夏だーっ! 海だーっ! 海水浴だーっ! 2020年の夏も若者は集う

世界三大〇〇

夏だーっ! 海だーっ! 海水浴だーっ!

太一が雲ひとつない晴天に向かいテンプレ台詞を叫ぶ。

「よくそんな大声で言えたもんね」

「良いんじゃないかしら。本能むき出しのマスターも」

 太一の絶叫を、冷ややかに嘲笑するあおい。歩み寄って肯定的に捉えようとするあゆみ。子供のようにはしゃぐ太一を見る目はそれぞれ。太一は、そんなことはお構いなしに、本能をむき出しにしている。だが、太一を空腹が襲い、だらしなくグゥーという音を響かせる。

「朝ご飯を買ってきましたよ!」

「わーい! 焼きそば、焼きそば、焼きそば!」

 めちゃ盛り3皿で500円。太一がテンションをさらに高める。それを冷ややかに見るあおいとアイリス。いつもは反目しあう2人の意見が一致。折角の大胆な水着、ポッコリお腹だけは避けたい。

「あおい、アイリス。気に入らなかったかしら……。」

「優姫、気にすんな。早い者勝ちだぞ!」

「そうだよ、そうだよ、そうだよ!」

 結局、あおいとアイリスは手をつけずじまい。

「あぁー、食った食った!」

「食った食った食ったーっ!」

 砂浜に大の字に寝そべる太一とまりえ。少し遅れて優姫が太一の横を陣取る。食って寝るという本能むき出しの行動を羨ましそうに眺めるあおいとアイリス。本当はその方が楽しいのだということを2人とも知っている。だが、どうしてもお腹が気になって仕方がない。


 夏の太陽が容赦なく照らす。

「はぁー、眩しいー!」

 まりえは左の手首辺りを瞼の上にそっと乗せる。弾みで右手が動き太一の左手と重なる。

「まりえ!」

「マスター!」

 今度は2人視線を重ね合う。

「まずいわ、この状況!」

「ええ。まずいですわ!」

 あおいとアイリスがいくらほぞを噛んだとしても、幸せいっぱいお腹いっぱいの2人に割って入ることはもはや不可能。唯一優姫が食らいつくが、2人の間に入り込むまでには至らない。それを、さらに決定付けることが起こる。

「マスター、塗って! 塗って! 塗ってーっ!」

「ったくー。どれ!」

 太一は、まりえの化粧袋を漁り日焼け止めを取り出す。そして、既にわがままボディを反転させて腹ばいになっているまりえ。白い砂がそれよりも白いまりえの肌に吸い付いているのを器用に払っては日焼け止めのクリームを塗り、また払っては塗る太一。

「あのー、マスター。私もお願いします!」

「しゃーねーなぁ。順番、順番!」

 太一とまりえ、上手に追随する優姫を含めた3人を、幸せのオーラが取り巻く。その空間を睨みつける凄い目が4つあることを、3人は気付いていない。


「ぷはーっ、サイッコー!」

 太一がラムネを器用に一気飲み。左側に続くはずのまりえのぷはーっは聞こえてこない。太一が気になり視線を向けると、まりえは涙目。

「ふぇーん。飲めない! 飲めない! 飲めないーっ!」

 ラムネを持った右手は、胸の中央に据えられている。右のおっぱいが少し潰された分、左のおっぱいが頑張っていて、太一からだとしっかり見える。

「しゃーねーなぁ。こうすんだよ!」

 太一はまりえのラムネを奪い飲みはじめる。

「いいか。こうやってだな、90度より上げないようにすんだ」

「マスターすごーい! マスターすごーい! マスターすごーい! って……。」

 勢い余ってまりえのラムネを飲み干す太一。

「……ぷはーっ。ごっそーさん!」

「ひどい! ひどい! ひどいーっ!」

 まりえが太一をタコ殴りする。

「まぁまぁ、まりえ。私のを半分あげるから」

「違うの、違うの、違うのーっ!」

 太一は少しだけ反省。一層強まる幸せオーラ。それを睨む目の数も次第に増える。太一たちの周りを陣取っている無数の男たちの嫉妬の目だ。


 あゆみとまこととしいかの3人は、太一たちと少し距離を置き、サングラスをかけて寝そべる。一見すると太一たちとは別グループであり、3人連れには不釣り合いに大きなタープを見逃した愚かな海の男たちは、餌食となる。

「ねぇ、君たち。一緒に泳がない?」

「……。」

「……。」

「……。」

「こんにちは。俺、一目惚れしちゃって!」

「……。」

「……。」

「……。」

 ガン無視。太一にしか興味がない3人が他の男になびくはずはない。だが、全く庇ってくれない太一にほんの少しだけイラつく。そんな中3人の反応を引き出すグループが現れる。

「ねぇ、君たち。一緒にどう?」

「……あっ!」

「何よ!」

 バレーボールを持つ男に、あゆみとしいかは思わず反応してしまう。

「あぁっ!」

「何だ。君たちか。ってことは!」

 男たちもあゆみたちに見覚えがある。だから、キョロキョロと辺りを見回して、キャッキャと騒ぐ太一を見つける。

「ま、ってことはあいつらもいるってことっしょ」

 まことは、あおいとアイリスに話しかけている冴えない男たちの姿を見逃さない。あゆみたちをナンパしたのはたかたんたち、あおいたちにはなしかけたのは卑裏悪のメンバー。


 太一たち御一行は4つのチームに別れてビーチバレー大会にエントリー。大会は素人向けということもあり男女3人で1チームを構成するルール。太一とまりえと優姫がチーム光龍として出場。あゆみたちはたかたんたちと、あおいたちは卑裏悪と、それぞれに手を組む。

