或はカササギ釣り

或はカササギ釣り

　或はカササギ釣りであったり、雨の日の旅行、よく煮えた酢を沼に沈めること、パウンドケーキの凝固した砂糖、糖衣錠、幻日、コーヒーに入れたまま放置されたスキムミルクであったりするわけだ。気味が探し求めてしまうもの、物悲しいなどと分類されがちな駅舎の喧騒、人工的な不調和、其れは往々にして意図されたものである……などが霧や靄、煙霧などで表記された塵肺を埋めることとなる。歩くときに意識しない不穏や不吉さが探し求められることを拒絶するように戸を閉ざす。そのようなありさまを間近に観察すること。できるならば、ふるいにかけないこと。ささやき声を見ること、標本、死体で埋め尽くされた箱の博物学。朱鷺にそのような形式であるとは意図されなかった形式的な法則性。出来事をよく見ないこと。星に重ねること。平原を整地するときの、灌漑の痕跡に目をつぶるような、星図を透かして見た際の自由連想的精神力動的な機微でもある。かかわりのない二重の連鎖を留めること。カーブミラーに留意し、歩行者の横断に留意し、左折時巻き込み事故に留意し、繰り返されるモチーフに留意する。または目玉焼き。卵焼き。日が暮れてしまうから、それを熱中して行うことは、もっしくはこうも言うだろう、愚行に没頭することの高貴さは、不可解な価値の断片的な証人になり、裁判の席で証言台に立つ、うつむきながら。できるならばもう少し、送であるような在り方がしたかったのかもしれない。卵白のふかふかとしたクッションに沈めた陰鬱な思いが、日の出とともに部屋を明るく照らし出して私を盲いたものへと押しやるのだから、同様に確からしいことは、無事では夜を迎えられない関心事の不在かもしれないし、または…………木の葉を気取った貴人の見栄えの悪さかもしれない。合意のない一致と、心肺の不全症。あなたが置き忘れた契丹族の刺繍細工に、書き込まれた急用だったはずの暗号はのすたるぎーすら呼び起こさない。ここでコーヒーをまぜます。人間の腰椎、仙骨、腓骨を割りさいてかがり火にくべます。塩を焼きます。なぜなら不純を聖性として呼び覚ますから。かわらけの上で煮える塩を眺めていると、さながら時間を忘れる心地がしますが、されどもこの場には人身事故も赤字路線もありません、ただ荒漠たる更地が、建物の建設も知らずに何年何十年と待ち続け、しまいには疲れ果ててしまうように、ものどもはみな精彩を欠き、日暮れ時の場違いに明るい局長の防災行政無線の試験放送のように、落ちてゆく、十日間の苦行へ、断食の月へ、もしくは、必ず魚を食べる金曜日へ、肉食の禁止へ、人身事故の禁止へ、発話の禁止へ、死のような静寂は一般に歓迎され、しかしそれほど多様な色彩は含みません、なぜなら、日本工業規格に限度があるから。十勝支庁のいささかカワセミを見る時には、機械的な損害を感じることもほとんどありません、見てください、あれがぼや騒ぎを繰り返した河内庁舎です。見てください、あれが塹壕戦を繰り返した根室です。見てください、あれが製鉄として楽手される室蘭の港です。執拗に繰り返すことになるあるしゅのパターンを日陰にしか生息できない裸子植物は知らないので、ここからは阿武隈川がよく見えます。国道４号線のバイパスもよく見えます。月明かりに照らされたたいそう幻想的で美しい非合法がよく見えます。魚釣りではない。

