうしたの?)」
「…私も、姫じゃなくて私もアスカって呼んでください…」
「(…アスカってミドルネームじゃないですか…)」
アスカ姫は、少し頬を膨らませた。
「じゃあ、ファーストネーム!テールマキナ!マキナって呼んで!」
「(マキナ姫)」
「マ!キ!ナ!」
「(…マキナ)」
「よし!疲れたから体かわっ…!!」
「(厠(トイレ)ですか…そこら辺でッ)」
「見ないでね!!!音も聞いたらダメ!!分かった?」
カズミはたじろいだ。そもそも、2週間はカズミが生理現象を処置していたのだ…今さら…
「(はい…)」
二人の意識は、ほぼ共有されている。つまり、気持ちの問題である。カズミは、自分の倍以上の50年も生きているマキナを可愛く思った。
チョロチョロチョロ…
「(へ~)」
「カズミぃ!エッチ!!」
「(まあ、まあ、これからずっと一緒なんだから…)」
……
「今、子供も産んでるくせにって思ったでしょ?」
「(思ってないよ……)」
「いっとくけど、私!体外受精だから!まだ処女だからね!」
「(分かった、分かったから。落ち着いて…マキナ、今すごいこと言ってるからね?)」
「もう、知らない!!」
急にマキナは、体の主導権をカズミに渡した。
カズミは、知っている。カズミの魂の記憶をマキナが見たように、マキナの記憶もカズミは見ていたのだ。
マキナは、産まれたときから今と同じ体と自我を持っていた。そして、産まれたときには妊娠していたのである。生まれた子供は、現王国の王と赤ん坊のうちにすり替えられた。それから、約50年失敗したときの予備手段として生かされていた。教養と知識は門番から受けた。きっと魔王様、血の繋がった父親が振り向いてくれると信じて50年地下牢で生きてきたのだろう。
カズミは思った。
(本当は、心細いのだろう…そして…)
「マキナ…一緒にいてくれて、ありがとう…」
「(…うん…私も…ありがとう…)」
その後も、マキナは明るく振る舞ってくれた。
そして、移動を始めて4日目の朝
「多分、今日中に僕がいた村につくよ。」
「(そう…良かったね!カズミ!)」
「行くのやめとくかい?マキナ…」
「(…何で?)」
「マキナにとっては全てが初めてだから、色んなことに慣れるまで待ってもいいかなって…」
「(ありがとう…本当にありがとう…でも、行く!カズミの村や友達や…いや、早く行かないとダメな気がするの!私は後悔してばかりだった…でも、カズミがタイミングよく来てくれたから後悔しない今があるの。だから、カズミにも後悔しないように、やりたいことに全力を尽くしてほしいの。このタイミングを逃すときっと後悔する!)」
「全力…全力を尽くして誠に至る…か
道中、村についてからのことについて二人で話し合った。
姿や性別が違うため、カズミとして現れたところでカズミと信じられるはずがなく、もう、死んだことにされている可能性も考慮して初めはマキナとして村に入る。
目的は、村の友達二人の生活を確認することが最優先である。
また、様子を見て大丈夫そうであれば、カズミがマキナの体を借り、その二人の友達にだけ、カズミであることを打ち明ける…ということに決まった。
カズミが住んでいた村についた。
※※※※次回予告※※※※
この世の地獄を見た聞いた体験した。
打ちのめされ、貶され、蔑まれ、挙げ句のはてには、全ての罪を着せられた。
しかし、まだ守りたいものがある…
カズミには死ぬことも諦めることも許されない。
頑張れカズミ!
次回第4変!やさしい世界
catch you later まったね~
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