「うぉっしゃー!」

「ザマーミロ!」

 最もハッスルしているのはあおいとアイリス。持ち前の跳躍力と反射神経の鋭さを遺憾なく発揮。ほとんど2人でボールを回し勝ち進む。ぷるんぷるん揺れるアイリスのおっぱいは観衆の目を釘付けにし大人気。

「イエスッ!」

「ふん、よゆうよ、よ・ゆ・う!」

 ハイタッチする2人。その輪に入ろうと卑裏悪の一般人が手を挙げるが、ガン無視の刑。その痛々しさに観衆は皆、涙。


「じゃあ、私が1人になるから」

 あゆみが1人で男2人を率いるチームBを作る。チームAはまこととしいかとたかたん。ほとんど揺れないこのチームAは活躍し、準決勝に進出。チームBも余裕の勝利を重ねる。


「わーい! また決まったよ!」

「まりえ、ナイスだ!」

「次も頑張りましょう」

 光龍チームはポイントを獲得する度に中央に集まり円陣を組む。おっぱいは円陣の内側に向けられていて、太一が独占。はじめは青春真っ盛りといった3人を温かい目で見守っていた観衆も、度重なる見えそうで見えない円陣の中のことに、次第に嫌悪感を覚え出す。


 準決勝第1試合。卑裏悪チーム対SAIKYOUチームB。この1戦は呆気なく終わる。

「いい、アイリス。序盤から全開で行くわよ!」

「もちのろん! あゆみが相手だからって、手加減はしないわ」

 我を忘れているあおいとアイリスは、その能力を惜しみなく出し尽くす。だが、あゆみはもっと強か。アイリスがアタック、あゆみが回転レシーブをするのだが、そのとき……。

「痛いっ!」

 あゆみは右脚を捻り、苦悶の表情を見せる。それまではヤンヤヤンヤと囃し立てていた観衆も、ふと我にかえる。それはまるで、あおいとアイリスによる虐待のような図なのだ。

「いくら何でもかわいそうだぞ」

「そうだそうだ、やり過ぎだ!」

 あゆみへ声援が大きくなるのを、あおいもアイリスも黙って聞くしかない。

「ぬぬぬっ、観衆の同情票を集めるとは!」

「あゆみ、卑怯なり!」

 はじめのうちはヒロインのような活躍をしていた2人だが、いつの間にかヒールに。だがあゆみの策略はそれで終わらない。

「あぁーん。マスター、助けてー!」

 その言葉に、太一がコートに登場。あゆみを負ぶってコートの外に出る。負ぶさるあゆみのおっぱいが、太一の背中を刺激しているのは言うまでもない。それでいて観衆は拍手を浴びせるのだから、おめでたいとしか言いようがない。

「くぅー、そういう手があったかぁ!」

「あおい、私たちも次に使うわよ」

「いや、次はもう決勝……。」

 卑裏悪の一般人の突っ込みも虚しくあおいたちが勝利。


 準決勝第2試合は、大会屈指の好ゲームとなる。

「太一くん、今日は負けないぞ!」

「たかたんさん……。」

 まりえたちもしいかたちも、徹底的に拾い役に回る。そして、男と男の撃ち合いとなる。だが、太一もたかたんも決め手を欠く。角を狙ったアタックは尽く拾われてしまう。それでも、太一のホームラン級のアタックもまこととしいかが拾うのに対して、まりえと優姫は堂々と見送っていたから点差は次第に開く。

「なんかズルくないか、太一くん!」

「俺は知りませんよ」

 結局、21対13という意外な大差で光龍チームが勝利。


 決勝の前に小休止。そのとき、観衆が目にした光景とは!

「ア、アイリス。涎垂らすの辞めなさいよ」

「で、でも、私だってさせて欲しいのよ!」

 アイリスの視線の先にあったのは、まりえの見事な乳休め。次いで優姫も恥じらいながらも乳休め。しっかり休んで決勝に備える。勝負に徹したのだ。だが、これで闘志に火を灯したのがあおい。

「私はどうせ乳休めなんて必要わよっ!」

 だが、あおいの頑張りもここまで。

「くぅーっ! いよいよチャンピオンシップポイントよ。アイリス、何とかなさい!」

「だめぇ。お腹空いたし、おっぱいが千切れそうで……。」

 こうして、ビーチバレーボール大会は光龍チームが優勝。


 夕陽に向かって飛ぶカモメの鳴き声が砂浜に響く。表彰式のあと無事に乳休めをさせてもらったアイリスが元気を取り戻す。残るあおいも、着替えたあとに振る舞われた海鮮丼に舌鼓を打つうちに、全てを楽しい思い出として受け入れる。

「副賞は何だったの?」

「高原リゾートの宿泊券だよ」

「本当は3人分だったんですけど、8人分におまけしてもらっちゃいましたー!」

「ま、ゴリ押しって奴っしょ!」

「凄いわ! 海の次は山ってことね! 日本の夏は楽しいなぁ!」

「ふん、どうせ美味しいもの食べて終わりなんでしょうけど」

「今度はバーベキュー! バーベキュー! バーベキュー!」

「まぁ、まりえったら。食べ物のことばっかり!」

 こうして、太一たち御一行の海水浴は幕を閉じる。

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