　場合によっては、そうだね、卵黄を買いに行かないとなあ、と俊彦。彼岸花の時期ではあるし、と幸則。参加不参加は十日前までにできる限りもちろん唐突なスペイン継承戦争などに見舞われることもあり得ますから、急な戦争の際にはすみやかに命を守る行動をとってください、緊急的な判断が求められます、冷静に考えて無理だとおもいますが、冷静に考えて、冷静に考えることは過ぎたる予兆かぜいたくかと思われますが、不可能性の如何は置いて、ご連絡いただけると、と菱原はのべる。パンケーキが冷え切ってしまうと木口が言う。誤植ばかりのこんなご時世に失敗したと野崎が述べる。醤油を確認の上書状は16日消印有効ですと虚数がのべる。実現性の低い人称代名詞であればよいのに、そうではなかったのがこの国の悲惨さの端的な氷原である、と武崎は述べる。「え、でも３時間半の上映予定でしたよね、いま17時ですけど７時ですけどこれだと終電には間に合うがそれだけですが……」と石内は述べる。この先幅員減少立ち入り禁止、と看板が述べる。駅構内でのおたばこはご遠慮願います、と平口が述べる。それでも完成していればもっとましだったという保証はどこにもないんだと梛野は述べる。気味が悪い晩のこと、その城の外では悪疫が蔓延し、その城の内では不条理な汚職と腐敗が蔓延し身も心も腐りきった不道徳な都市はやがて没落する。おれはかまわないさ、どんな晩であっても、奇矯さはふるまわれた魚料理の皿くらいの意味がある、しかし状況証拠は何も語らず、何も演じず、何も示さず、何も秘さない。意義と意味の両立を掲げて袋小路にて終わることだけ待っていても、兵糧攻めにあう人間どもの主体的な悪辣さが見物できるだけ。ここから出かけなさい。聖別されたヒ素は透明な音さの下でいうだろう。どれほどの健全が満ち溢れては犯罪的に蔓延しただろうか？　カナリアの破裂した痕跡がいたるところに見られても、天使も踏み入らないような暗澹たる坑道掘りはできなかった。そうできなかったんだ、いうなれば平等さを主張するように、できない理由はどこにもないからできなかったんだ、うすら寒い春の日のこと、できなかった時計台の判別が失敗したのに、どうして見ないふりをしてここに小夜曲を並べないでおいてくれ。

　でもそれも日が浅いときてる。病的な不安、違和感。柏から市川まで。武蔵小杉駅から新青森まで。好きなだけ乗り継ぐといいんだ、君が顕現させたため。できそうにない。

　それが総員の意図か。堪えられそうにないのに？　

貴下の口から聞くこともまた、ない。失敗したのだろう、転々とする廃墟を誇る自意識の俎上で、失くしたものを忘れていく。会話文の対をなしていないとあなたは述べた？　どこからが崩壊した尊厳だったのかなど、知れたものではなく、知れるものでもなく、去りゆくものは沖合で見送られ、それが祖霊か、それが動植物か、工業的な製造による。あなたの表記はあなたに随いあなたの正気はあなたに反する。そうだろうよ、まだみたことがないのだから。いることが悲しいのかいつからかわすれたが毀損された観覧車の蒼白さを称揚することは最後までないだろう、人間が、陽の光が、笑う、恨む、なくなりはしなかった常用された躁鬱がまた意欲を嘔吐して、時間に戻ることもなく、ただ、無駄に詰め込んで吐くだけのルーティーンが、どちらまさですか？　見掛け倒しの症候群、描きながら気持ちが悪いと思う、場所、時間、体裁、強迫的に詰め込まれた具、悪夢のようなエントランスの方角と色彩、掛け値なしの露悪趣味。

