2話 日が沈むまでに

 前回のお話、眷属の義の最中に怪我をした青年を拾ってしまった。

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 気絶した青年は、その後先ほどのように起き上がることはなく、ただただ弱々しい息を続けるだけだった。このままでは、いつ命を落としてしまうかわからない、急いで手当てをし、村へ連れ帰らなければいけない。

 少女は青年を自分の上から取り敢えず退かせ、静かに横たえた。そして、近くに生えていたヨツユ草という、止血鎮痛に効果がある草を千切り揉みほぐし、傷口へ張り付けた。そのままでは、草がおちてしまうので、持っていたタオルを細く千切り、ヨツユ草の上から巻いておく。本当に初歩的な応急処置だが、なにもしないよりはましだろう。

 とり会えずの処置が終わったが、まだ安心することは、出来るだけ早く村へ連れ帰り薬に詳しい父に見せなければいけない、そのために一番良いのは、村人を連れてきて運ぶのを手伝ってもらうことだが、今はそんなに時間がない。

 仕方ないので、一人で運ばなければならないが、体格差があり少女が青年を運ぶのは難しそうだ。少しでも楽に運ぶため、持ってきた荷物は、ナイフとロープを除き置いていく。

 そして、うつ伏せの青年の右側の脇の下へ頭をいれ、肩へかれを乗せると、自分の右手で彼の足と手を持ち担ぎ上げた。

 これは、ファイヤーマンズキャリーという運びかただ。片手が自由なので、何かあったときに対応することができる。

 名前のとおり、火事があった時によく使われるらしい、がこの村では、本来の使い方で使われた事がなく、基本的に鹿などの大きな獲物を取った時に使われている。

 大きな獲物を捕まえる事も多く、力はそこそこある少女だったが、体格さがあるため、かなりつらい青年を見つけたのが村の近くだったら良かったのだが。

 そんなことを考えながら少女は、歩きだした。



 村までの道を来たときよりも、時間をかけて歩くとやっとのことで村の近くまでたどり着くことが出来た。やっとついた…。少女は、村の門の近くへつくと、片手で門を叩いた。するとすぐさま中から返事が聞こえ門が空いていく。

 「おーお帰りなさいレナさん、思たより時間がかかりましたね、もうあと30分ほど遅かったら村人全員で捜索にでる所でしたよ。」

 気抜ける声で、そう話しかけてきた門番は、門が開ききると、少女レナが持つ獲物が、森にいるどの生きものとも違うことにきずいた。

 「うわああああ、人だあ死んでるの、生きてるのえレナさんやっちゃたの」

 門番は相当気が動転してるのか、アワアワ言うばかりで、運ぶのを手伝ってくれそうにない。

 「生きてるから、誰か人手を呼んできて」

そうレナが言うと騒ぎで人が寄ってきた。

 「なんだ、チビお前儀式の獲物がなかなか獲れないからって誘拐でもしてきたのか。」

 人を見下したような表情をしながら、隣の家のガイが、話しかけてきた。

 「見て分からないの、人が倒れていたから、運んできたのいま急いでる、からとりあえず手をかして。」

 ガイは、私に指図されたのがきに食わないようで、顔をしかめていたが今にも死んでしまいそうな、彼を見るとそれ以上の文句が出てこないのか、大人しくてを貸してくれた。

 「かせ、俺が持つお前は先に親父さんのもとに行って状況を伝えてこい。」

 レナは、ガイに青年をわたすと、父親のもとえと走った。今の時間だと薬草畑にいるだろう、急ぎ連れ戻し彼を診てもらわねばならない。

 村を走り抜けていると、村人達が声をかけて来て儀式がどうなったのか聞いてくるが、レナはいま急いでるからと、行ってみんなを降りきって、はしった。



 薬草畑の端へつくと父はいつもの用にお昼寝をしていた。

 「父さん起きて、急患よ」

 レナの急患という言葉を聞くや否や、父は飛び起き、走り出した。レナは慌てて父のあとをおいかけた。

 「症状はなんだ、病気かそれとも傷か」

 「傷よ、たぶん怪我してから一日はたってる。」

 走りながら彼の傷の様子について軽く説明する。急ぎ走る父とレナを見て、何があったのか不安そうに皆が見てくる。

 家えつくと、丁度着いた所だったのかガイが、青年をベットへ寝かしている所だった。

 「これは、不味いな…急ごう」

 父は素早く彼を手当てしていく、あっという間に手当てが終わると、生姜湯をちびちびと飲ませていく、すると体が暖まったのか、彼の顔に生気が戻ってきた。これでとりあえずひと安心だろうと3人は息をついた。そして父はレナを見てきた。

