「小説で弓を扱いたい方」のための弓道講座 乙矢 

阿井上夫

第一回 かぐや様は悪くない。 

 皆様、こんにちわ。

 競技人口の少ない弓道をこよなく愛する阿井上夫でございます。


 特に要望があったわけではありませんが、そういう気分になったので第二弾を作成することといたしました。前回であらかた主要な話は終わっておりますので、今回は軽めのものが中心となります。要望があれば、私が知る範囲でお答えしますので、気軽にコメントでお寄せ下さい。


 なお、洋の東西を問わず弓の話を題材にしますが、和弓以外は聞きかじりになりますのでご容赦ください。和弓に関しては極力正確にお答えしたいと思いますが、そちらの研究者ではないこともご容赦ください。(誤りがあったら遠慮なく指摘してください。わりとメンタル強めです)


 *


 さて、わたくしのハートに火をともしたのは、タイトルからも分かる通り「かぐや様は告らせたい?」(二期)オープニングの弓道シーンでございます。

 いきなりの黒ガケ(「カケ」は正確にな「弽」ですが、環境依存文字なのでカタカナ表記)アップからの始まりに、「おおっ」と思った方が日本の人口の〇.〇一パーセントぐらいいらっしゃるのではないでしょうか。


 で、まずは褒めるべき点が三つあります。


 四宮かぐや様の弓手(左腕)手の内がなかなか良いのです。

 中指、薬指、小指の爪揃えがリアルなのと、若干親指が開き気味ではあるものの、指先が伸ばされている点は、ちゃんと調べてから書いたことが分かるぐらいに、いい感じです。


 それ以上に宜しいのが左手人差し指です。

 この、まっすぐに伸ばしきるわけでもなく、握りこむわけでもなく、微妙に力の抜けた感じの人差し指が実によい。指導者の中にはまっすぐ伸ばすように言っている人もおりますが、この具合は少なくとも三年以上の弓道経験者を思わせます。


 馬手(右腕)の表現もなかなかのものです。

 最近の作品では、さすがにカケぐらいはちゃんと描けるようになってきましたが、その使い方にはまだまだ不正確なところが多い。しかし、この四宮かぐや様のカケの使い方は、中級者ぐらいの上手く力が抜けた状態で表現されています。


 で、全然ダメなところが三つ。


 冒頭で、右腕だけで矢を引っ張っている動きの表現がありますが、これがまずアウト。

 矢を引く際の両腕の力の配分は「均等」か、あるいは「弓手(左腕)主導」が正解です。最後に右腕で引っ張り込むと、弓手との力のバランスが崩れて、離れが弱くなります。


 続いてダメなのが、離れた後の右手の形状です。

 若干、ピースサイン風になっているところから、明らかに手を開いて離しています。微妙なところなので経験者でないと意味が分からないかもしれませんが、矢を放つ瞬間、右手のこぶしは大きく開きません。上級者の離れでは、引いているときとほとんど形は変わらず、親指の部分だけが弾かれて外に出るぐらいの変化しか見られないのです。


 そして、これを書かせることになった最大の誤りは「弓」です。

 上下のバランスが全然ダメ。これでは和弓ではなくモンゴル弓です。握っている部分から下はだいたいよい長さなのですが、上の長さがまったく足りません。

 おそらく、正確な長さの弓で描くと上の空間ががら空きになって、映像表現上都合が悪いので、

「えい、上だけ縮めて画面の中におさめちゃえ」

 と思ったのでしょうが、これは致命的な誤りでした。

 他の部分の完成度が、(気になる点はさらに残っているものの)かなり高いだけに、この部分の手抜きが際立った見えるという、「どうせやるなら最後までちゃんとやろうよ」系の散々な結果になってしまいました。


 かぐや様、離れのキレが悪くないのです。むしろ良いです。

 これなら七割以上は中るでしょう。

 残念なのは日本の弓を使っていないところです。


 リアルタイムで見ることができるので、興味のある方は上の点に注意してご覧ください。


( 第一回 終わり )

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