第670話 憧れの君

「勇太! 結衣がそろそろ目覚めそうなんだって!」


吉報は朝早くにもたされた。それをもたらしたのは白雪さんの親友で仲間のエミナであった。


「わわっ、わかったすぐに行く!」


急いで着替えて俺は白雪さんがいる医務室へと急いだ。


「勇太!」

誰からに知らされたのか、渚もすでに医務室に駆けつけていた。

「もう目覚めたのか?」

「ううん、脳波が活発になってきたからもう覚醒するだろって、話だけど、なかなか目覚めないみたい」

「そっか……」


医務室に駆けつけたのは俺と渚、それにエミナと、白雪さんとゆかりのある三人だけど、直接知ってるわけではにけど、俺たち三人の様子が気になるのか、ナナミとファルマも心配そうにしてやってきた。


少し沈黙の時間が経過した頃合い、白雪さんが眠る医療ポッドに変化が現れた。プシューと油圧が抜けるような音がすると、蒸気のような白い湯気のようなものが噴き出した。


「起きるわね」

俺たちはドキドキと見守る。そしてその瞬間はやってきた。医療ポッドのハッチが開かれる。そしてゆっくりと白雪さんが起き上がってきた。


「ここは……」

「白雪!」

「結衣!」


俺たちが駆けつけて声をかけると、白雪さんは何が起こったのかわからず呆然としていた。

「えっ……勇太くん……エミナに渚……私、夢を見てるの?」

「夢じゃないわよ、結衣、私たち再会したのよ」

「嘘……私にそんな嬉しいこと起こるわけがない」


ここまで白雪さんに何があったかは知らないけど、彼女はなかなかこれが現実だとは受け止められなかったようだ。あたふたとして、混乱している。


「頬っぺた抓ってみなさい、夢じゃないから」

白雪さんは渚の言葉に素直に従い、頬っぺたを抓った。そして、しっかりと痛かったのか、ぽろぽろと涙を流した。


「こら、バカ渚! 白雪、痛くて泣いたじゃねえか! 何やらせんだよ!」

「バカはあんた、いい歳して頬っぺた抓ったくらいで泣く分けないでしょ!」


「うん、うん、痛いけど、痛いのが嬉しいの、これが現実だってわかったから……」


どうやら白雪さんは嬉しくて泣いたみたいだ。悲しくて泣くよりは何倍もいいことだと思うけど、俺たちと再会いしたくらいで泣くなんて、これまでどんな厳しい生活をしてきたんだと心配になる。


「結衣、もう立てる?」

「うん、大丈夫だと思う」


渚が白雪さんが立ち上がるのをサポートする。よろよろと立ち上がると、白雪さんの全身が目に入ってきた。医療ポッド内にいる時は、治療周波などにより曇りガラスのように、中があやふやに見えていて気にならなかったけど、今の白雪さんの格好は体のラインがはっきりとわかる治療用スーツ、ちょっと刺激が強い姿にドキドキしてきた。


そんな俺の反応に気が付いた渚が、強い口調でこう言ってきた。

「勇太! どこ見てんのよ、今から結衣を着替えさすから、ちょっと出てて」

「あっ、うん、わかった」


否定するなんてできるわけない俺は、医務室から飛び出るように退出した。

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クラス最安値で売られた俺は、実は最強パラメーター RYOMA @RyomaRyoma

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