第155話 殺人
後をつけてくる男達がいる。
空間把握で確認したから間違いない。
俺はブラックドッグのクロドと人魚のルアと宿を出て歩いていた。
ここはステキサ、ラースウィフ公爵の領都だ。昨日の晩にジボーと会話した後、そのまま宿に泊まり、朝起きて、朝食を食べて、もうこの街にも用が無いので、出て行こうとしていたのだが……。
追って来るのは二人組で、プロの追跡者では無い。
素人、しかもあまりにも稚拙。ずぶの素人って奴だ。そして弱い、明らかに一般人。
酔っているのか?
ちょっとふらついたりしている。
何だろう?
人気の無い路地に入って振り向くと、浮浪者のような2人組が路地に入って来た。
「俺達に何か用か?」
「くくく、つえ、杖を寄越せ」
狙いは水竜の杖か。
「断る!」
毅然とした態度で断り、浮浪者達を威圧する。
「ひ、ひい、寄越せよぉ……、頼むよぉ」
「はぁはぁはぁ、その杖を持っていかないと……」
「持っていかないと? どうなる?」
俺は半身に構えて戦闘態勢となる。
ルアは水竜の杖をぎゅっと握り締め、クロドは、「グルルルル」と唸った。
「はぁはぁはぁ、寄越さないなら……」
浮浪者の一人が震えながら剣を鞘から抜き、鞘を捨てて剣を構えた。
「寄越さないなら?」
「こ、こうだあああああああ!!」
ズシャ!
「ぎゃああああああ!」
浮浪者は剣を振り上げると隣にいたもう一人の浮浪者を斬りつけた。
はぁ? ナニコレ?
血を流し崩れ落ちる浮浪者。
即死なのは間違いない。
「はぁはぁはぁ」
剣で隣の男を斬り殺した浮浪者は、まるで汚い物を捨てるかのように両手で持っていた剣を投げ捨て、
「助けてくれええええええ!!!」
そう叫びながら脱兎の勢いで逃げ出した。
ドウナッテンノ?
俺達は唖然として、その光景をただ見ていた。
暫くすると誰かが俺の肩を叩く。
振り向くと、そこにいたのはジボーだ。
「拙い事になりましたね」
「な、なにが?」
ちょっと動揺しながら尋ねる。
「恐らく、殺人で指名手配されますよ」
「ナンデ? 俺は何もしてないけど」
「逃亡を恐れて、既に門の前には大勢の衛兵が検問を始めていました」
「はぁ? 早すぎない。今殺されたばかりだよ」
「準備していたのでしょうね」
「はぁ、そうかぁ。……ところでジボーさんは何か用事があったの?」
「……このまま貴方達が門に向かうと面倒な事になりそうだったので教えに来ました」
「おお、有難う」
「それと、我々はステキサから撤退する事にしたので挨拶ですね」
「撤退?」
「はい。五悪のトヨシモとアラクネにやられましたよ。どうやら我々は游がされていたようです。我々の仲間達があっという間に倒されました。ユウマさんもお気をつけ下さい」
「あ、ああ。注意するよ」
「では、また何処かで」
ジボーはそう言うと透明になって足早に離れて行った。
何だか面倒な事になりそうだな。って思いながら、空間把握を使って確認すると、大勢の衛兵達がこっちに向かって来るのが分かった。
「ルア、クロド、転移で帰ろうか。暫くはここを離れていたほうがいいな」
俺とクロドとルアは転移でダンジョンに飛んだ。
「はぁはぁはぁ、殺人犯はこっちです!」
先程、逃げ出した浮浪者と衛兵達が路地に来た時には、ユウマ達の姿は消えていて、そこには一人の浮浪者の死体だけが残されていた。
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