解決編

「つまり答えとしては火災が発生した、この際殺人は問題に成らないわ、どうやって火をベッドに付けるのかを考えないと、証拠としては画用紙とガムテープが捨てられていたとの証言があってそれだけでは火はつけれないと言う事よ」


「どう言う事?」


「画用紙+ガムテープ+[X]=火災、詰まりは[X]と言うピースが1つ抜け落ちているのよ」


「ピース?ピースって何?」


「大きくは無いけど簡単にごみの日に出しては処分出来ない物よ、海外から取り寄せた筈だから必ず何処かに足が付いているわ」


「……解った」


 彼女、月影真夜子は確信している様子だった、私は幼い頃から真夜子を知っている、失ったモノの変わりに神様からその才を与えられたのかも知れない、いや、その言い方は真夜子に失礼だ、真夜子は努力で今の生活とその能力ちからを手に入れたのだから。



***



「有ったわ真夜子、何件か転売を繰り返してコインロッカーに届けさせたみたい」


「逮捕状を取ったら麗子さんに聞きなさい、何処から海に棄てたのかって」


「小島麗子は画用紙やガムテープは海に浮くと思ったのかしら?」


「ええ日向、確かに丸めた画用紙も剥がしたガムテープも燃えるごみに出しても不振な物では無いしね」


 真昼亥日向は決定的な物証を掴んていた、容疑者の女小島麗子が監視カメラの無い古びたコインロッカーの近くに映っていた映像からコインロッカーを特定、そしてそこに訪れたであろう人物を1人1人追跡し最初の購入記録までたどり着いたのだ、それは月影真夜子には決して出来ない足を使った捜査だった。



***



 鑑識が実験を試みる、まずは画用紙をかなり浅い円錐形に丸めガムテープで止めそれを強度が出るまで繰り返し重ねる、そして外国製の[]をその円錐にガムテープで張り付けていくのだ。



 そう、[X]=[レーザーポインター]、詰まり画用紙はレーザーポインターのレーザーを収束させるレンズ、[画用紙レンズ]だったのだ。


 鑑識は見事に容疑者小島麗子のマンションの部屋から被害者中村直樹のマンションの部屋を狙い火災を発生させる実験に成功した。



***



「日向、動機はなんだったの?」


 真昼亥日向は推理の確認と一緒に食事をする為に月影真夜子のマンションを訪れそのまま泊まっていた、一眠りした彼女は取調べでの疲れもとれ真っ黒なショートヘアの寝癖を直しつつ話し始めた。


 ハア……


 真昼亥日向はため息をつく。


「どうせ解ってるんでしょ?」


「それは推理ではなく憶測に成るけど良いかしら?」


 真昼亥日向は「どうぞ」と手のひらを差し出す。


「たぶん婚姻を断られたんじゃ無いかしら?」


「何故そう思ったの?」


 真昼亥日向は月影真夜子の推理力に嫌気がさしたように天を仰ぐ。


「麗子さんはマンションを買おうと言い、直樹さんはマンションを借りると言った、麗子さんには結婚の意思があり直樹さんには無かった」


「彼女その話をした時、取調室で泣いてたわ」


「なんで?」


「真夜子、貴方はもう少し普通の人の気持ちを理解した方が良いわよ」


「そう言う心理は日向に任せるわ♪」


 月影真夜子は恋愛は苦手とばかり少し笑う。


「真夜子が頭使って私が足を使うみたいに?」


 真昼亥日向は足を使うこっちの身にもなってよと嫌みな笑みをするが彼女にこの嫌みは通じるのかは解らない。


「ええ、だからお願い、事件も解決したし今日はハムエッグの気分なの」


 嫌みは通じていない。


「OK、フライパンは任せてちょうだい!」


 月影真夜子は子供の頃にハムエッグを作ろうとして袖を燃やした経験があった、それ依頼フライパンは真昼亥日向の担当だ。



 月影真夜子は探偵である、正確には警察の犯罪心理アドバイザーで大学の准教授であるが彼女自身が探偵を名乗っているのだ、何故ならば彼女は犯罪心理学を駆使して警察にアドバイスをするのでは無く、事件そのものを推理して解決に導いてしまうからだ。



 そして真昼亥日向は月影真夜子の為に今朝もハムエッグを作るのだ、目の見え無い彼女がまた袖を燃やさない様に……。

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名探偵は事件現場に足を踏み入れない。 山岡咲美 @sakumi

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