妄想6:開かない扉
私の部屋は湿気がたまりやすい。
梅雨や台風シーズンなんかは特に部屋中がジメッと湿っている。
換気をして空気の入れ替えが出来ればこんな事にはならないのだが、いくら窓を開けても風が全然入ってこない。
その上、部屋の真下にお風呂があるせいで天気に関係なく湿気はどんどん上がってくる。
うっかりしていると本棚の裏にカビが生えてしまうのだ。
日当たりや風通しの悪さはたいして気にならないが、流石にカビ問題はこの部屋の欠点だと思う。
いくら部屋に籠るのが好きでもカビと共存はしたくない。だから定期的に部屋の模様替えをしている。
夏休みも残り1週間になった今日は、久々に模様替えをしようと昼過ぎからドタバタ部屋を引っ掻き回し始めた。
棚に詰め込まれている物を片っ端からどかしていくが、ついつい漫画や思い出の品に気を取られ、あっという間に外は暗くなってしまった。
午後8時を回り晩御飯をのんびり食べてから部屋に戻ると、まだ半分も片付いていない。なんとか今日中に寝れるような部屋に仕上げなければいけないので急いで手をつけ始める。
騒音も気にせずガタガタと家具を動かし、ひと段落ついた頃には既に10時を過ぎていた。
まだ細々した物は散乱しているが、ひとまずいい感じに部屋の模様替えが出来たので満足げに部屋を眺める。
いつもと逆向きのベッドに、エアコンの真下に移動させた机。相変わらず天井まである棚は出入口のドアを挟むように積んでみた。
使い勝手は微妙な気もするが、なかなか気に入ったレイアウトになったので変にテンションが上がる。
そのテンションのまま、片付けられていない山積みのDVDから脱出ゲーム系のホラー映画を引っ張り出して見ることにした。
内容は、殺人鬼に拉致された男女数人が様々な仕掛けのある部屋から逃げ出すもので、最終的にはヒロインしか生き残れない。
前に何度か観た映画だったので謎解きや結末は知っていたが、いつもと違う雰囲気の部屋で見るとなんだか新鮮で面白い。
エンドロールを見終わり電気を付けると、卓上のデジタル時計は既に日付が変わろうとしていた。
そろそろ寝ないとと思った時、自分の服を見て風呂に入っていないことに気づく。片付けに集中し過ぎてすっかり忘れていた。
私の家族は晩御飯前に風呂を済ませてしまうことが多いので、恐らくもう湯船は冷めてしまっているだろう。
仕方が無いので軽くシャワーだけしてさっさと寝ようと、漫画の山が乗ったままの衣装ケースからパジャマを引っ張り出す。
携帯と服だけ持って部屋を出ようとドアに手をかけた時、なにか違和感を感じた。
この部屋のドアはそんなに建付けが良くないのでドアノブに触っただけでドアが少しガタガタするのだが、今手をかけた時はビクともしなかった。
まるで接着剤かなにかでくっつけてしまったかのようにぴったりとドア枠に納まっている。。
恐る恐るドアノブを回して手前に引くが、やはり動かない。
鍵なんていないし、内開きのドアなので外に何かつかえているわけでもない。
それなにのドアはビクともしない。
手に持っていた服を置き、両手で目一杯引っ張ってみるがやはり開かない。
完全に閉じ込められた。
脳裏にさっきの映画がよぎる。
まさか自分の部屋に殺人仕掛けがあるはずもないし、ましてや鍵すら付いていない部屋にわざわざ閉じ込める意味もない。
分かってはいる。分かってはいるのだが、どうにも気味が悪い。
家族はもうみんな寝てしまっている。
助けは呼べない。
部屋の中を見渡すがいつもと違う配置、雰囲気に急激に心細くなっていく。
置いてある家具も雑貨も全部自分のモノのはずなのに、まるで自分の部屋ではなくなってしまったかのようだ。
エアコンの音がやけに大きく聞こえ、そこから出る冷気がドアの前で立ちすくむ私の全身を包む。
手足が冷たくなり始めた頃、急にトイレへ行きたくなってきた。
閉じ込められている場合ではない。
とりあえずドアに向き直り力一杯引っ張るが、ビクともしない。焦れば焦るほど尿意も増していく。
やばい、本当にやばい。
冷や汗をかきながら片足をドア横にかけ、壊す勢いで思いっきりドアノブを引いた。
バキッ!!
何かが折れる音と共にドアが勢いよく開く。
思わず後ろに倒れそうになったが、体勢を立て直し急いでトイレに駆け込んだ。
なんとか間に合い服を取りに部屋へ戻る。
電気のつけっぱなしだった部屋へ入り、ドアを恐る恐る閉めてみると上から何かが落ちてきた。
足元に転がった物を拾い上げると、ドアに引っ掛けるタイプの百均のハンガー掛けの破片だった。
ドアの上を見上げる。
そこには無残に折れたハンガー掛けと、それに圧迫されて凹んだ本棚が少し傾いていた。
たったそれだけ。
そのちょっとしたハプニングが私の心をワクワクさせる。
妄想少女 あこねる @AKone2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。妄想少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます