第25話 旅の始まり
ハートレイス城にて宴が行われ、翌日。
俺たち聖女一行はハートレイス城の連中に見送られながら、南の方へ旅立った。
ハートレイス王曰く、南方にある遺跡には聖女に関わる何かが祀られているらしい。
距離的にも問題ないとのことなので、ひとまずはそこが目的地となった。
「はぁ、ご飯美味しかったねぇコルマちゃん」
「はぃぃ……どれもこれも食べたことが無いモノばかりで、全部絶品でありましたなぁ……」
記念すべき旅の第一歩だというのに、主役の聖女と盟友のコルマは浮ついた表情をしている。
ハートレイスでの宴が想像以上に良かったみたいだ。
実際俺も飯をバクバク食いまくったワケだが、ちょいと気が緩みすぎだろコイツら。
「おい、これからはいつ襲われても可笑しくねぇんだ。そろそろ気を引き締めろよ」
「うんうん、分かってるよー。でもねぇ、やっぱりもう一日くらいいてもねぇ」
「この野郎、コッチが気を使ってやったら……!」
「気にされるなマンダ殿、彼女らはあぁいう宴は初めてだったのだろう。なぁに、敵が来ても我々が対処すればいい」
そう言ってマルタは俺の肩を叩き、妙に優しい口調で宥めてくる。
いやまぁそうだけどよ、なんか気になっちまうんだよなぁ。
ユリカのヤツがボーっとしてたり、油断している所を見るとどうしても一言言いたくなってしまう。
あれでも一応、俺たちのリーダー的な奴なんだもんなぁ。
「のぉ、その菓子ワシにもくれんかの?」
「むぐむぐ、ダメ。これは全部私の。大体お菓子が欲しいなら、何で自分の持ってこないの?」
「出来るだけ身軽なのが良いんじゃよ。その方が歩きやすいからの」
「そんなの知らない」
コイツらは相変わらずだしよ。
ベルンとイズミは後ろの方で付いて来ながら、前みたいに菓子の取り合いをしている。
イズミはベルンの隙を狙っているようだが、ベルンもバスケットいっぱいの菓子を頬張りながら警戒しているようだ。
コイツらを見ていると、本当に魔王を倒す旅をしているのか疑問になってくる。
「……」
緊張感があると言ったら黒騎士くらいだ。まぁいつも黙って歩いているだけだから、実際どんな気持ちなのか全く分からんけど。
「まぁまぁマンダ。そんなに気を張ってちゃ疲れちゃうよ? こういう時くらい少しは緩めないと」
「お前は緩めすぎなんだよ……ったく、なんで魔物の俺が一番気にしなきゃならんのだ」
肩を落とし、ついついそんなことを呟いてしまう。
しかしまぁ、ユリカの言うことも事実ではある。
いつも緊張しまくって、一番大事な時に疲れてちゃ世話無い。
少しは緩めにしても良いのかもしれないな。
ていうか、コイツら見てると気を張ってるのが馬鹿らしくなってくる。
「ほれっ、隙あり」
「あっ……!」
うぉ。イズミの奴、目で見えないスピードでベルンの菓子を取りやがった。
「むぐ……うむ、やはり菓子は美味いの」
「……」
イズミの奴、結構ガッツリ奪ったな。
両頬で頬張って、見せつけるように食ってやがる。
「ぅ……」
あぁほら、ベルンの奴不機嫌っぽいぞ。
くそ、コルマならともかくアイツの面倒まで見る気はな――
「ビャァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
!!?
な、なんだ!? このつんざくような叫び声は!?
ていうか泣き声かぁっ!?
「な、なんじゃい。そんなに大事な菓子だったのかの? ほれ、それならこうして返して――」
「もうたべだ! もうだべられだッ! ア゛ア゛アアアアァァァァッ!」
クッソうるせぇ!?
何だアイツ、いつもだと考えられないような声量で泣き叫びやがって。
あんなのどうやって泣き止ませれば……ってオイオイオイ!?
