どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ~テツの日常~

ボケ猫

第1話 テツの日常、とある1日





時間は4時30分。

いつも通りの朝だな。

あの新聞配達以来、朝早く目が覚める。

だが、このくらいの時間の方が自分の時間が確保できる。


テツはゆっくりとベッドから起き上がり、トイレに行って布団をたたむ。

たたむといっても、折りたたみベッドだ。

テツはリビングで寝ている。

家族と起きる時間が違う。

寝室では、嫁と凛が寝ている。

優と颯は子供部屋を真ん中で仕切って分けている。


新聞配達などがあって時間が違っていたからな。

折りたたんだベッドに布団を掛け、リビングの端の方へ運んでカーテンで目立たないようにする。

服を着替えて、食器乾燥機に入っている食器を静かになるべく音を立てずに片づける。

ケトルでお湯を沸かしておく。


5時前。

ばあちゃんたちは起きただろう。

さっき下で歩く音が聞こえた。

毎朝、お茶と味噌汁をもらいに行く。


「ばあちゃん、おはよう」

「テツ、おはようさん」

ばあちゃんが慣れた手つきでお茶をれてくれる。

その間に俺は味噌汁を入れて、ばあちゃんたちのテーブルに一緒に座らせてもらう。

「いただきます」

この朝の味噌汁がたまらなくおいしい。

俺の朝ご飯は、メインが味噌汁だ。

地元の味噌屋の味噌。 飲んだ後、ジワッと喉を通る塩辛さがない。


「テツ、まだ言ってるのかい?」

ばあちゃんが小指を立てながら聞いて来る。 嫁のことだ。

「いや、最近は言ってないね」

俺がそう答えると、間髪入れず言う。

「そりゃそうだろう。 言えるはずがない。 毎月10万も支援しているんだよ。 なんの文句がある! 言っておやり」

ばあちゃんが言う。

「ばあちゃん、言えないよ・・というか、言ってわかる奴なら、初めから言わないよ」

俺がそういうと、ばあちゃんも答える。

「そりゃそうだろうけどねぇ・・。 お前の身体がダメだし、その稼ぎ悪い分を補充しているんだよ。 手取りで10万って、そりゃなかなかないよ。 それにそれをどうにかするのが嫁だろうに。 あたしが言おうか?」

