第12話 幹部会合

 リヴラーガのとある政府庁舎の小さな会議室では、ドラッヘ・レベガーと彼に近しいごく限られた政府高官と軍幹部による会合が行われていた。


 軍司令官自らが資料を配りながら言った。

「敵は、我がほうの部隊を待ち構えていたそうです」

「なんたるザマだ。奴らは、こちらの動きを予見したのだろうか?」

「そこまでは不明です。ただ、相手の飛行物体の姿は、フィルムに記録できました」


 部屋の照明を暗くすると、オーバヘッドプロジェクターによって写真が大きく引き延ばされてスクリーンに映しだされた。

 それはかなりブレていて不鮮明であったが、おおよそのかたちを見て取ることができた。


「なんだ、これは……」


 レベガーはまじまじと見つめた。

「まるで、巨大な鳥だ。装甲で身を固めた、恐ろしい……機械の鳥のようだ。どうやって飛んでいるのだ」

「不明です。しかし異常な推進力を持っているのは確かでしょう。さらには、偵察から得られた情報によりますと、この飛行装置には人が乗っていたそうです」

「なに? 人が乗って動かしているというのかね? 見間違いではないのか? 恐ろしく俊敏な動きをしていたという話ではないか? そんなものに乗って、人間が耐えられるとでもいうのかね?」

「私には、なんとも言いかねます」

「まあ、よい。続けたまえ」

 それから情報部のトップが、次の資料を取り出した。

「閣下……こちらをご覧ください」

「なんと!」


 続いてプロジェクターの写真が差し替えられた。


 例の船の写真であったが、そこに映っているのは、遠方からの不鮮明な像であったが、あきらかにソラスタジアのティテーノと思われる姿も映っていた。


「はやり! ソラの連中と関りがあるじゃないか!」

「おそらくは、何らかの関与があるものと思われます」

「おそらく、などという表現は不要だ。確実に関与している。連中は、なにか大規模な策略を計画しているに違いない!」

 レベガーはやや興奮気味に続けた。

「このままでいかん。どうにかして船団の正体を暴き、その息の根を止めなければならん!」

「しかし、閣下、こちらの報告書もご覧ください」

「なんだね」

 手渡された書類を、大きく深呼吸してから読んだ。

「なんだね、連中は千里眼でも持っているのか? この報告書を読むに、船団はこちらの偵察機が攻撃可能範囲に入る前から、こちらの動きを把握してるということか?」

「おそらくはそのように考えられます」

「あり得ん……我々が、まだ開発に取り組みはじめたばかりの、遠距離探査装置レーダーを持っているとでも言うのか? それも完璧な性能を持った」

「何とも言えません。しかし、可能性は大かと……」


 そのとき、会議室に兵士の一人が書類フォルダーを手にやってきた。


「会合中、大変失礼いたします!」


 その兵士は素早く軍司令官に書類を手渡すと、また足早に会議室を出ていった。

「司令官、今度は何事だ?」

「閣下、回収部隊が第一次任務を終えました」

「そうか。それで、生存者はいたのか?」

「いいえ。いまだ発見できていない者も多数いるようです」

「わかった」

 レベガーはまたしても大きくため息をついた。

「これに関しては、大々的な国葬を執り行うつもりだ。しばらく喪に服すことにする」

「閣下、よろしいのですか? それは、我が軍の精鋭部隊が壊滅して、」

「無論、すべてを知らせるわけではない。公開する情報はごく一部だけにするのだ。しかし、敵に慈悲は無いということを、改めて我がリヴラーガ全土の国民に知らしめるがためだ! これまでにない状況だ。ソラの連中は我々を根絶やしにするつもりだということを、国民に印象付ける。それに部隊が被害を被ったのは事実。仮に誤魔化したところで、すべてを隠しておけるものでもなかろう。ならば逆に、兵と国民の士気高揚として、盛大なプロパガンダを演出するのだ! それから、正式外交ルートでソラに抗議……いいや、たっぷりと警告内容を含んだ書簡を送ることにしよう。さらなる相手の出方を探ることにするのだ」


 レベガーは手元の書類を全部重ねると、脇へ追いやった。

「諸君、いいかね。」

 一同に視線を向けてから、厳しい表情で続けた。

「これまでにも話していることだが、ソラの連中は、宇宙進出が神に逆らう禁忌だという、バカげた考えに未だ縛られている。そして、連中の過去の失敗は未熟な科学知識と稚拙な技術の愚行によるものだ。この惑星の重力圏を脱するには、大量のグラビトニウムが必要なのだ。だが、我がリヴラーガにおける産出量は充分ではない。

 我が国リヴラーガをまるごと宇宙へ進出させるためには、大量のグラビトニウムを仕込んだ大掛かりな空中施設と飛行装置をつくる必要があるのだ。

 ここでの問題点はシンプル。だが、解決には非常に手がかかる。

 我がリヴラーガではグラビトニウムの産出が非常に少ない。一方でソラスタジアの大陸には豊富にある。それに彼らは、我が国より三倍以上という広さの国土を有している。予想される埋蔵量は膨大なものだろう。

 そして、ソラの連中はグラビトニウムを宇宙進出に利用するのに否定的ときた。いや、むしろ我々の宇宙進出計画を、この世界の平穏を破壊し、神の怒りに触れる行為だと病的なまでに思い込んでいる。すでに、これまでにも多くの政治的軍事的妨害を受けているのだ。こうなったならば、我が軍の武力もってソラスタジアを制圧し、指示に従わせるしかない。何度も言っているが、この調子ではいずれ、全面対決は免れないのだ!」


そこで軍司令官が口を開いた。


「しかしですな、閣下。あの……新兵器を積んでいると思われる例の船団は、いかがします?」

「憂慮するべき点はそこなのだ! 手をこまねいてはいかん。しかるに、奇襲をかけて敵の主力を壊滅させなければならない。時間の猶予はない。作戦プランを考え出すのだ」

「お言葉ですが、閣下、情報分析隊によると、現状ではリーゼだけの戦いにおいても、図上演習の結果は厳しいものです。今いる、もっとも練度の高い搭乗員と、工場から出たばかりの最新リーゼを用いても、撃破は不可能と思われます」

「だったら、せめても、あの船団が行動不能になるような作戦、あるいは新たな兵器を考え出すのだ。何のために高額な年俸を貰えると思っているのか! 私こそ、国の未来のために日々、身を粉にする思いでいるのだぞ!」


 会合の参加者たちは、その言葉に黙ってうなずいた。


「よいか、我が国は今、これまでにない危機に立たされているのだ」

「はい、承知しました」

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艦隊転移(仮 八重垣みのる @Yaegaki

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