 「レナお帰り、これはどうゆうことだ。儀式はどうなった。えものはどうした。」

 命が危険だったから忘れていたが、今は眷属の義の途中で本来なら、神にえものを奉納している所だということを思いだし、レナはこれからどうすればいいのか、不安に思ってきた。

 「そうだった、父さんどうしよう私の儀式どうなるんだろう、もう少しでイノシシを捕まえるとなったところで、彼をみつけてしまって。」

 「そうか、イノシシと目があったのか、しかし命の方が大切だ懸命な判断だったとおもうぞ。なあに獲物がとれなければ、食料を奉納すればいいんだ。」

 父が、励ましてくれたが、そうではないのだ。レナと目があってしまったのは、イノシシではなく青年なのだ。

 「違うの父さん、じつは…」

 「どうしたんだ」

 「実は、目があったのはイノシシではなくて彼となの」

 レナの言葉を聞き一瞬理解が追い付かなかったのか、固まった父とガイであたっがレナの言葉を理解すると、

 「「人と目があってしまっただと、あれほど気を付けろと言っただろう。」」

 と鼓膜が破れてしまうのではないか、というほどの大声でしかりつけてきた。

 「不味いことになったな、」

 「ほんとにチビは、アクシデントばかり呼び寄せる」

 「ガイ君、村長に伝えてきてくれ。急ぎ儀式を行うと。」

 「わかった、すぐに伝えてこよう」

 何がおっこっているのか理解ができていないレナを置いてきぼりにして、ふたりの間で会話が進み、ガイが家を飛び出していった。

 「レナ、いいかよく聞きなさい、本のごく稀に生きたまま眷属の義の獲物を、狩って来ることがあるらしい、だがなその場合すぐに儀式をしなければならない、理由はよく分からないがそう言う場合は、捕ってきた獲物は死んでしまう、どんなに無傷で捕まえてもだ。人間を連れて帰ったパターンは、聞いたことがないが、人でも同じだろう、このままにすると、彼は日没までしか生きられない。」

 レナは、驚き手足に力が入らなくなった。正直これからどうなるのか不安に思っていた、しかしせいぜい今後バカにされからかわれるくらいと、大して深刻に思ってなかったのだ。

 それが、父の言葉によりより事態が深刻であるとわかり、さっきまでの自分を殴りたくなった。あのとき彼を助けないという選択しはなかったが。自分がもっと気をつけて目を合わせなければ、彼はもっと長く生きられたかもしれないのだ。そう思うと申し訳なくレナは涙が出てきた。

 父が指で涙を拭ってくれる。そして、ひとつのことを教えてくれた。

 「レナ但し手が無いわけでは、ない…今からに日没までの間に、儀式を行えば彼を助ける事ができる。」

 まあ少し条件があるがと小さく父が呟いたが、突破口を見つけた彼女には聞こえていなかった。



急ぎ儀式の行われる泉へ向かうと、すでにガイと村長も来ており、成人済みの村人はそろい儀式の準備は終わっているようで、辺りは静まり返り風のざわめきだけが聞こえていた。

「よし、みなそろったようだなこれより儀式を行う。」

 村長の声を聞き、父が青年をゆっくりと泉の前に置かれた布の前に横たえ、泉を囲うようにたつ皆の中に加わった。

 それを合図にレナは、泉の前に立ち息を吸うと、建国聖歌の一節にある神を称える歌を歌い出した。

 優しく、時に強く感情をのせ歌い上げていくその歌は、聞いているだけで神世の時代が浮かび、人々に神との繋がりを思い出させた。

 歌が丁度終わりに差し掛かると共に、泉に光がさしこみどこからともなく花びらが漂よってきた。光を浴びた花びらは、まるで森の奥にすむ妖精のようで、それが風にふかれ漂うものだから、まるで森が彼女を祝福しているようで、村人達はその神秘的とも言える姿にため息がでた。

レナが歌い終わると急に、青年が呻きだしレナの心臓の辺りが熱くなった。

 「何これ、どうゆうこと」

 レナは驚き辺りをみまわすが、全員わかっていたことなのか、驚くこともなく静かに見ていた。

熱くなった心臓の熱が覚めると、火傷したかのようなヒリヒリとした痛みがした。

 儀式が終わったので、青年の調子が気になり青年に駆け寄ると、さっきまでの怪我が嘘の様に傷ひとつ無くなっていた。

 「父さんどういうことなの、皆はこの事を知ってたの」

 そういって父の方へ顔を向けると、レナの目には今まで見えなかった物が見えるようになっていた。


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