「いや、やめてくれ。 終わってしまう」

「そうだねぇ。 あたしが言う時は最後だね」

ばあちゃんが言う。


俺が新聞配達をして、体調を崩し結局はできなくなってしまった。

俺自身では全然稼げていない。

俺が甲斐性なしなのはわかる。

だが、それをあからさまに嫁が言ってくる。

嫁の友人たちは、裕福な連中ばかりだ。

中には富裕層の友人もいる。

そんな連中と自分を比べて俺をなじる。

稼ぎが少ないと・・。

俺には返す言葉もない。

まぁ、いつものことだが。


味噌汁をいただくと自分のリビングに戻ってコーヒーを飲む。

時間は5時30分。

さて、いつもの定番、朝のウォーキングだ。

雨が降っていないとき以外は、20分くらい歩いている。

戻って来て、俺が出した食器を洗い、身の回りを整えていると大体6時20分頃になる。

さて、そろそろ凛か颯が起きて来るな。

そう思って新聞を読んでいると、静かにドアが開いて閉まる。


そぉ~っと、凛が現れた。

「おはよう、パパ」

ささやくように凛が言う。

「おはよう、凛。 身体しんどくない?」

いつもの声掛けだ。

「うん、大丈夫」

「そうか、今日は凛が一番だな」

俺がそういうとにっこりとして、パジャマを洗濯かごに入れていた。

自分のものはなるべく自分でする。

俺の家のルールだ。


「凛、ココアでいい?」

俺がそう聞くと、

「うん、ココアでいい」

凛が答えながら、チョコクロワッサンを1個とヨーグルトを冷蔵庫から取り出して机に持っていく。 チョコクロワッサンは電子レンジで20秒ほどチンしていた。

俺はココアを作って、スプーンを出し凛のトレーに置く。

子どもたちはそれぞれ自分のトレーを持っている。

「いただきます」

凛が両手を合わせて食べる。


すぐに颯も起きて来る。

「おはよう、颯」

「おはよう、テツ」

颯も洗濯かごにパジャマを入れる。

「颯もココアでいい?」

俺が聞くと、

「牛乳!」

ココアじゃなかったようだ。

そのまま牛乳を入れてやる。

牛乳をキッチンにそのまま置いておくと、颯は自分のヨーグルトを作る。

毎日、スプーン1杯のヨーグルトをジャムの空瓶に入れて牛乳を注ぐ。

丸1日でカスピ海ヨーグルトが完成だ。

その繰り返しを習慣化している。

俺もだ。


颯のトレーに牛乳を置いてやると、そのコップに牛乳とコーンフレークを投入して食べていた。


時間は7時前。

凛は食事が終わり、顔を洗いに行った。

颯はまだ食べている。

テレビを見ながら食べるので、少し遅くなるようだ。


優はもう中学生なので、放置に近いな。

俺がベーコンや卵を焼いてやってもいいが、朝からはいらないようだ。

嫁が焼くと食べる時があるが。


優が起きて来る。

「おはよう、優」

「うん・・おはよう・・」

優の後ろから嫁が起きて来た。

「ふわぁ・・・優、ベーコンと卵でいい?」

嫁が聞く。

「うん」

優はお腹をボリボリとかきながら椅子に座る。

嫁が優の朝だけでも作り出したのは最近だ。

それまでは完全に寝ていたからな。


颯は食事が終わって、ランドセルの中身をチェック、学校へ行く用意をしていた。

颯は7時10分頃出かける。

凛は7時25分だ。

颯を見送って、颯の布団を俺が片づける。

凛は嫁が見送る。


優もご飯を終え、学校へ行った。

7時50分頃だ。

俺も行こう。

そう思って用意をして行こうとすると、嫁が背中越しに言う。

「ちょっと・・パパさん。 生活できないんですけど・・・」

「え?」

「ほんっとに、こんな稼ぎじゃどうしようもない。 どっか行って稼いで来い!」

嫁の決まった文句だ。

でも、それを言わせないため、聞きたくないためにばあちゃんが支援しているんだと言っていた。

それにこの家だって、嫁は1円の金も出してないぞ。


前にも言ったことがあったが、逆算してみろ。

家のローンを払って、いろんな経費を差し引かれて手元に残る金を考えたら、俺の稼ぎくらいだろ。

・・・って、それがわかる女じゃない。

目の前の、見えるものだけでしか考えれない女なんだ。

わかっちゃいるが腹立たしかった。

そう思っていたが、もうあきらめた。


ばあちゃんが、もし嫁が一言でも金のことを口にしたらタダじゃおかないよ、なんて言ってたが、毎日愚痴ってますよ。

言えないけどね。

嫁の言葉を聞きつつも、俺は何も言えないでいた。

何と言おうと、それが事実だからだ。

金は稼げない。

仕事をしても、身体が持たない。

ヘルニアになってから、少しきつい動きをすると足が痺れる。

普通の生活には問題ないレベルなのだが、無理はできない。

でも、これくらいの症状では何の保障もないし、どうすることもできないしな。

まぁ、そんなことを繰り返しながら日々を送っている。

嫁もアルバイトで飲食店に働きに行っている。

それで何とかやっていっている感じだ。

でも子供たちの勉強でわからないことは俺が面倒は見れる。

高校生くらいの数学や英語など、勉強ならなんとかわかる。

塾代はいらないからな。


そういえば、前にばあちゃんがいったいいくらくらいあったら生活できるのかを嫁に聞いたそうだ。

30万円といって、言葉を失ったらしい。

「テツ、あんたとんでもない嫁をもらったね・・・」

そんなことを言っていた。

普通、30万なんてないよ。

手取りで10万超えるかどうかだよ。

それで初めて月収30万くらいじゃないかね?

