四(終).

 ある日、中学時代から愛用しているボロボロのジャージとこれもまた随分昔から愛用しているボロボロのスニーカーを履いたわたしは、S川沿いを歩いていた。週に二、三度のランニングはもう習慣になりつつある。今日はランニングを終えた後も少し体力に余裕があるので少し散歩をしてから家に帰ることにしたのだ。S川はいつもと同じように、朝の陽を反射してその川面をまだらに光らせている。そしてわたしは川下の方向へと歩いて行ったのだが、とある橋の下で奇妙な物を見つけた。水面に黒々と浮かぶQRコードである。しかしわたしはそれを見ても驚くことはなく、ポケットからスマートフォンを取り出して水面のそれを読み取った。突如スマートフォンの画面が真っ白になり、メッセージが表示される。

『ただいま』

『鍵返すの忘れてた』

『明日十四時に来てね』

 今わたしの顔は、おそらく笑っているのではないかと思う。わたしは晴れやかな朝の空気を吸い込んで大きな伸びをし、ごく小さな声で呟いた。

 おかえり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄色いドレスの彼女 中柴ささみ @kame_kau

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る