エスパー球技大会

koumoto

エスパー球技大会

「さて、多難で激動の年にも関わらず、こうして無事に大会を開催できる運びとなりまして、わたくしは喜びにうち震えております。この震えは、けっして何者かのサイコキネシスによるものではありません」

「もしサイコキネシスなら、凄腕だ」

「ええ、実況席には高密度バリアが張られていますから、この鉄壁の防壁を打ち破れるエスパーがいるならば、ぜひに陸幕超常部暗殺課にスカウトしたいという所存であります」

「破られたときは僕たち、死んでるけどね」

「さあ、今年もやってまいりました、ドキッ! エスパーだらけの球技大会2020! 高温多湿を誇る我が国特有の猛威を振るう夏の暑さを吹き飛ばすかのように、涼やかなエスパーたちの入場だ! 実況は、わたくし、権田宮勝ごんだみやまさる。解説は、元防衛審議官付きエスパーであらせられた、正宗鳥円之城まさむねどりえんのじょうさんです」

「よろしく」

「さあ、正宗鳥さん、始まりましたね!」

「ずいぶん興奮してるね、権田宮くん」

「もちろんですよ! エスパーが日常ひた隠しにしている能力を思う存分に発揮できるこの球技大会! わたくしもこう見えて、末席ながら日陰者のエスパーの一人です。選手たちがどれほど待ち焦がれたことか、そのルサンチマンとリビドーと破壊衝動は、わがことのように胸を燃やしてくすぶっております!」

「くすぶってるんだ」

「なお、この大会は諜報上と安全上の理由によりまして、会場は無観客でお送りしております。モニターの向こうからご覧になられている選ばれし方々は、存分にエスパーたちの饗宴を楽しみ、ぜひとも口外なさらぬよう、あらためてご忠告申し上げます」

「特権階級だね。いいご身分だよ、まったく」

「さあ、そうこう言っているうちに、もう始まってしまいました! まずは卓球! うなるうなる、念力がうなる! 正宗鳥さん、ネットの上空をピンポン球がかけめぐっていますね!」

「いい螺旋を描いているね。拮抗している証だよ」

「おおっと、拮抗が破れ、ピンポン球は六波羅選手の頭蓋に直撃だ! 正宗鳥さん、いまの一撃、どう思われます?」

「まず、昏睡といったところだろうね。なかなか暴力的なスマッシュだ」

「相手を素早くほふった群青坂選手は、喜びの涙にむせびにむせんでいますね。ハケろ! 早くハケろ! ちんたらやってるとブッ殺すぞ! これでお前も富裕層の仲間入りだ、泥だらけの下層階級とはおさらばだ! 泣け、喜べ、そしてハケろ! さっさと退場しろ! いやあ、正宗鳥さん、いい試合でしたね!」

「念力のこもった球って銃弾と変わらないもんね」

「群青坂選手のマグナムが見事に炸裂したというところで、お次はバレーボールです」

「かわいい子がいっぱいだね」

「斡旋しましょうか?」

「もう年だから」

「おおっと、開幕早々に強烈なサーブ! 六人がかりでなんとか食い止め、地上すれすれをボールが浮遊しております!」

「あそこから持ち直したら大したもんだ」

「ゆっくりとボールが上へ上へと上昇していく! それはさながら崖をよじ登るロッククライマーのごとき勇壮さ! 不可視のエベレストをボールは着実に登頂のロードへとひた走っております!」

「あ、こりゃいかんな」

「どういうことでしょう?」

「集団の念力戦って、消耗激しいんだよ。どっちのチームも練度が高いぶん、長い拮抗は……」

「おおっと、ボールは力を失ったようにコート上に落下、そしてなんということでしょう、六プラス六、合計十二人の選手みなが、鼻血を噴き出し一斉に倒れました!」

「美しいドローだ」

「コート上に転がるボールと、倒れ伏したバレーボールの申し子たち! なんという黙示的光景でしょう! ハケろ! 早くハケさせろ! 負け犬どもを片付けろ! さて、清掃スタッフが選手を搬送しているあいだ、一旦コマーシャルです」

「らららエスパ~、国家の尖兵~、暗愚の大群一網打尽~♪」

「さて、お茶の間をなごませるご機嫌なコマーシャルが明けて、お次は本日の目玉競技、ドッジボールです!」

「いちばん殺意が映えるからね」

「おおっと、外野から外野へパス、パス、パス! 光速を超えるような華麗なパスワーク! なにを狙っているのでしょうか!」

「うまく焦点をそらしてるねー」

「その軌跡はまるで流星のごとく! サイコキネシスが描く一場のプラネタリウムがここに花開いたといったところでありましょうか!」

「あ、ひとり始末した」

「うなるうなる、ボールがうなる! どんどんコート上から立っている人間がいなくなっていきます! この試合が令和のバニシングポイント、球技のシンギュラリティとなるのでしょうか!」

「一騎討ちだ」

「外野も内野も死屍累々! 残るは甘粕選手と埴谷選手だけの一対一! もはやドッジボールではなく巌流島の決闘、いや、これこそがまさしくエスパーのエスパーによるエスパーのための球技の真髄なのか!」

「あれ?」

「あっと、どうしたことでしょう、二人がこちらを見ていますね。実況席を眺める二人のエスパー。いったいその眼にはどんな想いが宿っているのでしょうか」

「謀叛でしょ」

「おおっと、二人の渾身のサイコキネシスが、実況席を覆う高密度バリアを襲います! なんという掟破りの超常プレー! 正宗鳥さん、スリル満点の展開となりましたね!」

「倒れたやつらも加勢してる。全員、グルか」

「選手たちの血と汗と涙のサイコキネシスを、政府ご用達最高品質バリアが無情にも弾き返します! ボロ雑巾のごとく一掃される選手たち、いや、叛徒たち!」

「まあ、そりゃ無理だよね」

「さて、思わぬ結末を迎えたエスパー球技大会、名残惜しいですが、逆賊たちを粛清するためこのあたりでみなさんともお別れです。解説の正宗鳥さん、最後になにか一言」

「球技になってないよね、実際」

「以上で中継を終わります! ありがとうございました!」

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