腕時計は何にする?
睦月
第1話 一本目
4月から大学生になる僕は、バイトに励んでいた。力自慢ではないので、コンビニの夕方のシフトや個人料理屋で働いていた。
これらのバイトの良いところは制服がある所である。身なりというかお洒落に無頓着だった僕はバイト中はそこの制服を着れば良いので大変助かった。
4月からはそうはいかないらしい。毎日私服を着るのだ。非常に苦手なのだけれども、今はスマホがあるので色々調べる事が容易い。
『大学生の服装』と検索してなるべく無難且つ安価な物を調べまくった。こういう時の為にバイトを複数掛け持ちし資金作りをしたり、同年代のバイトの人達の服装をこっそり参考にしたりしていたのだ。
優しいバイトの先輩達は、お下がりのChampionのスウェットやadidasのジャージをくれたりしたので、買い足す服を吟味して予定より安くすることができた。
買い物しているところを友達に見られたくない(あまりお洒落に詳しくないのもある)僕は、一人で買い物に出かけ、無事に大学生活を送る為の服を一通り買い揃えて満足して最寄り駅に帰ってきた。
思ったより楽しかったしお洒落も悪くないな、なんてもう気持ちは既に自称中級者みたいな感じでフワフワしながら帰路につく。
お店のショーウインドウに映る自分の姿を見て、今日買った服達を着る妄想をしてみたりしていた。
「ん? なんか格好良い時計が並んでるな」
駅前のお店で時計屋なのは知っていたが、普段使いのG-SHOCKで満足していた僕は正直時計に興味が無かった。
そろそろちゃんとした時計をした方がいいかな、とその時僕はふと思った。
この時点の僕の知識では、ちゃんとした時計というのはベルトや時計自体が金属の時計の事である。ほとんど時計に関する知識は無いのであった。
『
「あれ?
見覚えのある店員は、中学時代の同級生の杏さんだった。2年間同じクラスだったこともありそこそこ仲が良い。
「いらっしゃいませ、
杏さんはびっくりした様な表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。同窓会ぶりという言葉通り、以前行われた中学の同窓会では結構喋っていたので思わず嬉しくなる。
「うちが時計屋なのよ。たまにこうやって店頭に立ってるの。もしかして私に会いに来てくれたのかな? なんて少し思っちゃった」
杏さんは照れ隠しのように笑った。杏さんとは隣の席になったこともあり、中学時代はよく話していたことを思い出す。
「外から見てなんか良いなって思って気が付いたら入ってたよ。杏さんも4月から大学だったよね?」
「そうだよー。県内の通える所にしたわ。こうやってお店のお手伝いも出来るしね。大学生活用の新しい時計をお探しで?」
「そうなんだよ。ずっとこれ使ってたからさ。ちゃんとしたやつが欲しくなって」
どれどれ、と杏さんは僕の腕に視線を向けた。
「あら、DW-5600じゃない。定番モデルだしどんなコーディネートにも合うと思うけど」
私G-SHOCK結構好きなのよね、と杏さんは僕の時計を見て呟いた。
「なんていうか、もっとこう大人っぽいのが欲しいんだよ。金属の時計っていうの?」
「金属ケース、ブレスの時計がいいのね。まぁG-SHOCKともう一本あってもいいわね」
「そうそう! 何かオススメないかな?」
時計屋の店員にオススメを聞いてみる。合理的であろう。
「オススメしか置いていないのだけれど、そうね。クォーツでいいの?」
聞き慣れない単語が杏さんから飛び出してきた。
「へっ!? なんて?!」
「ごめんごめん。未来君、まだ今日は時間ある? ちょっとゆっくりしていきなさいよ。えーっと腕時計の駆動方式はね、電池で動くクォーツ式とゼンマイで動く機械式の大きく2つにわけられるの」
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