　もうペテルブルクにでもいたらいいのに、なぜ？　ないからだよ。ばらまいた怨恨をしかと眺めている午餐は今日ではないのか？手早く片付ける必要性から、多少の瑕疵は見落とすことにしたのかもしれない、意図的な過誤と水道水を飲んだり呷ったりするらしく、電話口で常に不快な環境音を鳴らすので、健康的な感情表現を身に着ける際の参考にしたい。セイコーマートで牛乳を買う。デイリーヤマザキで信仰心を買う。セブンイレブンで臓器を補い、ミニストップで皮膚をまとう。もうこんな時期なのか、川辺で人間たちを並べて葬っている、市議の鳴き声はなく、断頭された死体置き場に彷徨う蛙たちの畸形を見て、もてなす、産業、姻族の名前、白昼堂々とかさばる自尊心は白けている。豆腐を足してくださいとガソリンスタンドで告げる愉快な衒奇的な衒学的な悄然とした衰退をはらんだ公平さに付け込んで睡眠薬をよく売る商売の、千鳥や水鶏、瀬に並べば、柿の木の落とす影が深夜のようなしらじらしい罪悪感、回復は遠く、またしても人間になり切れなかったことを謝罪している。見ないふりができなかったから、何もかも焦がしてしまう。皿の上にはヨハネの首、右足、などが並び、よい行方不明を並べます。文字盤に寝そべっている時間帯の行方を考える。それは北緯４３度くらいに位置する市街地の東側の曲がり角から来たものだ。あしざまに言うことなどない、おとなしく品行方正な時間帯。いまも縁側で茶を飲んでいる。煎茶よりは玉露が好きだといま博物館にある図鑑にはある。しかし狭山茶をおとなしく飲んでいる。時間帯はしかしそういうものなのかもしれない。生きていることの定義が難しいゆえに生き物と呼ぶことはためらわれるものの。

　品詞を片付けに行くと倉には敷物と石川の死体があった。健常な死体は今日も元気に腐っているようで、蔵を開ける前から腐臭の片鱗が鼻を突いていたわけだが、蔵を開けるとまさに腐臭で溺れているような状態となり、いられたものではない。おい、石川、お前はほかの場所へ行け。そう声をかけると、多分腐っている体液と組織、異臭を引きずりながら近隣の山林に向かって歩き出したので早晩食道楽とはいいがたい気にさせる悪事来な狗狸のえさとなるだろう。私は切り分けた。私は切断した。私は分断し、分割した。細かい片へと返し、廃タイヤとともに燃やしたいくばくかの年齢を問わない死体に比べたら石川は聞き分けのいい方だと思う。自分でも意味など分からないだろうに、腐った脳と作用しない声帯で燃やされながら阿含経を読経していた１６歳くらいの少年の死体に比べたら、はるかに扱いやすい。昼間も夜も久しく久しぶりに……。かくのごとき惨憺たる結末。コーヒーと熱源の区別もつかないなんて何が考えた？　そこで哨戒、十全に、ひるんだ終わりだ終わりか？その先の規範意識をもてあそび後悔ばかりは両手に負えない、なにもかも市街の道連れエレキギターできるわけない人間風情に死体に成り代わるか？確認するか？　時刻表が明らかに溶ける、もう５時だから。謙遜が手招きしている時刻表の乗り場のせせらぎ変わりはいくらかは倉庫にあった気がするから使えなくもないな、だから、恐慌した審判の手の上で欺瞞が安らかに眠る危機意識、上気道炎、口蓋に任せた認否の調べとかどこにあげましたか、それがあなたの答えならそうだね、次は確かに信奉できない対象を隠そうか、なに、かんたんなことだ嘴の先はまだ翡翠だから。無意義な。

