エピローグ

 ぴんぽーん。


 ぴんぽーん。ぴんぽーん。


「すいませーーん! 谷原 まりかさんのお宅ですかー?」


 ガチャりと開いたドアの隙間からメガネの女が顔を出す。


「.......そうですけど」


「わたくし、こういうものでして!」


 長い指で警察手帳をつまんで、胡散臭く笑う男。

 よく見れば隣りにはこけしを持った小柄な女。


「.......警察?」


「ええ。谷原 まりかさん、お宅拝見しますねー?」


「はぁ? ちょっと、勝手なことしないで!? 警察呼ぶわよ!?」


「すいませねぇ、僕達が警察なんですよ!」


 ドアに足を挟んで無理やり入ってきた男は、きちんと靴を脱いで部屋に上がる。


「ちょっと!? なんなの!? 」


「おお、これまた随分と.......素敵なお部屋ですねぇ」


 足の踏み場もないほどゴミや服が散乱した部屋を、男はスタスタ進んでいく。


「いい加減にしてっ!」


 メガネの女が携帯を取り出して電話をかける。


「すいません! 今部屋に変な男が、直ぐに来てください!」


「おやおや? もしかして警察に連絡してます?」


 電話を切った女は台所から包丁を持ち出して男を睨む。


「下手なマネしてみなさい、刺すわ」


「おお、アグレッシブですねぇ!」


 胡散臭い笑顔の男は、ゴミの山をひっくり返す。


「.......いつのお弁当ですかねぇ」


「.......ツキ、鼻かゆい」


「早く帰りましょうねぇ」


 男がゴミに埋もれた服をひっくり返すと。


「ああ、ありました。でもこれは.......」


「.......飼ってない」


「そうですねぇ。こんな状況で飼育とは言えませんねぇ」


「何言ってるのよ!? 大人しくしろっ!」


「星野ちゃん、瓶に入れて。帰ろうか」


「ん」


「動くなっ!!」


「うーん。元気な人ですねぇ.......」


「ツキ、何本?」


「いえいえ、この人は飼育してませんからね。ただ少々特殊なお部屋なだけで」


「どうする?」


「お部屋のお掃除をおすすめするぐらいですかねぇ.......」


「あ、あんた達.......」


「では!」


 男がスタスタメガネの女に近づいて、包丁を取り上げる。

 そして、長い指を女の額にぐりっと押し付けて、胡散臭く笑った。


「こちら警察庁星追い課です。今回は捜査へのご協力感謝します」








「谷原さん、谷原さん!」


「.......?」


 女の目が覚めた時、初めて目にしたのは2人の制服姿の警官。


「.......警察?」


「谷原さん、鍵は閉めてくださいね、最近物騒ですから」


「な、なんで.......?」


 ぴきっと音がした気がした。


「あれ.......?」


「谷原さん、近隣から悪臭で苦情がきてますよ。部屋、なんとかしてください」


「.......は、はい」


「今回は注意ですから、これで失礼しますね」


 警官が部屋を出ていくのを見送って、女はゴミ袋を探し始めた。














「星野ちゃん、今日も星が綺麗だね」


「.......うん。でも、ツキ」


「どうしたんだい?」


「今日は、月が綺麗ですね」


 星は、誰もが持っている。

 その人の本質、エネルギーの塊、強い意志の集合。


 今日も2人は、星を追いかける。

 迷子の星を探し出し、落ちた星を追いかける。

 虫取り網で流れ星を捕まえて、瓶に入れて空に返す。




「星野ちゃん、僕は死んでもいいですよ」

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こちら警察庁星追い課。 藍依青糸 @aonanishio

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