第2話 二本目

 正直僕は時計は全部電池で動いていると思っていた。この左腕に巻き付いているG-SHOCKも少し前に電池交換をしてもらったのだ。


「この間こいつは電池交換してもらったよ」


 僕は左腕を差し出した。唯一持っている、あんさんがDW-5600と呼んだG-SHOCKである。


「それで、クォーツ式と機械式ってどう違うの?」


 そう質問しながらカウンターの椅子に座る。杏さんがゆっくりしていいと言うのでお言葉に甘えることにした。


「クォーツというのはそのG-SHOCKのように電池で動いているものね。2〜3年で電池交換が必要になってくるわ。他にもソーラー充電のものがあって、よく電池交換不要とか謳ってるわね」


「電池交換不要なの?! 僕はそれが気になるよ」


 腕時計の電池切れがわずらわしいと思っていたところだ。


「電波ソーラーの時計は確かに便利よ。時間は正確だし」


 わかるわかる、と頷き杏さんは腕を組んでみせた。その後、微笑みながらじっと見つめてくる。


「でも、そもそも電池が不要な時計って魅力的だと思わない?」


「電池が不要? そんな便利な時計があるの?」


 杏さんが見つめてくるのが恥ずかしくて、ショーケースの時計に目を逸らした。


「男の子にわかりやすく説明するには…そうね。クォーツの時計がラジコンで、機械式の時計がチョロQかしら」


「チョロQってあの後ろに引っ張って手を離すと動くやつ?」


「そうそう、あれって電池で動いていないでしょ? ゼンマイを巻き上げて動いているのだけれど、機械式も一緒ね」


 どうやら杏さん曰く、機械式の時計というのは電池すら要らないらしい。


「電池が要らない分、止まってしまったときに時刻合わせをしたりするんだけど。その手間が楽しいのよね」


 杏さんは今まで見たことないような笑顔で腕時計を眺めた。クラスの大人しい系女子だと思っていたけれど、結構喋ると明るいじゃないか。


「そうそう、未来君の希望の時計を何点か見繕ってあげるわ。もう少し待ってて?」


 そう言うと楽しそうに杏さんは立ち上がるのだった。

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