「なんか雷雲とか来てないかコレ!?」
「ま、マンダ殿! 彼女はいったい……!?」
「知らん! とりあえずなんかヤバいのだけは分かんだろ!」
雷雲はベルンを中心に渦巻き、辺りに雷を落としていく。
誰彼かまわず、完全に暴走しているようだ。
アレに当たったら一瞬でお陀仏だろう。
「どうすんだこれ、おいイズミ! お前が菓子食ったせいだろ何とかしろッ!」
「ふぁっふぁっ、美味かったぞい」
「クソァッ!!」
さては責任とかまったく感じてねぇなクソジジイ!
あぁもう、とにかくなんとかしねぇと!
「ユリカァッ!」
「はいっ!?」
「一旦城に戻れ! 俺が時間を稼ぐから、その間に新しい菓子を貰って来るか、作って来い!」
「が、合点!」
「クソ、締りがねぇにも程がある! 旅立ってすぐに戻るたぁ、ハートレイスの王にも面目がねぇぞ……ヌッ!?」
刹那、鋭い殺気を感じる。
ハッとなって前を見ると、そこにはギャン泣きするベルンの御姿が。
「おがじぃぃぃぃぃッ!! お前が食べだぁぁァァッ!!」
「う、うぉぉ! ちげぇぇぇッ!?」
なんか犯人にされてるが、言葉では分かってはもらえないっぽい。
ベルンが放つ火の玉。雷雲からは雷。
なんだこれ、コイツこんなに強いなら最初から本気出せよ!?
手加減とか考えてられねぇ。本気で避けないと瞬殺だぞこれ!?
「マンダ殿、ここは任せて大丈夫か!?」
「いいからさっさと行けぇッ! ヤツは俺が止める。なぁに、心配するな。俺は元魔王軍小隊長だッ!!」
「じぃねぇぇぇっ!」
「おぼぶぅぅぅぅッ!!?」
一瞬の油断を突かれてしまった。
少し目を離した隙に距離を詰められ、鮮やかや張り手を頬に受けてしまう。
何だこの威力、ガキのソレじゃねぇぞ。
多分マルタに殴られるのと同じくらいだろコレ。
「バァァァッ!!」
「うぎゃぁぁァァァッ!?」
避ける暇なんてあるワケなく。俺はそのままベルンの口から放たれた炎をモロに受けてしまった。
勢いに負けてゴロゴロと転がり、生まれたての鹿みたいな足取りで立ち上がる。
黒焦げだが……まだ大丈夫そうだ。
「ほっほ、お見事」
ジジイほんといい加減にしろよテメェ!
「ま、マンダ殿ォ!?」
「お、俺に構うな! 速く行けェッ!」
立ち止まるコルマを制し、城の方をまっすぐ指さす。
コルマはビクリと動きを止め、目に涙を浮かべながら城の方へと再び走って行った。
あぁ、ちゃんと言う事を聞くようになったのは素晴らしい。
よし、じゃあ俺もちゃんとしないとな。
「おがじぃぃぃッ!!」
「来いやァァァッ!!」
迫りくるベルンに立ち向かい、気合の叫び声を上げる。
相手にとって不足無し。文字通り、生死をかけた攻防戦の始まりである。
とまぁ、これが栄えある魔王討伐の旅における記念すべき初戦闘だったワケだが。
マヌケすぎんだろ。なんで第一戦から味方とやり合わなきゃならんのだ?
だがまぁ、今はそんなこと考えている余裕はない。
俺はジジイへの説教を考えながら、とにかく必死に攻撃を避け続ける。
いやさ、確かに緊張感は必要と思ったよ。
でもよ、こういうのじゃねぇだろ。もっとこう、あるだろ!
「オラオラどうしたカスリもしねぇぞドラガキィッ!」
「ア゛ア゛アアアアァァァァッ!」
「おいちょっと待てせめて雷を止めギャァァァァッ!?」
だが、そんな思いを聞く者はいるわけがなく。
ベルンはギャン泣きしながら、俺は心の中で泣きながら。
意味不明の戦いを続けるのであった。
敗けた後に聖女の盟友となった魔物の話 ツム太郎 @tumutarou1211
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