みんなそんなこんなで生活してるはずだよ。

いったいどんな育ち方をしたら、こうなるんだろうねぇ。

そんなことを言っていた。

俺もそう思う。

食費なんて、大人数でも倍いるわけじゃない。

それに、いろいろ切り詰めればかなり削減できる。

嫁は俺が見る限り、無駄が多い。


細かいことだが、水は出しっぱなし、電気はつけっぱなし、テレビもつけっぱなし・・ぱなしの女だな、なんて思っている。

それを注意すると、お前の稼ぎが少ないの連呼だが。


そんな嫁の言葉を背中に受け、仕事に行く。


あまり人も来ないけど、まぁ1日を終えて帰って来た。

17時頃だ。

家に帰って来ると、凛の声が出迎えてくれる。

「パパお帰り~」

「ただいま、凛」

そういって凛をギュッとして凛の話を聞く。

「あのね、凛ね・・・」

学校のことなどいろいろ話してくれる。

颯はゲームをしていた。


嫁はテーブルに座ってコーヒーを飲んでいる。

俺の方をチラっとも見ない。

スマホを見ているようだ。

さっさと子供たちのご飯の用意をしろよな。

お菓子ばっかり食べさせて・・。

「凛、早いけどお風呂とか入る?」

「ダメ、今からは〇かっぱがあるの」

凛にそう言われる。

仕方ないから階段でもいておくか。


嫁のご飯の支度は17時30分頃から始まる。

俺的にはもっと早くしてほしいが、まぁそれでも作らない母親よりはマシか。

そう思っている。


時間は18時。

ご飯が始まり、みんなで食べていた。

優も帰って来ていたようだ。

「颯、ご飯終わったらお風呂行くけど、来る?」

「う~ん・・無理!」

颯にきっぱりと断られる。

「あ、そう。 じゃあ、凛来る?」

俺がそういうと、

「うん、パパ呼んでね」

凛がそう答えると、颯が言う。

「やっぱり、俺が行く!」

「はやて、ずるい! 凛が、凛が行く!」

凛が顔を赤らめて声を大きくする。

「うるさいぞ、デブ! 俺が行く」

「はやてばっかり・・うぅ・・ぅぅ・」

凛が涙目になっている。

「うるさい!」

優が声を出す。

いつものコントだなと俺は思いながら、じゃんけんで決めろと言って、風呂に行った。

どうやら凛が勝ったようだ。


風呂の湯を溜めながら、俺は頭と身体を洗う。

湯舟に湯が溜まって、お風呂が沸きました! と、教えてくれる。

そこで凛を呼ぶ。

ピピピ!

「凛、いいよ」

ピ!

「はーい」

凛の声が聞こえて、風呂にやって来た。


俺は湯舟に浸かり、洗面器をひっくり返して浮かべて置く。

「パパ、凛がきたよ」

そういって入って来た。

「あれ? それなに?」

凛が浮かんでいる洗面器を見つけて言う。

「これは、桶爆弾おけばくだんだ」

俺はニヤッとして言う。

「おけばくだん?」

凛がつぶやく。

不安そうな顔をしながら近づいて来る。

「凛、この洗面器を開けて見ろ」

俺が言うと、

「パパ、ばくだんなんでしょ? いやだよ」

凛が触りたいけど触りたくない感じで言う。

「爆発するわけじゃないぞ。 まぁ開けてみれば?」

そういうと、ゆっくりと凛が開けた。

!!

「くっさ!! パパ、これっておならのにおいだ!」

「アハハ・・・」

そう、洗面器をひっくり返して、その中におならを溜める。

これぞ桶爆弾。

颯や優には喜んでもらった。

凛は初見のはずだ。 そうそうお風呂でおならが出るものじゃない。

結構臭い。

凛も嫌な顔をしていたが、そのうち一緒に笑って楽しい風呂になった。

凛の髪を丁寧に洗ってやり、背中も俺が洗ってやる。

後は凛が勝手に洗って出て来る。

俺は洗うところが終わると、先に湯舟で温まり俺が出る。

「凛、お先に!」

「うん」

そういって外で身体を拭いていると、颯がやってきて凛の後に続けて入る。


みんなの風呂が終わって、残り湯で洗濯をする。

それが終わると風呂掃除だが、俺の役目だ。

何せ、稼ぎが少ないからな。


20時を過ぎている。

「凛、歯磨きをしよう」

凛の歯磨きをする。

「凛、口をあ~・・そうそう、ベロを右上にやって・・・よし!」

凛の歯磨きが終わって、今日は絵本を読む日だった。

凛が本を持ってくる。

「これ読んで」

見ると、カチカチ山だった。

「むかし、むかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました・・・おじいさんはタヌキを捕まえて、そのままその場で焼いて食べてしまいました。 おばあさんは食べられませんでした、おしまい」

「ギャハハ・・・」

凛が笑ってくれる。

何がおかしいのかわからないが、いつもこんな感じだ。

たまにきちんと読んでやることもあるぞ。

トランプをしたりすることもある。

そんなことを繰り返して寝るまでワイワイとやっている。


21時。

子どもたちの寝る時間だ。

凛を寝かせに連れて行き、少し一緒にいて寝させる。

颯も一緒にいて、たわいない会話をしながらおやすみと言って眠り出す。


さて、俺も早いけど布団に入ろう。

リビングで折りたたみベッドを展開させて、用意して布団に入る。

洗濯物は嫁が干すが、俺が寝かかるとパチッと明かりをつけて洗濯物を干す。

・・・この女は、気遣いができないのか!!

って、思ってみたがもう言うのはやめている。

そういえば、嫁はスマホの画面ばかり見ているな。

勝手に目が悪くなれ! なんて思っていたが、俺の方が視力が低下してきた。

PCばかりみているからかな。


さて、今週の休みは凛や颯と公園に行って遊ぶ約束をしていたな。

どんなことをして遊んでやろうかな。

そんなことを考えて眠りにつく。


これが俺の日常だった。

それがある日突然、レベルや魔法のある世界に変わってしまった。



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