最終話 そして彼女たちは再会する

 ロリエッタが17歳になった。

 ヤンデレ島を離れて一年が経過したのである。


 小さかった背も伸びており、小学生と間違われることはないサイズに成長した。


 自衛隊に戻ってこい、みたいな話はヤマトのみならず、かつての同僚からも毎月のようにもらう。

 しかし、全部断っておいた。


 別の知り合いから連絡があって『後継者を募集しているカフェがあるのだが、そこで働いてみないか。近くに高校や大学があるから、そこそこ繁盛している』と紹介してもらい、三ヶ月くらい見習いとして働いたあと、正式に店長となったからだ。


 決め手はロリエッタの存在だった。

 本人が乗り気だったし、お店で働かせればコミュニケーションの練習になると思った。

 あと、日中ずっと一緒にいられるから、変な心配をしなくてもいい。


 お店のキャパシティーは30席くらい。

 コーヒー紅茶の他、サンドイッチとか、ホットケーキとか、簡単な食事も提供している。


 アルバイトは先代から引き継いだ。

 ヒマな時間帯はイブキ、ロリエッタ、他一名で回して、忙しい時間帯は人数を増やしている。

 平日の16時あたりから急に混むのが特徴といえる。


 この店を自習室代わりにしている学生が何名かいる。

 友達とゲームをやって大騒ぎするとか、マナー違反でなければ自由という方針である。


「フレンチトーストが焼けたのです」


 ロリエッタがキッチンから出てきた。


「ん? オーダーは一皿では?」

「うまく焼けた方をサーブします。もう一皿は自分で食べます」

「ああ……なるほど」


 食欲が旺盛なのは相変わらず。

 その分、料理をつくるのも大好きである。


「お勘定を」


 常連のおじいちゃんが手を挙げた。

 ロリエッタのことを気に入っており、よく世間話をしにくる人だ。


「うちの子がこっちの高校に通っていてね」

「お孫さんですか?」

「いやいや、ひ孫だよ」


 ロリエッタから教えてもらったのだが、90歳くらいのご老人らしい。

 背筋がピンとしているから、70歳にしか見えない。


 わざわざ帽子をとって、一礼して、ご老人は帰っていった。


「ヨイチさんというそうです」

「なんだ、名前も教えてもらったのか」

「あと、これをもらいました。お年寄りには無用の長物だそうです」


 映画のタダ券が二枚。

 お返しにコーヒー券か食事券をプレゼントした方が良さそうである。


 二人組の女性客がやってくる。

 一人はロリエッタと同じ髪色をしている。


「やっほ〜」


 そういってロリエッタの頭をナデナデしたのはアカネ。

 近くの大学に通っている。


「こら、ロリエッタ。口の周りに食べカスがついていますよ。みっともない」


 エリカがハンカチを取り出して妹の唇をぬぐう。


 アカネとエリカは同じ物件に住んでいる。

 住む場所がないエリカのために、アカネが部屋を貸していると表現した方が正しい。


 エリカが家事や炊事をこなす。

 その代わりに間借りさせてもらう契約だ。


「もう大学の講義は終わったのですか?」

「今日は午前だけなんだよ」

「いいな〜」


 ちなみにエリカも大学生である。

 アカネと同じところへ通うため死ぬほど勉強したらしい。


「院長さん、これ、差し入れのフルーツ缶です。実家から大量に届いちゃいまして……」

「その呼び方をされると古傷が痛むな。いつも差し入れありがとう」


 ロリエッタがフルーツ缶を頭にのせる。


「今夜、パパと食べるのです」


 イブキは二人分のコーヒーをれた。


「そろそろ会長も来るはずですが……」


 アカネがそういったとき、ドアのベルが鳴った。


 シオンの登場である。

 相変わらずのピンク髪がまぶしい。


「待たせちゃったかな。少し撮影が長引いちゃって……」


 シオンはコスプレ同好会のサークルに参加しており、学業のかたわら、大学生活をエンジョイしているのが伝わってくる。


「いま来たところですよ」


 アカネが席を勧める。


「鬼竜さんと月城さんは、一年前とあまり変わらないね。三日月さんは背が伸びたのかな」

「そういうシオン会長も変わらないじゃないですか」


 イブキにいわせると、三人とも少し成長した。

 服装だって大人っぽくなっている。


 けれども一番変わったのは……。


「すみません、電車が遅延しました!」


 息を切らしながら登場したのはミク。

 お馴染みのクマさんぬいぐるみを抱いている。


 公立の高校に通う。

 そのために親元を離れて一人暮らしをしている。


「ほら、ミク、お水を飲んで落ち着くのです」


 ロリエッタがコップを差し出すと、ミクはその中身を一気に飲み干した。


「西園寺は昔と顔つきが変わったな」

「そうですかね⁉︎」

「少し凛々しくなった」

「はぅ⁉︎」


 かつて首や腕に巻いていた包帯。

 あれは母親につけられた切り傷と火傷を隠すためのものだった。


 皮膚の移植手術を受けたから、跡が目立たなくなっており、包帯なしでも人前に出られるようになっている。


 ミクのドリンクを用意してあげる。

 ラテアート付きのカプチーノだ。


「今日は高校が終わるのが早かったのか?」

「テスト最終日なので、午後の授業がないのです」


 四人はしばらくお茶会を楽しんでいた。

 お客がほとんどいない時、ロリエッタも話の輪に加わっていた。


 トイレから戻ってきたエリカが、ミクのクマさんぬいぐるみを手に取る。

 頬っぺたをつまんだり、お腹をプニプニしたり、持ち主に隠れて遊びまくっている。

 その数秒後……。


「この子、動きました! 私の頬を殴ってきました!」


 エリカがいきなり大声を出す。


「はぁ? ぬいぐるみが動くわけないだろうが……」


 アカネがジト目になる。


「いや、本当です。明らかな敵意を感じました。絶対に何かいていますよ」

「どうなんだ、ミクっち」

「クックック……この子の名はスピリット・オブ・ファイア……ノスフェラトゥの眷属けんぞくにして、我が生涯の下僕げぼくなのじゃ……世界の半分を滅ぼす力がある」

「マジかよ……魔王じゃねえか……」

「ぬいぐるみを依代よりしろにすることで、彼奴こやつの霊力を封印しておる」

「院長さんはどう思います」


 イブキもクマさんぬいぐるみを持ってみる。


「たしかに……」


 一年前と少し表情が変わっている。

 そんな気がするような、しないような、微妙なところである。


「いや、目の錯覚だろうな」


 デザートを用意すべく、イブキはカウンターの方へ引き返す。


 店の電話が鳴る。

 ロリエッタが対応する。


「はい、カフェ・イーハトーブです」


 理想郷のように安らげる場所になればいいと先代がつけた名前だ。


 みんなで集まるのに便利らしく、ミクたちがお茶会に利用している。


《〜完〜》

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ヤンデレ大戦争! ゆで魂 @yudetama

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