第3話 三本目
店の中を見回すと、様々な時計がある。よく見てみると値段も様々だ。
「あれ格好いいな。いくらくらいするんだろ…いちじゅうひゃくせんって10万?!」
桁がおかしい時計に怯えてあまりウロウロせずに大人しくしていることにした。
「お待たせ。何か良い時計あった?」
ご機嫌な杏さんが戻ってきた。余程時計が好きなのだろう。
「な、なんか良いなって思ってたやつがトンデモナイ値段するんですが…」
「まぁ私達世代には高額よね。腕時計の価格帯は様々だから。そう思ってお手頃な物選んできたわよ」
杏さんがトレーの様な物に時計を乗せて運んできてくれた。お手頃と言いつつ綿手袋をしているので高そうに見える。
「とりあえずSEIKO、CITIZENのを1本ずつ持ってきたわ」
「その2つは流石に聞いたことあるな。教室の時計とかさ」
「日本の有名な2社ね。他にはORIENTとか、未来君のG-SHOCKのCASIOとかが有名かしら」
左腕のG-SHOCKをよく見てみるとCASIOの文字があった。いや、知ってましたけどね。
「ところでどんな時計か見せてもらってもいい?」
「そうね。まずはSEIKOから。機械式時計のプレザージュという時計よ。」
杏さんが最初に見せてくれた時計は、シンプルな、しかしとても綺麗な文字盤の時計だった。
「シンプルな三針とデイト表示だけね。ダイヤルの色も白か黒を選べば社会人になっても使えるわ」
知らない用語が沢山出てきて戸惑っていると、ごめんごめんと説明してくれた。三針とは時分秒のそれぞれの針のことでいわゆる一般的な時計の構造のこと。デイトとは日付表示のことだそうだ。ダイヤルとは文字盤のことらしい。
「なんかキラキラしてアクセサリーみたいかも。格好いいね」
カクテルをイメージしたダイヤルが綺麗なのよ、と更に補足してくれる。時計のことになると少し早口になるし沢山喋ってくれるよな、杏さん。
「試着させてもらって気付いたけど、少し重いかな? 気になる程ではないけど…」
「機械式は少し重量があるかもね。あとケースも少し厚いかしら」
ありがとう、と試着した時計を返した。もう一つの腕時計も試してみたい。
「こっちはCITIZENだっけ。わ、軽いなー」
もう一つの腕時計を持ってみると、先程のSEIKOの物より明らかに軽い。
「同じ金属の時計に見えるけど、素材が違うのよ。それはチタン製だから傷にも強いし軽いわね」
チタン? なんか格好いい響きだ。
「さっきのと比べると、ケースが薄いかな?」
「そうね。CITIZENのはソーラー電池だから機械式より少し薄いわね。」
「ソーラーは魅力的かも。ずっと電池交換要らないんだよね?」
「それはちょっと違うわね。ソーラー電池は8〜10年で交換になってしまうのよ。それまでは電波ソーラーだと時刻も正確だし充電しながら使えて便利なんだけれどね。」
ソーラー電池もいずれ交換が必要なのか。ちょっと残念。
「うーん、デザインはさっきの方が好みかも? ちなみにお値段はいくらくらい?」
「SEIKOプレザージュは約5万弱ね。ちなみにこのCITIZENアテッサも同じくらいよ」
5万?! 想像以上のゼロの多さに内心パニックになりながらも、ポーカーフェイスを装う。
「うーん、5万か…。ちょっと考えるね」
「あら、ごめんなさいね。予算はちなみにいくらくらいで考えてる?」
「そうだな。2〜3万円くらいであったりする? やっぱり安い時計は質が悪かったり?」
「全然そんなことないわ。上を見ればキリがないしね。どこにお金がかかっているかの違いかしら。安い時計の方が精度が良いなんてザラなのよ」
自分の気に入った時計が1番よ、と杏さんはにっこり笑った。
「希望の価格帯の時計を持ってきてあげる! まだ時間大丈夫?」
申し訳なさを感じながら、杏さんの優しさに甘えることにした。店内には沢山の時計があっていつでも時間を確認出来るけれど、今日は気にせず楽しもうと思った。
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