　四六時中消えることをのぞむ美しさへの形象の消えた先の墜落した放送が叫んでいたかった、よく面識のある声だから、食事が冗談の余蘊抽象的だとしても笑っていられたんだ、文盲の、その来訪への、そこへ陥ることへの漠然とした恐怖、或は発狂への懸念は無きものにはならない、声のする方がトンネルの羅針盤だと誰かが言った、その誰かは私が作り上げた幻想としての神、或は唯一の頼りない秋雨もしくは不法投棄された信仰心の成れの果て、聞いていたか、聞いたか、おい、妖怪の類かあるいは物言わぬ死体か、死体の神はあきらかか、定年を植え付けられた路線の上でただ、遺志を失わないことをかろうじて保つ夏の午後に、見分けのつかない錯乱を取りこぼした、機械的な希死を遠くに置き忘れた私は残響に過ぎないそうだろうか？　全般的な軽薄さいい加減さ軽はずみな行動、できそこなった文章やオムレツを並べて、食事の風景は望むほどのものなのかを確かめようとする、そんな無駄足をする手間があるなら己の頭蓋を打ち抜いていろ、化膿、すべて間違えた陰湿、暗澹、紹介しうるほどでもない落第点の人格者の蒼白な美辞麗句、そう求めたのなあそうあるような類の、いかようにも解釈可能な暗号、その実は空白、断頭台のジョーク、自滅している点灯、高架、わからない。経口摂取する食事が信じられないという顔で笑った。でも私は、私は……。

　この前は人間だった。それから果たしてキチガイか白痴になったのだと思う私の発狂への落ち込みというような泥沼はますます悪化している。正しくないことが明るみにでる記号的な原動を繰り返して罪悪感の晴れの日に、抵抗なく並んだ品々とされこうべに見かけよりはましなものなどいくらも、いや、一つも見いだせなかったのだから明日が期待されない不動産のようにただ、茫洋としているのもむりはない。とはいえ実態を騙ることは大変な苦痛を伴うことだろう、現実的に脳裏を焼く勝敗は決した悪辣な事実だけが表彰台で確固とした権威を誇らしげに掲げる、誰の紅茶だろうか、確かめもせずに、そう事故のような人間だった、この場にいないだけで、細切れ神経網はもういないから、列車を乗り継ぐことにも厭いている、夕日、悲観、其れに嗜癖して、倦怠感がいくらでも取れない。確かに際限なく。規範的に書き記す暴発した現実の瞳の腐敗、みたのか？　時に音楽は辛らつなうつ病だ、疎外され忘れられた心電図の虫食い、嫌いだった食材の破片の波形、偏執狂、その場所から離れられない陰湿なうつ病だ、情景に反射的に電車の窓から眺める景色に気落ちした無作為の写真を重ねた、雲英のちりばめられたその仮の写真は言葉から逃れる、逃避行において逃避しているという以外に意義も意味もない、何から逃れようと、何処へ行こうと、逃避に浸ることだけが救いだろうそうかかき回す肉片線路上に掃除もされないで腐敗するに任せたカラスに蛆にハエにシデムシにその他の多くのあなたが名前に興味がない肉食昆虫に肉片を分け与える分け与えよ、肉片が散乱している新御茶ノ水駅周辺の古書店の景観肉片、小豆色のうららかな瞳ももう遠くを見かけることはなくなる肉片人間の肉片乖離した肉片分断された肉片消耗した肉片我々はなべて消耗品だつややかな、あるいは表面が乾いた、或はねる間も惜しんで不快感をあらわにした肉片散乱する筋肉皮下組織真皮表皮筋膜心房肺の原型のない肉片骨片再開する恋人のような微かな不安の肉片悲しみのない肉片有利な肉片きらびやかに聞かざる文句を携えた肉片交通事故で轢き潰された様子もなく切り分けられた人間どもの消化器官が鮮やかな脂質をあらわにしてストリッパーをする肉片代謝される肉片言論の肉片延々と、ただその首を頭部を頭蓋骨までをも切り分け、半壊、大規模半壊した人間の修復されない肉片の、挽き肉、まるで粗挽き和牛のふっくらジューシーハンバーグのように肉片たちは歌い踊るかのようにただ静謐にそこにいることが許される肉片勘違いされない肉片血液の陶酔に浸る肉片たちの詩歌よ、奏でるには遠くオルフェウスはミンチのなかで立ち尽くす幽霊のように現実味のないあり方しかできないが見るといい、肉片の圧倒的な事実を、殺すためのない肉片の肉片肉片肉片肉片お前を確かに解体したのにまだ血を求めないのかそうか晴れやかな肉片の装丁。